並行世界観測日記③
『かれこれ30回くらい同じことをやり直しては、失敗。
どうやら由紀くんが死ぬことは、運命として固定されてしまった事実みたい。
平気そうには書いているけれど、実際かなりしんどい。
でも、やっぱりあの子には普通の生活をさせてあげたい。
私にも、あの子を楽にさせてあげる義務があるから。』
そう書かれた血痕だらけの日記帳を閉じて、着物の懐に仕舞う。
遅くなってごめんなさいね。
今も容赦無く降り続く大雨は、彼女の心を表しているかのようで。
だからこそ。
だからこそ、彼女は前を向いていられた。
向かう前方、この荒野の地に立つは、二つの人型。
片方は撲滅執事、片方は十にも満たない半袖半ズボンの少女。
肌の見える範囲だけであるが、なにやら奇妙な紋章で肌全体が覆われている。
執事は少女に囁く。
お嬢のお好きなように。
少女は、言った。
ごめんねお姉ちゃん。ぶっ殺しちゃう。
真瑠璃は、それでも笑う。
そっと目を閉じて。
またあなた達の相手する訳だけれど。
私は、あの子が逃げてくれるなら死んでもいいわ。
じゃあ、初めましてのお姉ちゃん、とっとと永眠やがれ。
無数に飛んでくる光の矢からは、真瑠璃は逃げられる猶予はなかった。
そして、突如消えた光の矢。
影の塊が、光を飲み込んでいる。
なァ姐さんさァ。
以前にも、というか、一つ前の世界でも聞いたような口調。
オレの話くらい、そろそろ聞いてくれてもいいんじゃねェの。
"骸縛の黒海"は、ニタリと笑う表情の裏に、怒りを含んでいた。
"負けると分かっていても、逃げられない時が必ずある"。
対特殊能力者迎撃隊でも飛びっきり変人な一番手の、よく言っていた教訓を思い出す。
撲滅執事と紋章少女、対、影の塊と式神使い。
真瑠璃は、鉄扇と折り紙を広げた。
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