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マジック・カンパニー  作者: シャーネ
納得がいかない降臨
9/16

1-09.ギルド本試験

起きてリビングに向かう。ちなみに部屋分けは各自個室をもらっている。


途中ですれ違ったメイドさんに挨拶。優しい笑顔で朝から気分爽快だ。

到着すると、エニスとクロノスがいた、3階に目をやるとジェイリス・・・はいなかった。

開放されたらしい。

朝だというのに、ハンバーガーとしかみえないものをエリスは片手で掴んで頬ばっており、もう片方の腕をあげて

挨拶してくる。

「ふぉはほー、きほおはほふねふれふぁ?」


「飲み込んでからにしろよ」


クロノスも声をかけてくる。


「おはようございます。」


「(もぐもぐ ごく)おはよ!昨日はよくねれた?」


「ああ、おはよう。よくねれたよ、誰かさんのおかげで。」


挨拶を済まし、クロノスの隣に座る。目の前のテーブルには綺麗に畳まれた服のうえに、装飾の施された小剣がおかれてあった。


「ああ、それね。 ロゼにあげる。今日のギルド試験にふつ~の服でいくのもあれだしね。一応 わたしのお下がり。

 変なことしないでよね?」


そこで顔を赤らめて怒鳴り返すようだと三十路の男としては経験不足だ。


「変なことって例えば?」


エリスは形のよい眉毛をまげて、黙りこむ。少し沈黙がながれたあとエリスは元々の話を切り出した。なかなか学習してきたようだ。


「服は魔法処理が掛かってて、敏捷性が上がるわ。簡単な魔法もレジストできるわよ。 小剣はちょっと特殊でね。闇属性石が嵌めこまれてて、私は今はつかわないから、インベントリで埃かぶってたんだけど、どうかな?」


クロノスが言葉を引き継ぐ


「闇はかなり希少ですよ。火風土水とは別属性で、聖と対照的な位置づけになります。 聖が防御的なものに特化していますが、闇は攻撃よりですね。特徴としては魔素操作が難しい。

荒れるといったほうが正しいでしょうか。 その代わり攻撃力は折り紙つきです。」


「ロゼは魔法暴走が多いけど、操作は精密だからねー。 魔素量に対する認識さえ把握できていけばいずれ使いこなせるとおもうわよ。

魔法使う場合はいままでの気持ち半分ほど減らせばちょうどいいくらいじゃないかな?」


そこへ目元に隈を作ったジェイリスがやってきた。


「新人が持つ武器じゃねーなー、おま・・・  ・・・ 嬢ちゃん。」


嬢ちゃん・・。 実感がわかない。たしかに自分は嬢ちゃんと呼ばれる姿をしている。

呼ばれることに違和感を覚えるがおまえと呼ばれ続けるとよりはいいだろう。

呼び方で相当なやんでたのはおそらく俺の本当の姿を知っているからだ。


華麗な装飾のされた鞘からスラリと抜く。

刃物を持つのは包丁以外では初めてである。

すごく美しい。

そして、これが闇の属性石の効果なのだろうか、魔力が猛るかんじがする。

ふと俺は小剣を包み込むように魔素でコーティング。


「ふふ、使い方はもうわかってるようね? ロゼにはまた今度時間があるときに剣技はおしえてあげるわ。

もう試験まで時間がないからね、今の段階では杖として解釈しておくといいわ。楽に紡げるようになるはずよ。」


まじで?

素直に感謝の言葉をエリスに紡ぐ。それにしても、属性石かあ 高価なんじゃねこれ?


「喜んでもらえるとわたしも嬉しいわ」


上機嫌に残りのハンバーガーをかじるエリスであった。

ぐむう、このままだとエリスに頭が上がらなくなるな。


リビングから脱衣所に移動し、渡された服に袖を通し、紐を結び、腰に小剣を指す。

服はぴったりだったが、胸が少しぶかぶかだ。oh,エリス。

意外とプロポージョンはいいのね。

いかん、また変な想像をしてしまった。

シックな黒を基調としたドレスである。

鏡でみると少年のようにもみえる。

着心地はすこぶる良い。 まるで体が軽くなったようだ。

しかし、しかしだ、スカート・・・ これは俺に対する嫌がらせか?

