炎の少年の軌跡⑥
酷い結果だ。何回やり直しただろう。
あの時の物語の軸となる主人公を殺したら世界崩壊、あの時氷の少女を右腕で庇うことなく逃げ出したら仲間全員が全滅、あの時新たな地へと踏み込むことを辞めた途端に時間は進まなくなる、あの時、あの時、あの時。
思い当たる、というよりかは、とにかく伏線のありそうだった数々の"あの時"の、結果を変えてみた。
全く関係ない場面でも、もしかすると彼女に関係していたかもしれない。
あれをしていなければ、これをしなければ、彼女は存在することになるかもしれない。
炎の少年は思う。
何の為に、繰り返し世界をやり直してきたのか。
そもそも、なぜ僕が。
そんな時に側で、頼んでもないのに肩を叩いて話しかけてくるのは、やはり氷の少女だった。
どうしたの、りーだー。
どうもしないさ。
でも、ないてるから。
泣いてるからって、何なんだよ。
でも、いたいから、ないてるんでしょ。
氷の少女は、炎の少年の、残された左腕を掴んだ。
やめてあげて。
ゆきをゆきが、いじめないで。
ゆきが、ないてるから。
腕のない右肩は、刺し傷だらけだった。
左手には、赤い剣が握られている。
自分で自分を、嫌いになっていた。
脳裏には、不思議といくつもの失敗が蘇る。
たった一人の、炎の少年が見てきた惨状と後悔と自責の軌跡を、一つ一つ紡いだ。
そっかぁ。
でも、もうひとりぼっちじゃないね。
わたしがしってるもん。
その氷は、炎より温かかった。
炎は、まだ燃えている。
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