第10話
この日から吉澤の提案で、と言うより雇用者命令で手作り弁当を食べることにな
った隼人。弁当だけ受け取り、いつもの巨木に退避して食べていた。
「一緒に食べようよ!!」
隼人は下を向くと長谷川がいた。
「一人で十分だ!」
地上とそこそこの距離があるので自然と声が大きくなる。
「私がそっちに行くよ!!」
そう言って、いそいそと登り始めた。しかしなかなか登る事が出来ず、危なっか
しい場面も何度かあった。
「分かった。行くからじっとしてろ。」
隼人は仕方なしに降り始めた。
「泥だらけになっちゃった。」
エヘヘと可愛く笑う。
「ところでさ、何でお弁当なの?もしかして手作り?」
隼人は顔を歪めた。
「だったらなんだ?」
不機嫌な顔で答える。
「望月くんが手作り弁当受け取るなんておっどろき〜!!」
「昨日の話を聞いていた奴がいてな、チャンスをくれと言われたんだ。」
「それでかぁ〜♪何だかんだ言って楽しんでたりするんじゃないの?」
「鋭いな。だが、恋愛感情を持つことはない。」
「……嫌いなの?」
「そんな事はないが………。」
「いた--!!!!!」
シリアスな雰囲気をぶっ壊し猛然と走ってくる人影が。
「山口さんだ。」
ボソッと隼人にとって呪いの言葉とも取れる事を言う長谷川。
「お昼食べよー!!」
真由美は速度を落とすことなく隼人へダイブした。が、隼人はスルー。変わりに
長谷川がつかんだ。
「なるちゃん、ありがとう☆」
いつにも増してハイテンションな真由美である。
「私が掴むって思っててやったでしょ?」
「あは。バレた。」
隼人は二人がワイワイ仲良くしているスキに歩き出した。
「望月くん〜♪そのお弁当は誰の手作りかなぁ?」
いきなり隼人の背後に現れた真由美は顔こそ笑っていたが、額に血管が浮かび上
がっていた。
「お前には関係無い。」
「大あり!!望月くんの弁当は私だけ作れるんだよ!!それ以外は弁当として認めな
いんたから!!」
「それはどうかと思うぞ。」
「私も作る〜!!」
「弁当は一つで十分だ。」
隼人が呆れ返っていたときに、長谷川が口を開いた。
「望月くん困ってるよ。お弁当は諦めてクッキーとかにしてみたら?」
「クッキーかぁ…。うん、そうする!!」
隼人は安堵の息をついた。長谷川は何をおかしいのかクスクス笑っている。
「なるちゃん、どうしたの?」
「まゆちゃんってお料理全般苦手だったよね?」
その場にブリザードが吹き抜けたかの沈黙。隼人は唖然として口をパクパクして
いるし、真由美は顔を真っ赤にして俯いている。
「お、お前…。上手く出来ないのに俺に喰わせようとしたのか?」
「練習すれば何とかなるかなって?」
「頼むからやめてくれぇ〜」
校舎裏に男子生徒の声が木霊した。