そして最大の関門である女物のパンツが登場するが、やはりはかない。これもエリスのお古だろうか?そんなわけないな

みるからに新品だ。

NO、ブリーフ、YES、ノーパン。

まあ、見えたら見えたとき。

下半身に気が散るよりはマシである。


リビングに戻るともう皆の姿は無かった。

外でまっているとメイドさんより教えてもらい、ドアをあけ、大理石でできた階段を降りて合流する。


「きゃ~~~ 似合うわねー!いいわね!最高よ!」


おい、てめえ、俺の本当の姿わすれてねーか?


「似合いますね。」


「その格好でギルド試験だと・・・。」


三者三様の評価をもらい、ギルド支部に向かった。






ギルド支部に入り、受付にエリスと共に向かう。

クロノスやジェイリスは依頼貼りだされる掲示板のほうをのぞきにいった。

1ヶ月に1回ということもあり、ご新規さんが多いのだろうか。

ギルド支部はこの前来た時よりも人でごったがえしていて、なかなかの喧騒だ。

受け付けは4箇所あるが一番右が一番長蛇の列となっている。

今ならんでいるのがそれである。

並んでいる者も様々で、筋骨たくましいマッチョマンから、寡黙そうな女性、果てはまるで忍者のような格好したもの

小柄でヒゲをたくわえたドワーフ(見るからにドワーフです!といったかんじなのだ。)に、メガネをかけたインテリ然とした者までいる。

前に並んでいた二人組の男がこちら向いてニヤニヤしている。

嫌な感じだ。


「お~お~、キュロスみてみろよ。ここはいつから保育園になったんだ?」


「ガキ2匹が何しにきたんだか。おう、お嬢ちゃん達、おじちゃんたちが可愛がってやろうか?」


俺は余裕で無視。こういう手合は同じような言葉しか吐けないのだろうか?

おいたが過ぎると、一昨日の馬鹿どもと同じ目にあわせてやるが。主にエリスが。

えてして、こういう馬鹿はどこの世界にもいるものだが大抵反応することを期待している。

わざわざ期待に答える必要はない、無視していると勝手にいきまくかもしれないがその時はその時。

横のエリスをちらりと見ると、どこ吹く風か、まったく意に介さず 焼いたソーセージのようなものを食べている。

来る途中に買ったものだ。

はぐはぐと熱そうにしているところはとても可愛らしい。

間違っても24歳にはみえない。せいぜい18だろう。

というか、エリスはすごく美しい金髪で顔立ちも整っている、貴族といえば当然なのかもしれないがなにかしらをいつもたべていて

残念な空気を醸しだしてはいるが、基本 品があるのだ。

自分自身の今の姿を完全に棚において、俺はそう述懐する。


「お次の方~、ギルド試験登録証をお見せください。」


「ッチ、無視か。まあ これがおわったら覚えておけよ?お嬢ちゃん達。」


そういえばさきほどから周りが騒がしい。

神風とか、隣は とか、ご愁傷様とか耳にはいる。

完全に注目されていた。

それもそのはずである。エリスはプラチナランク、二つ名持ちであり、この地域では他にはまずお目にかからない高ランカーなのだ。

さらにエルタノルティアに来て、妖精大国シファギリスからこの国までどれくらいの時間がかかるかはしらないが、きて半年は経過しているだろう。

ゆえに有名人である。

ギルド支部において、エリスを知らない、それはつまり新米である。

神風に絡んで者が無残な晒し者として公開処刑(それはそれは冒険者としては恥ずかしい姿にされて)された笑い話は巷によく流れているらしい。

つい一昨日ではまさにこの場所で半殺しにされた二人がいる。

よって絡んできたご新規の二人組みに対して ご愁傷様という声が聞こえてきたのだろう。

しかしなあ、 俺からいわせてもらえれば エリスは口にものをいれてるときは超安全なのだが。


前の二人が奥のドアに消えていき、俺達の番になる。


「はい、次の方~ あ、エリスさん。こんにちわ~。こちらのお嬢さんがギルド試験対象者です?」


受付嬢が声をかけてくる。


「ふぉん。」


「エリス、いつもいってるけどせめて飲みこめ。」


おもわず突っ込んでしまった。本来ならこれはクロノスの役目である。


「うん!隣にいるのがロゼよ!戦闘試験と魔法試験で登録してあるとおもうからよろしくね。エトワール。」


エトワールと呼ばれた受付嬢が軽くこちらを見て頷く。

一昨日、エリスと話していた女性とは別の受付嬢でアトルさんより胸はデカイ。エリスよりもデカイ。

妖艶さを醸し出すグラマーな方だった。


「ロゼさん、初めまして。ギルド、エルタノルティア支部受付嬢のエトワールです。こちらにお名前を記入してください。 そのあと、一番右の部屋にはいって名前を呼ばれるまで待機してください。

