クロの部屋とシロの壺
祐樹が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。
周りを見渡すと黒、黒、黒。
壁、床、天井すべて真っ黒。
部屋は明るいが、黒に囲まれているせいで穴の中にいる気分だ。
部屋には何も物が無い。扉すら…。
ただ一つ。部屋の中心にある真っ白なツボを除いては。
そもそもこんな場所で寝た記憶はない。
誰かに後頭部を殴られた記憶も、クロロホルムを嗅がされた記憶も無い。
何故自分がこんな場所で倒れていたのか理解ができなかった。
ごく普通の高校生として1日を過ごし、6限目の科学の授業を受けている最中、ボーッと教諭の燃焼実験を眺めていると居眠りしてしまった。
で、こんな妙な場所で目が覚めた。周りには助けを求める人間もいない。携帯も圏外のようだ。
混乱してその場で固まっていること数十分、ようやく現状を理解した俺はパニックに陥った。手当たり次第壁を叩きまくる。
「誰か!!聞こえますか!!誰か!聞こえませんか!?助けてください!!」
バンバンと言う衝撃音だけが室内に響く。
怖かった。ただ怖かった。得体の知れない恐怖。いつまで壁を叩いていただろうか。俺は疲れ果て再び深い眠りに落ちた。
再び目を覚ますとそこはやはり漆黒の部屋だった。夢じゃない。現実。
孤独と恐怖で吐きそうになった。
なんとか吐き気を堪え、先ほどから気になっていたツボを探ることにした。
ツボを覗いて見るが、中には何もなかった。
周りも見て見るがやはりただのツボ。
手がかりになると思ったが、期待して損した。諦めて座り込むと、制服のポケットの中に何か紙が入っていることに気づく。
【壺 穴 聴け】
ツボの穴に耳を近づけろとのことだろう。
恐る恐る近づけてみた。
【よぉ。調子はどうだい?祐樹くん。】
驚いて腰が抜けた。何も入っていないはずのツボから声が聞こえてくる…!!!
【まぁ、そうビビるな。別にとって食いやしねぇよ。】
少年のような少女のような性別のわからない声。はっきりと聞こえるその声を聞いているととてつもない悪寒が走る。
【なんでこんな場所に寝てたか理由わかるか?】
「てめぇが閉じ込めたのか!!俺をここから出しやがれ!!」
【カッカッすんなって。閉じ込めたのは俺じゃねぇ。】
「誰だ。知ってんのか?出る方法は!?」
【ぐいぐいくるねぇ(笑)お前を閉じ込めた奴は知らねぇが、この扉の無い部屋から出る方法は知ってるぜ。】
「どうすればいい!?教えてくれ!」
【いいぜ。ただし条件がある。この部屋に寝ていた理由を調べろ。】
「寝ていた理由!?そんなこと俺が聞きてぇよ!分かるわけねぇだろ!!」
【分からないなら、お前はずっとこの場所にいることになる。別に強制はしねぇが、出たいなら私の指示に従え。】
「畜生!!…。わかった、従う…。」
【いいだろう。少しばかりヒントやるよ。携帯、持ってるよな?】
「あぁ、でも圏外で使い物にならねぇ。」
【電話帳の中みたか?】
「は?見てねぇけど。どうせ使えねぇだろ。」
【見ろ。それが俺からのヒントだ。じゃあな。せいぜい頑張れよ。】
そこから、何度呼んでも一方的に喋り続けその声は聞こえなくなった。
電話帳を見るとそこには1人の女の名前があった。
名取 深雪。
亡くなった。俺のもっとも愛おしい人。