1-08.ギルド試験対策③
昨日はあの後、エリスからきっついお叱りの言葉と庭整備をやらされた。
ゴブリンの魔石で売り上げたお金も宿への弁償で消えたみたいだ、やばい 申し訳ない!
そのあと、戻ってきたジェイリスはエリスの八つ当たりで悶絶させられ、どこにいっていたのか難詰、締めあげられた後、
その場所が遊郭だと判明したとたん袋叩きにされ、屋敷の3階から宙吊りにされたのだった。
どうみても不幸なのはジェスだが、楽しんできたことだろうし、よしとする。
そして、今・・・ ギルド試験が明日にせまる今日。
整備された庭の一角、昨日夕食をたべずに修繕した場所で俺はエリスと向き合っている。
「さて、じゃあ~ 今日はロゼの実戦訓練よ。 わたしが相手!実戦レベルよ。制限はなし。
ただし、真剣はなし、魔法も殺さない程度のものならなんでもいいわよ、 じゃないと実戦にならないしねー。
昨日かなりの数をものにしたんでしょ。」
「ああ、まあ、基礎的なものばかりだがな。」
「普通はその基礎的なものってのに何年かかって習得できるのものかちょっとは理解してほしいきがしないでもないけれど・・・
さて、ここでロゼ君・・・・。 あなたに問題よ、昨日あなたが消し炭にしたあの魔法鎧、あれいくらかしってる?」
申し訳なさをかんじつつ、顔をしかめて答える。
「むう。 5金・・・ほどか? 」
エリスの眉間にピシリと怒りの血管が浮き出る。
「答えは~・・・ アイスボー 50万本じゃあああ!!」
エリスの足元の地面が抉れ、爆発的な速度で距離を詰める、とっさに足に自前の魔素を集め跳躍して回避し、下に目を向ける。
! いない?
背中で衝撃が爆発、地面に叩き落とされる。
あまりの衝撃に息がつまるがとっさに横に転がり追撃を回避。
まじか! 打撃耐性(中)を超えた!?
俺が叩き付けられた場所にエリスが着地する。
「アイスボーの仇!討たせてもらうわっ!」
拳をにぎり、俺のほうにつきつけるとそう高らかに宣言した。
ちょ、それはさすがに。
まじか、へたすりゃ殺されるのでは?
手加減してるのかどうかわからないが、地面の抉れ方を見ると無事ではすまないきする。
内心冷や汗タラタラである。
「いくわよっ!! <<瞬地>>」
目の前にエリスが掻き消える、左わき腹に衝撃、馬鹿みたいに数十メートルふっとび痛む脇腹をおさえつつ、態勢をととのえる。
打撃耐性(大)は取得にならない。 なんか条件あんのか?
頭の中で地面の立方体をコーティング、線をつなぐ、顔をあげ、こちらに向かて跳躍してくるエリスに向かって
線をつなぐ。手をかざし魔力を注いで発動。
1mの立方体の土がエリスに向かって勢い良く飛んで行く。
「っ!? 指示式!?」
エリスの表情に驚愕がこびりつくが、エリスは青く燐光する両手を前に出し、岩を掴むとそれを支点にして下半身を持ち上げ、
前方宙返り、回転した足で斜め下の岩を蹴りつけ俺の背後に着地。
とっさに俺は体を捻りながら右手で裏拳をいれようとするが、エリスが右腕をL字にまげて密接、裏拳より手前の上腕筋自体にあてられ、回転力を阻害される。
左手首をいつの間にかエリスによって掴まれており、右上腕筋の感覚がなくなったとおもったら右手首も掴まれている。
両手首を捕まれ、強引に前向きにされ、背中に足が押し付けられて”ヒ”の状態にさせられる。
そして、正面から指示式によってエリスを追尾した土がーーー
ぐふっ
真正面から土の塊をもらって吹き飛ぶ。
が、衝突耐性(中)と全身を魔素でコーティングしてるイメージをしたため、さほどダメージはない、パンパンと土を払いのけながら立ち上がると
「自分の魔法の対処方法はこころえておきなさい! いまのなら線を切ることで対処できたはずだわっ」
エリスの叱責が響く。
っは、そうだった。