そこでギルド試験 戦闘部門に関しての簡単なご説明があります。」


「分かった。」


説明どおりに右奥の扉に向かい、扉をあけ、空いている席に腰掛ける。

どうやら一番最後だったらしい。

俺の着席を待って、担当の教官らしき、いかつい顔をした人物が口を開く。


「全員揃ったようだな。では、ギルド試験の説明を始める。諸君らにはギルド支部敷地内にある闘技場にでて担当する教官と順に戦ってもらう。

 教官を死にいたらしめるような行為は禁止、もちろん教官も諸君らを死にいたらしめるような真似はしない。

万が一、殺害せしめた場合は永久にギルド登録は受け付けない。

 ただし、行動を制限するようなものはなにを用いても構わない。例えば、神経毒とかな。そして、教官を倒さずとも、ギルドの一員としての能力が認められるなら合格だ。逆に倒したとしても、資質に欠けると判断したら失格だ。」


顔に似合わないソプラノボイスのため激しい違和感を感じてしまう。

教官の説明がひととおりおわると、一人の青年騎士が手をあげ発言する。


「倒したとしても失格になる場合とは如何様なことを指すのだ?なにを用いても構わないといってる趣旨からズレると私は感じるのだが。」


「過去、教官を買収した貴族が八百長を行ったことがあるのだ。ようするに、明らかに戦闘から外れる行為が確認された場合は

失格にする。戦闘においては卑怯もなにもない、魔物との戦いでは生死がかかっている、どのような手段を用いても任務を遂行する

高い意識が必要なのだ。」


「納得した。そういうことなら合点がいく。」


「他に質問はないか? なければ呼ばれた順に闘技場に移動してくれ。」


レザースーツに身を包んだ赤毛の女が手をあげた。


「他の受験者の試合をみることはいいの?」


「だめだ。それでは後から受験するものが対策を練る時間を与えてしまう。この部屋で待機したまえ。

 まだ質問はあるか? なければ呼ばれた順に闘技場に移動してくれ。

 受験NO1ティト!」


ティトと呼ばれたやせ細った青年が奥の扉に消えていく。

視界にその様を見届けつつ、俺はゆっくりとあたりを見回した。

斧を椅子にたてかけている獣人、騎士剣を腰にさげ、甲冑を装備している者、・・・俺にからんできた二人組の男、

赤毛の女、貴族のような礼装を纏っている少年・・・ 皆、武器をなにかしらもっている。

その数ざっと30人。 果たしてどれくらいの人数が合格となるのだろうか。

見渡していると、前の座席にすわる女性が振り向き、目があった。

さきほど質問していた赤毛の女だ。

年は20代後半ぐらいだろうか。顔立ちは悪くないが、切れ長の目と、なきぼくろが印象的だ。

妖艶さと溌剌さを足して二で割ったような、不思議な印象を与える。

悪印象ではない。


「こんにちわ。私はモニカ。お嬢ちゃん、よかったら受験まで少し話さない?」


笑顔で優しく語り掛けてくれるのが好印象だ。俺は口を開く。


「俺はロゼ。こちらこそよろしくモニカさん。あと、お嬢ちゃんはよしてください、ロゼでいいです。」


モニカは軽く驚いた表情をしつつ


「あら、自分のことを俺っていうの?変わってるわね?ロゼちゃんの雰囲気に合ってないから少し驚いちゃったわ。

 ごめんなさいね。私はアマゾネス出身。戦うことは好きだけど、金は必要だからね。

 魔物退治に事欠かないフォレストシティまで来て、受験しにきたってわけなのよ。

 ロゼちゃんはどうして戦闘部門の受験をしたの?」


アマゾネス。前世ではよくゲームで女性オンリーの戦闘民族的な印象がある。

こちらの世界で同じかどうかはわからないが、おそらく戦闘技術は自信があるのだろうと推測する。

俺のことについては、何から話すべきか少し逡巡したが、とりあえず3人組に誘われたからということにしよう。

嘘ではないし。


「そうだな・・・ ギルドに所属するとある3人組と成り行きで知り合うことになりまして。

そのメンバーが自分を誘ってくれましたので、特に目的もないですし、しばらく付き合おうと思ったんですよ。

依頼に同行して報酬をもらうためにはギルド登録が必要ですしね。」


