第13話
中華で昼を済ませた隼人は体調不良を理由に帰宅する事にした。唯一絶対の安息
の地である自室に文字通り引きこもり、指輪を眺めていた。
しかしこの不可侵の領域を主の了承を得ずに侵入するのが、吉澤と言う人間で…
。
「綺麗な指輪ですね。」
「ノック位しろよ。」
「私と望月くんとの間には壁なんて存在しません。」
「マナーだろ…。」
さりげなしに突っ込みを入れる。
「明日も休みなんですし、出掛けませんか?」
「ドコへ?」
「パーティーに招待されているのですが……」
「金持ち同士のか?」
「そうなりますね。確か金沢グループの創立10周年記念パーティーだったような
……。」
「面倒くさい。それに正装なんだろ?」
「当たり前ですよ。私はドレス。望月くんはスーツです。」
「ご機嫌取りのパーティーに何で行かなくてはならんのだ?招待されてるのは吉
澤だけだろう?」
「それはそうですけど……。寂しいじゃないですか。」
「知らんわい。」
「……追い出しますよ。」
「パーティーは明日だっけ?」
追い出すと聞いて180°態度を改める隼人。よほど恐れていると見える。
「スーツは持ってますか?」
「着る機会無いから持ってないな。」
「新調させましょう。明日までには準備させておきます。」
「サイズはどうするんだよ。」
「望月くんの事で知らないことはありませんよ。」
邪悪な笑みをたたえながら返事をする。
「俺のプライバシーは?」
「皆無です。」
きっぱりと宣言。
「ハァ。俺は俺の権利を守る!!お前なんかに屈したりはしない!!」
「言いましたね。ウフフ」
不敵に笑いながら吉澤は部屋を出て行った。隼人はその笑顔をみて鳥肌が立った
。
夕食後の風呂は消化に良くないが、貧乏生活の名残で止められない。本来は風呂
が沸く時間を利用して食事をする目的であったが、屋敷は掃除の時以外いつでも
風呂に入ることが出来る。
脱衣所に人影を確認した瞬間、ガラガラと全裸の吉澤が入ってきた。
「何で入ってくるんだよ!!」
「私達の前には壁は有りません。」
「お前、恥ずかしくないのか?」
「望月くんに見られるのなら構いません。」
ザバーッと風呂に浸かり接近する吉澤。風呂が広いのが幸いしてか、逃げること
が出来た。
「何で逃げるんですか!!」
「逃げるわい!!!!」
「男性は喜ぶんじゃないんですか?」
「どこで仕入れてきた情報じゃい!!」
逃げているにも関わらず突っ込みは忘れない。
「雑誌です!」
二人が風呂で鬼ごっこしているので湯がかき回され、もうもうと霧のごとく湯気
が立った。