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xross adventure   作者: 鬼々崎うらら
1:atomic runners;rewite
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悪討ちの悪の二度目⑮

悪討ちの悪の二度目⑮


蹴破られた木製のドア、その向こう側へ飛び込まんとするように、賢治とアヴァは"学院事務会長室"へと突入する。

蹴破られた木製ドアは呆気なく開き、学院事務会長室の中身が顕になった。


...カーテンが、閉められている。

室内は、静寂と暗黒に包まれていた。


はっと、何か恐ろしいことに気付いたように、賢治は学院事務会長室から退き、廊下側へと出て、すぐさま隠れるように横に避ける。

つられて、アヴァも賢治の後に続こうとする。

が、その数センチ真横を。


とてつもない殺気を帯びたような"何か"が、とんでもない速度で空を切って飛んできた。


「ひぇっ!?」

アヴァの口から、変な声が漏れる。

アヴァには一瞬何かは分からなかったが、飛んできた場所から一歩早いタイミングで廊下側に出て横に避けていたため、辛うじて"何か"に衝突せずに済んだ。

とんでもない速度で飛んできた"何か"は、賢治たちが避けた廊下の壁側とは逆の窓側へと突撃し、甲高い音を上げて窓ガラスが散乱する。

「な、なななな....何なの今の...」

一瞬の出来事で、驚きのあまりに壁に張り付いて体がこわばっていたアヴァは、へなへなと床に座り込んでしまった。

賢治はすぐに走り出し、さっきまで立っていた学院事務会長室の入口に滑り込む。

腰にぶら下がっているホルダーから銃を抜き、ギラギラとしたそれを室内の暗闇に向けるまでーーーーー、僅か二秒程であった。

一瞬。

空気全てが凍りつくように、その一瞬、周囲が時を止めたような静寂が訪れた。



「出てこいッてンだよ、アルヴヘンテよォォッ!!」



憤怒を孕んだ賢治のその叫びは、時を止めたような静寂を一瞬にして玉砕した。

床に座り込んでいるアヴァが、驚き怖気づいて目をきゅっと閉じる。

そして、嵐が通り過ぎた後のように、そこに再び静寂が訪れた。


賢治が叫んだ学院事務会長室からは、何も返ってこない。


だが、その暗闇から"何か"が飛んできたのだから、当然何かしらが潜んでいる。人間であれ動物であれ機械であれ、そこに投げ手がいなければ"何か"が飛ぶことはまず無い。

賢治は、長距離に物を投げられる能力の持ち主がいるかと疑ったが、その可能性はありえないと確信する。

カーテンでつくられた暗闇空間の方向から"何か"は飛んできた。遠隔地より能力によって投げられた"何か"であれば、普通はカーテンの向こう側から突き抜けて飛んでくる筈であるためである。

よって、'この部屋に誰かがいないとおかしいと判断した'。

しかし、この暗闇空間で辛うじて視認できるものと言えば、廊下側の光で照らされている奥の方の黒カーテンと木製デスクだけで、室内の左右は真っ暗で何も確認できない。

「...ダンマリかよ。それでもこの学校の総責任者なのか、テメエは?」

賢治は煽るが、それでも返事は無い。

一つため息をついて、賢治は面倒そうに頭をポリポリ掻く。

「ありえねェ話だとは思うがなァ。一つ聞け」

暗闇に、それでも賢治は話しかけた。


「俺だけがきっと、この件のことを全部把握してるかもしんねェ」


「...え?」

傍らで目を閉じて怯えていたアヴァは、賢治に対して顔を上げた。

銃を暗闇に向けたまま、賢治は横目でアヴァに目を合わせる。

「さっき鈴に会った。バイパスのど真ん中でなァ。そン時に、見たことねェ筈なのに懐かしいっつー感じの記憶みてェなもんがポンポン頭に浮かび上がってきやがった。気持ち悪ィ。だからアヴァ、お前が話そうとしてたっつー内容は全て頭に入ってンだよなァ。"鈴をアンドロイドに仕立てあげた黒幕"が突然分かったってのも、なんかよく分かんねェ奇跡のおかげだって訳だ」

アヴァが間抜けな表情で聞き入っているのを他所に、賢治は再び暗闇に向き直る。

「...そンでなァ。こんな主人公補正みてェなネタバレのオンパレードがまさか全部本当のことだって信じられねェ訳だ。まったくよォ、限りなく妄想に近い部類の感覚だってェのがまためんどくさいところなンだがな」


ふと。

賢治は銃の上部、スライド部を引き、弾を一発分ロードする。

銃口は暗闇に向いたままだった。

「このネタバレのオンパレードが、果たして本当の情報かどうかを調べる方法がある訳だよなァ」

そこで、先程まで間抜けな表情でいたアヴァが、ハッと我に返り、ようやく口を開いた。

「ま、待ってよ賢治くん。見たことも聞いたことも無い筈のことが突然頭に浮かんだりする、なんて都合の良いこと...。本当に、あるの...?」

「あるンだなァこれが。現に今がそうだろうが」

賢治は面倒そうに答える。

「そんな...。どうして、そんなことが?」

賢治は軽く舌打ちをした。

「知るか。テメエも知ってンだろ、俺が校内唯一の無能力者だってこと。予知能力も無ければ真理を見通せる能力も持ってねェよ」

どうやらイライラし始めたようで、賢治は腰のもう一つのホルダーからもう一丁銃を出して、スライド部を歯で咥えながらロードし、暗闇に構えた。

「ンでだなァ。テメエに一つ、'確認してェことがあるンだけどな?」

そうして。

賢治は、何も見えない暗闇を睨みつけた。





「マーベラス国立学院事務会長、アルヴヘンテ。鈴も巻き込んで”人類改革計画”っつー凶悪なことしようとしてンのは間違いねェよな?」





「...君は本当に、一々一々なんでそんなことを知っているのかな」

内に秘めた黒い感情を孕んだようなトーンのその一言は、暗闇の中から投げられた。

賢治の瞳は、どこまでも砕かんとする復讐と憤怒の感情で染まっていた。

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