そう、とモニカは頷き、会話はこれからどうするとか、エルタノルティア周辺の魔物事情などで盛り上がった。

とても女性同士の会話ではない。いや、俺は女ではないがな?見た目的にな。

だが、こちらにきてからまともにしゃべったのはあの3人組以外では初めてのことなのでとても楽しかった。

時間がすぎていくにつれて、部屋に残る人数が少なくなっていく。

モニカの名前が呼ばれた。


「さて、出番か。 じゃ、いってくるわね。楽しかったわ。また会ったらよろしくね。機会があれば、一緒に依頼をこなしましょ。

私は3ヶ月ほどはセントラルウェイにある月の宿に泊まってるから、いつでも歓迎するわよ。」


「ああ。 がんばってな。応援してる。」


「ふふ、ありがと。」


モニカは手をひらひらさせながら、扉にむかって歩いていく。

モニカが部屋からでていってからは特にすることもないので、指示式を脳内で書いたりしていた。

そしてついに俺の番がきた。やはり最後だ。


「最後だ。受験NO31 ロゼ。 いってきたまえ。」


試験教官に手をあげて、了解の意志を伝え、扉を開き、細長い通路を歩き、階段を下ると闘技場にでた。

地下にあるのか。

これは広い・・・な。

闘技場はその名のごとく、闘技場であった。さしずめ縮小版東京ドーム。

地下にあるため、天井も含め、周囲は石材によってかこまれている、入ってきた反対側の奥には客席があり、

そこに数人が書類や、ペンをもっているのが見える。審査官であろう。


闘技場の中心に一人の男性が立っていた。

近づくと声をかけてくる。


「最後の戦闘部門受験者がこんなかわいらしい少女とはおもわなかったな。」


と苦笑している。年齢は30前後だろうか。もっと若くもみえるし、老いてもみえる。

身にまとう空気は落ち着いた、成熟した男性のものだった。


「説明はうけているとおもうが、どのような手を使ってくれても構わない。奥にいる審査員が合図したらスタートだ。」


男性は腰から曲線を描いた刀剣を抜いた。あれはシミターだろう。

実際に見るのは始めてなので、もしかしたらカトラスというのかもしれない。

スピードを重視した接近型と予想。

俺はコクンとだけ頷き、鞘から小剣を抜き放った。




--------------------[教官視点]-------------------------


ふう、やれやれだ。


貴族からの無茶な依頼をこなし、ひさびさの休暇だというのに帰ってきた時期が悪かった。

ちょうどギルド試験のある日の前だったのだ。

ギルド支部長直々に


「人手不足でな。 帰ってきたばかりで済まないとは思うが、頼む。」


と言われては断る理由はなかった。 なんといっても、自分にとってここ、エルタノルティアのギルド支部には浅からぬ縁がある。

エルタノルティアにギルド支部ができた当初、他都市や他国に比べ、行き届いていない管理体制に目を付けた貴族や

はぐれものがギルド員になろうと殺到してきたのだった。

まだギルド員としてはベテランには程遠かった自分も、支部長を含め、時には貴族による八百長問題で都市の実力者と

話し合い、時には実力不足の結果試験で落とした者の恨みをかって暗殺されそうになったり、

商人の一人が支部に所属するギルド員の一人を抱き込んで、依頼達成の報酬をちょろまかしたり、

属性石など魔物からとれる貴重な資源を密輸したり、とにかく 大変だったのだ。

そんな設立からの付き合いだ。

困っているときには助け合う。


帰ったばかりで正直やすみたい、いきつけの酒場でエールを飲んで、おもいっきり羽をのばしたい、

そんな気持ちではあったのだが、しかたない。


さて、実際のギルド試験ではあるが、最近では戦闘部門は私ともう一人が受け持っている。

共にプラチナランクの実力者だ。

もう一人は金髪、碧眼の女性で、美しい女に見えるが、姿に反比例する戦闘力を畏怖する意味でも

”神風”と恐れられている。

ちなみに私もプラチナランクなので当然二つ名はある・・・が、神足に比べて平凡なのでここではやめておこう。


ここ昨日、ギルド支部にはいり、同僚たち・・・ まあ ギルド員だから皆、冒険者ではあるのが管理職も兼任している

