炎の少年の軌跡⑨
ただいま。
炎の少年はまた、神の集う地へと戻ってきていた。
着物姿の彼女がいない、この世界の決められた運命を40週してから。
どうせ彼女がいる筈もないこの世界の運命を、いつの間にか炎の少年は、作業感覚で何となく廻っていた。
そこに感情などある筈もなく。
希望などとは程遠い、"無"しかなかった。
しかし時女神の三女の返答は冷たい。
君はシュレディンガーの猫を知らないのかな。
こちらの世界線では着物女が死に、着物女が彷徨っている世界線では君が死ぬんだろう。
つまりどちらか死ぬ道しかないってことさ。
運命を変えようなんてのは、潔く諦めることだね。
君は神でもあるまいし。
炎の少年は、睨んだ。
あんたは時女神だろ。
神様なら何とかしてくれよ。
未来の運命とか、そういうの担当なんだろう。
三女は微笑む。
いいや、私にも無理だね。
未来の運命は確かに私の専門分野だが、直接私が関わることは出来ないからね。
だから私は、今君がやってるそれを潔く諦めることをお勧めしたいね。
だがね、と付け加える。
"奇跡"と人間の間で定義付けられている"必然"を、君が希望と信じたいのなら話は別だ。
世界線が二つある。どちらも、君か着物女のどちらかが必ず死んでしまう。
この運命は絶対不変である。
その不変の運命を変えるべく、彷徨う観測者が二人。
それぞれの世界線にいる。
では問題だ。
そう言って。
止めの決め台詞と言わんばかりの、得意気な表情で、炎の少年に課題を出す。
"この条件を踏まえた上で、君達は互いをどう助け合う?"
では健闘を祈るとしようか。
Light your fire.
時女神三女の言葉が投げかけられたそこには、既に誰もいなかった。
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