第16話
「吉澤様で御座いますね?」
受付を顔パスで通ろうとして呼び止められた。係員が訝しげな表情で隼人を見て
いる。
「私の専属ボディーガードです。」
「大変申し訳ありませんでした。どうぞお入り下さい。」
無事受付を通過した俺たちは、城のホールへと向かった。
「愛理じゃないか!!」
金髪碧眼でどこからどう見ても貴族のおぼっちゃまが吉澤の元へ歩み寄ってくる
。
「元気にしてたかい?」
「え、えぇ。」
ぎこちない笑顔から彼は苦手なんだろう。
「僕は君に会えなくて、寂しくてたまらなかったんだよ。」
「そ、そうなの。」
助けてと言わんばかりに隼人をチラ見する吉澤の挙動をみた金髪青年は声を掛け
た。
「失礼だが、君は?」
「彼は私のか……」
「ボディーガードです。」
吉澤がとんでもない事を言う前に建て前を説明する。
「そうかい、僕の愛理を守っていてくれてありがとう。そうだ!今日は君の代わ
りに僕が愛理のボディーガードをしよう。君は休んで貰っても構わないよ。」
「有り難き幸せ。お言葉に甘えさせて頂きます。吉澤様をよろしくお願いします
。」
チャンスは逃さずそのまま吉澤の元を去った。
「後は僕達で楽しもうよ。」
不適な笑みを浮かべた金髪青年はそのまま吉澤とダンスに興じた。
一方隼人は飯を取って壁の華を決め込んでいた。
「見かけない顔ですわね。」
「吉澤様のボディーガードをしている望月と申します。」
「あら、愛理のボディーガードですの?頼もしいですわ。よろしければ私と踊っ
て頂けませんこと?」
「ワルツしか出来ませんが、よろしいのですか?」
「十分ですわ。」
謎の金髪碧眼美女に誘われて、隼人はダンスフロアに入った。
「お上手ですこと。」
実際金髪美女がリードしていたのだが何故だか隼人は褒められた。
「大変恐縮で御座います。」
「かしこまらなくても構わないのよ。望月さん。」
「私は使用人ですので…。この様な姿を吉澤様に見られれば解雇されてしまうで
しょう。」
「いざとなれば私の屋敷にお招き致しますわ。大丈夫、ご安心なさいな。」
金髪美女にたいそう気にいられたご様子。
「有り難き幸せ。自分には勿体無く思います。」
なぜかウットリするような眼差しで隼人は見られていた。
「望月くん!こんな所に居たんですね!!」
吉澤が金髪青年を従えてやって来た。
「どうなさいました?」
最大級の営業スマイルで応える。
「そろそろ帰りましょう。」
「かしこまりました。弥生様にお声を掛けて参ります。では。」
「またいらして下さいね。」
金髪美女は名残惜しそうにしていた。