エルタノルティアに滞在する時間が長い者たちの中ではある話題でもちきりであった。


「あの”神風”が推薦する人物が受験する。」


というのだ。 ギルド受験を受けるためには戦闘部門においては他のギルド員や、貴族、騎士団からの紹介などの形を取ることが多い。

もちろん、紹介の形を受けれない者も多数いるのでその場合には実績も考慮し、そのため書類選考する。 まったくの戦闘経験がない人物などの冷やかしはたいていここでハネられる。

受付嬢もただの受付嬢ではない、それなりの目はもっているのだ。

紹介状がある場合は、特に貴族の場合が多いのだが、実力以上にしがらみによる部分が多い。


話をもどそう。


”神風”ことエニス・フォン・アルトレットはいまでこそ、ジェイリス・ファルトニアとクロノトリス・ファルファードの3人組で

依頼をこなすことが多いが、実際組んだのはそう昔のことではない。

それまではずっと一匹狼であったらしい。

あれだけ美しい女、しかも大国シファギリスの貴族なのだ。

同行を申し出る冒険者は多数いた。

もちろん、3人組というギルド規則があるので建前上、二人つれていくのだが、街に置き去りにしたり、討伐場所に向かう最中に姿を晦ましたり

噂は事欠かない。

今でも、3人組ではあるが、どこで知り合ったのか、どのようにして組むことになったのかは私も知らない。


「最後の戦闘部門受験者がこんなかわいらしい少女とはおもわなかったな。」


そんな偏屈な神風が推薦した人物。

それがこんな少女だったとは。

おそらく、見かけどおりの少女ではあるまい。


今まで受験で私と試合を行った者は15人。

筋がよかった貴族のような服装を纏っている少年とレザースーツを着た赤毛の女性は合格にしている。

残りの15人は試験前半にて完膚なきまでに神風にやられている。

めんどうなことは早く終わらせたいといわんばかりの態度であった。

審査員として、そのときは後ろにある審査席で眺めていたが、あれだけ速攻で叩きのめしては受験者の力量すらわからないのだ。

まったく、受験者にとっては災難であろう。

特に、キュロスとワルターの二人、品行方正には程遠い二人組は念入りに

ボコボコにされていた。


それはおいておくとして今回にかぎり、神風は審査員席にいない。

それは自身が推薦者だからだ。 公平をきたすためにいない。


「説明はうけているとおもうが、どのような手を使ってくれても構わない。奥にいる審査員が合図したらスタートだ。」


私はそう告げると、腰からシミターを取り出す。

長年、使っている土属性石が嵌めこまれている愛刀である。


私が抜くと、前にただすんでいる少女がスラリと腰から小剣を抜いた。

あれは・・・あの装飾には見覚えがある。

以前、神風が帯びていた小剣だ。

となるとやはり、あった。闇属性石だ。


まったく、ギルド受験者がもつような代物ではないな。

私は小さく嘆息すると、少し深呼吸をして、この戦いは楽しめそうだと考えた。


「ではこれよりギルド試験を開始する。 双方、はじめ!!」


審査員の声が室内に鳴り響くと同時に少女がバックステップする。

闇属性石を持っていることからもおそらく、魔法に精通しているのだろうと推測する。

本来ならば詠唱するまえに距離をつめるのだが、少女が何をしてくるか興味が湧いた。

目に意識を集中させ、少女を探る。


おいおい、これはまじか。

俺の2倍・・・いや、3倍か。とんでもない魔素量が少女の体から立ち昇っている。

少女も俺をフィジカルブーストで強化した目で見ているようだ。

ギルド受験するような者がもっているスキルではない。


まあ、様子を見るか。


地面にシミターをつきたて、勢い良く少女に向かって切り上げる。


「大地より我に力を! 土塊射出<<ストーンバレット>>!!」


シミターから直結した1m四方の岩石が少女に向かって飛んで行く。

そして、足に意識を集中し、飛んで行く岩石を目くらましとして距離を詰める。

先行する岩石の影から上昇する影がみえる、少女だ。

5mは飛んでいることに軽く驚くが、視界にはいった少女が小剣を持っていない左腕を俺に向かって突きつけてくる。

なにをしてくる?

