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炎の少年の軌跡⑤
やはり主人公という物語の軸を殺すことは、世界の崩壊に繋がる訳か。無慈悲な原理だ。
炎の少年は、"どこにいる訳でもない彼女"を思い浮かべる。
あの人が人々から、世界から忘れ去られるなんてさせない。
"死なせない"。
彼女を観測し、存在として留めておく為にはどんなこともしてみせると心に決めていた。
決心していた。
同時に軽蔑していた。冷血だった。
仲間の命さえ奪ってまでも運命を変えようとする、その傲慢さを。
何の躊躇いもなく外道を試みて、省みた。
ごめん、賢治。
痛かった、よな。
自責の念に駆られて、ただ謝りたかった。
以前の世界変動率には戻ることは出来ない。
タイムスリップ。
無限にやり直しは効くが、元の世界へは二度と戻れない。
涙が流れた。
涙しか流せなかった。
後悔の嗚咽さえも出ない。
こうしてまた、彼は自責の念を一つ背負い、後ろを向くことを許されなかった。
許さなかった。
少年の剣の赤は、灼炎の精神か、涙で濡れた後悔の数か。
変動率:3.059134...%