第2話
気付くと既に二時間目の授業が始まっていた。どうやら朝礼の時にいつの間にか
寝てしまったようだ。
ふと横の席に視線を感じ、振り向くと見慣れない女子生徒が座っていた。そう言
えば担任が転校生がどうたら…などと一人納得してしまった。
「教科書まだもらって無いんだけど…良かったら見せてくれませんか?」
ふいに声を掛けられて隼人は少し狼狽した。まさか自分に…。
隼人は無言・無表情でカバンから教科書を抜き取り、転校生に手渡す。
「見ないんですか?」
不思議そうに転校生は尋ねる。確かに貸しておいて、本人は見ないとなるとかな
り不自然だ。
「見なくても分かるから。」
「そうですか。賢いんですね。」
「普通だよ。」
隼人は煩わしくなったのか転校生とは反対方向…つまり窓から空を見上げた。雲
一つ無い快晴。残暑がキツいこの時期に雲がないと恨めしく思ってしまう。
休み時間になると転校生の周りに人垣が出来るのは全国的に見ても珍しい事では
無いだろう。隼人は人を極端に嫌うのでもちろんこう言った事態も煩わしく感じ
てしまう。厄介な転校生に気付かれないようにソッと教室を後にした。
隼人は昼休みになっても教室に戻ろうとせず、屋上で寝ていた。9月の日差しこそ
強いものの、吹き付ける風が心地よい。
「こんな所にいたんだ。探したんだよ〜。」
朝、唯一隼人に挨拶をした女子生徒だ。ビニル袋を片手にトコトコ歩いてくる。
「えっと…お前は…」
「相変わらずだね(笑)山本だよ。」
「そうか…。」
「毎日言ってても覚えないなんて単に覚える気が無いんでしょ?」
「……」
隼人は生まれてこの方一度も人の名前を覚えようとした事は無かった。少なくと
も美羽以外は……。
「まぁいいや。一緒に食べよう!!」
ビニル袋からサンドイッチが3つと牛乳パックが2つ出て来た。
「望月くんって玉子サンド好きだったよね?」
ゴソゴソしながら山本は尋ねる。
「なんで知ってんだ?」
「前購買で買ってたのをたまたま見たんだ〜。」
エヘヘと照れ笑いする。
「そうか…。それより、いくらだ?」
「何が?」
「サンドイッチ代。」
「今日は私のおごり〜。今度おごってね!!」
「ならそうするとしよう。」
隼人は玉子サンドにかぶりついた。それをなぜか嬉しそうに山本が見つめる。
「美味しい?」
「お前が作った訳じゃないんだから聞いてどうする。」
暗に飯時は静かにしろ、と言いたいのだろう。
「でも気にならない?」
山本には隼人の意志が伝わらなかったようだ。
「別に。」
「私が作ってきたら感想聞かせてくれくれる?」
「購買で済ますからわざわざ作らなくてもいい。」
手作り弁当の申し出を拒否する。
「冷たいな〜。彼女出来ないよ?」
彼女――その言葉に隼人の顔はわずかに引きつったように感じられた。
「彼女は………必要ない。俺は独りで生きていく。」
「それってさ、なんか寂しくない?」
快活で可愛らしかった山本の顔が曇る。
「別に……。」
隼人はそれ以上なにも喋ろうとはせず、はるか遠くの空を見つめていた。
残暑の晴れ空に隼人は何を見いだそうとしているのだろうか?