疑問はすぐとけた、なんと私がストーンバレットで飛ばした土塊が急速に右方向に放物線を描いたかとおもうと

私に向かって戻ってくる。

この奇怪な現象はまさか指示式!?

高ランクの魔術師でも難しい技能である。

それをあんな少女が。


とっさに、シミターをまたも地面に付きたて意識を集中する。詠唱をせずに組み立てる。


土石壁 <<サンドウォール>>!!


前方に高さ2mはある壁を作り、自分に向かって飛んでくる岩石を防御。

ぶつかった壁と岩石は衝突してガラガラと崩れていく。

少女はどこだ。

上、左、いない。後ろか。

振り向くと同時に眼前に少女が迫る。


うぐう。


強烈だ。

無意識に左腕でガードしたが反動で数m弾き飛ばされる。

これが実戦なら小剣を突き立てられて死亡しているかもしれない。

今の時点で私の負けであろう、そう思うがこれは試験である。


態勢を整え、剣を構える。

この少女相手に余裕はない。

楽しむだなどと私は増長していたな、フッと苦笑する。


少女を見据えると、少女の周りの魔素が猛烈な勢いで回転している。

冗談ではない。

あんな風に回転する魔素を見たのはプラチナランク級討伐対象であるワイバーンのブレスくらいのものだ。


あれを打たせると命に関わる。

腰から短剣を3つ取り出すと、少女の足に目掛けて投擲。

殺すつもりはない、怪我ならギルドで抱えている治療員が治癒してくれる。

問題はない。

2つを足に向けて時間差を付けて、もう1つを、狙いは猛烈な勢いで回転している炎球だ。

予想に反して少女は短剣に向けて炎球を手のひらで打ち出してきた。2本の短剣とぶつかり、火柱が巻き起こる。

とんでもない威力だ。

明らかに殺傷力がある。

指示式をもたせて飛ばされることを考えるとゾっとする。


本来なら炎球となる魔素を短剣により意識を乱して散乱、またはぶつけて相殺するつもりで、魔素をまとわせた3本目短剣。

意図せず炎球から逃れたソレに少しだけ期待したのだが、少女が食らってくれるわけもなく、側転して回避、しゃがむと小剣を地面につきさしている。

目に意識を傾ける余裕はないがなにかをしてくると肌が訴えているので、足を強化し、左上方に向かって跳躍。

これは・・・ 冷気!!

小剣とさきほどまで私がいた場所の直線上がいっきに凍てついている。

闇属性石の補助があるとはいえ、どんだけデタラメなんだ。


焦燥に駆られながら、着地すると全力で足を再度強化し、距離を詰めつつ、同時に土属性と風属性の複合魔法であり、

中級魔法のひとつである 煙幕<<サンドウェーブ>>を構築、シミターを横に振る。

盛大な砂けむりが上がり、会場全域の視界を奪う。

もちろん正面からは行かない。

砂けむりを回りこむようにして走る。

プラチナランクとはいえ、私は魔術師ではない、土属性石を利用して魔法を連発している、さらに自己でフォトンブーストを使いすぎたため、全身がきしんできている。

おまけにエルフとハーフのエリスと違って俺は純粋な人間だ。

余力はない。

とはいえ、少女もあれだけの大魔法を連発しているのだ。私とさほど変わらないだろう。

土けむりから何かが飛び出してくる、少女に違いない!

殺すわけにはいかないのでその何かに向かって、全力で私は蹴りを放つ。

命中!


しかし、その感触に違和感を覚える。

それは土塊であった。

「なんだと!!」

おもわず声をあげて、右からなにかが跳躍してくる気配を感じる。

瞬時に右に上半身を向けると、少女の飛び蹴りが私の顔にめり込んだ。


意識が・・・飛ぶ・・・


しかし・・・


なぜ・・・


ノーパン・・・




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