ウチのサポートキャラにはサポートがいろいろ必要
「モカ嬢。今日もお美しい。そのダークチョコのような麗しい髪に触れても構いませんか?」
「ご冗談はおよしになって、スコーン様。このような髪、スコーン様の手には似つかわしくございません。スコーン様のように素晴らしい方にはもっと相応しい髪がございますわ。いいえ、どのような髪もスコーン様の手にはふさわしくありません。貴方のような高貴な方の手にふさわしいのは王族の方だけです」
「手厳しいことをおっしゃいますね、モカ嬢。ですが、私は主のアールグレイ様の髪を梳かしたりしませんよ。それは侍女の仕事です」
「ふふふ・・・。アールグレイ様の侍従を務める貴方様が母国ではどのようなお家柄かわからないと思いまして?」
臭い台詞が飛び交うここは王立カカオマス学園。高位貴族の子女なら必ず初等科から中等科卒業まで在籍しなければならない学校。高等科まで在籍する必要はないが、爵位持ちとしてやっていくなら在籍しておいたほうがいい。
勿論、義務のない貴族たちの子女も在籍している。貴族としての人脈作りが主な理由だ。
ああ、それにしても今日もあちらからは甘ったるい言葉が流れてくる。
鬱陶しい。
それも仕方がない。
驚くことなかれ、なんせ今ここでは【糖分過多で甘死注意】乙女ゲーム『チョコレートに恋して~温和な王様と忠実な若者たち~』が進行中なのだ。
ストーリーの大筋は温和な王様が治めるここカカオマス王国の王立カカオマス学園の高等科に入学してきた中位か下位貴族か商家の令嬢ヒロイン様。彼女はここで王宮で働くのを目指して勉強するのが主なストーリー展開。でも、学園にはイケメンがいっぱいいて、あっちフラフラこっちフラフラ、よそ見してしまうわけ。夢を実現して自分が国王の忠臣になるか、恋愛を優先して国王の忠臣になる恋人を支えるか、選ぶわけだけど・・・ただでさえ、臭い台詞の飛び交う学校で、頭お花畑になると甘ったるい言葉を攻略対象者が吐いてくる。
あまりの甘ったるさに吐きたいのは周囲のほうだ。
「お前はいてもいなくてもいい。俺が勝手に傍にいるから気にするな」
辛辣な言葉もツンデレにしか聞こえない甘々マジック、すごいよ。
私はモブ。
そして私の親友はというと・・・
ストーカーだった。
違った。サポートキャラだった。
高等科から新しく入ってきたヒロイン様が慣れない環境で心細いだろうと友人になった心優しい私の親友は、彼女の恋を応援すべく想いの相手の情報を集めている。
「ココア。何しているの?」
「ミルク様がフォダン様のことを知りたいって仰るの。私、フォダン様の後をつけて調べるのよ」
とても良い笑顔で言うココア。
でもココア。貴女、何か間違っている。
絶対間違っている。
サポートキャラはサポートするけど、ストーキングはしない。
間違っているから。
それはサポートキャラのすることじゃないから、ココア。
お願い、止めて。
「ココア。やめて。そんな真似しては駄目よ」
「じゃあ、フォダン様に聞くわ」
え?
代わりに直接聞きに行く?
ココア!
確かにここでは生まれを問わない無礼講だけど、突撃は止めて。貴女、高位貴族の令嬢でしょ?! お願い、貴族らしく情報収集して。噂話を集めたり、家の者に探らせたりして。お願いだから自分から動かないで。
◆
次世代の王に宰相に騎士団長、隣国の王族、あとロリコン教師までヒロイン様の取り巻きと化しているんだけど・・・。
これ以上やる必要ある?
もう、充分だと思うけど。
親友がサポートキャラのお陰で、今日も私の転生生活は波瀾万丈です。