俺は目に意識を振り分け、エリスを観察する。
両足に魔素の比重が多い、目も比較的多い。
そして、エリスは総量自体がクロノスとは比べ物にならないくらい多い事がわかる。
だてにプラチナランクではないということか。
「指示式だけじゃなく、魔素コントロールまでできるのね。やるじゃない! もう使えるとはさすがにおもわなかったわ。
それは実戦で使えればとても有利よ。ただ・・・」
エリスがこちらにむけて手をかざす
「目に振り分けすぎねっ!!」
突風が俺にむかって吹き抜け、おもわず踏ん張るために足に意識を向ける。
またもや左わき腹に衝撃、足に力をいれていたため吹き飛ぶことはなかったが態勢が横に流れる、腹部に肘鉄を貰い、
エリスをせめて逃がすまいと強引に腕をつかまえようとするがしゃがんで回転しつつ回避される、連動した足払いをくらい
倒れたところにいつの間にか握られていた木剣をつきつけられる。
「ふふーん。 まだまだねっ。 でも やっぱり素質はすごいわねロゼ。指示式みたときは一瞬あせったわよ。」
暴れたためスッキリしたのか アニスが笑いかけてくる。
こちらとしてはいいところがまったくなかったので納得がいかず・・・
「まだまだ・・・」
ふらふらと立ち上がる。
ふと頭の中に疑問符がでたので質問する。
「ところで、いつのまに木剣を?」
「ふふ、秘密よ、といいたいところだけど、教えてあげるわ。私がしてる左腕のブレスレットよ。
これは一種のアーティファクトっていう魔法アイテムでね。プラチナランク以上になったらギルドから支給されるのよ。
インベントリっていって中にはいろいろアイテムを詰めれるわ、取り出しも一瞬よ。
ただし、身につけれるものしか入れておけないけどね。」
インベントリ。ああ、アイテムボックスみたいなものか。それにしてもそんな便利なものまであるとは。
ますますゲームに近い。
とりあえず プラチナランクを最初の目標に急遽設定しなおす。
「燃えてきたぞ。エリス! レジストには自信があるか?」
「ふふん?あたしの二つ名を知ってる?ただ、本気のロゼの攻撃魔法は多分レジストできないわよ?
広範囲炎上とかやられたら、逃げるしかないわね。だけど、させないわよ?」
ゆらりと俺は言葉を紡ぐ。
「では、制御できる範囲で・・・全力でいくぞ!せいぜい 火傷しないようにしろよ!!」
「おっけー。あたしもワクワクしてきたわ。」
エリスの言葉を聞くと、俺は高く跳躍、エリスを視界に収めながらエリスを中心点として魔素を固定化するよう意識を傾ける。
減算、構築!
右手を振り切り流入、発動。
「ッハ」
訓練場の1/4ほどが凍てつく。
凍てつく瞬間、エリスは足を弛め、その力を爆発させ、疾風のごとく俺に向かって飛翔してくる。
どうやらエリスはところどころで風魔法を使っていることが目を通して理解できる。
回避するために飛ぶことは計算済み、俺は魔素の固定化と同時に並列展開していた指示式を作成していた炎塊4個をコーティング、
連結させ、指示式を発動。式の内容は俺を中心点として円軌道に周回させること。周回させた炎は3個。
炎が俺の周りで高速回転する。
ハッハッハーーーーー!! 近づけまいっ!
それを見て、エリスが風魔法で急制動をかけ凍てついた地面に着地。
重力の法則に従い、俺がゆっくりと下降しはじめると同時に一つの炎を指示式で地面に誘導、エリスではなくエリスの足元へ。
炎上し、凍てついた地面が溶け、水たまりをつくる。
そこに指示式を解き、周囲にある3個をエリスに向かって投げ、もとい手のひらで打ちつける。
くらえ、水蒸気爆発アタック!!
とおもいきや、爆発は怒らず盛大な3つの火柱が、上がっただけだった。
しまった。 水蒸気爆発は密閉しておかないとー・・・
火柱を余裕でかわして俺の着地地点に向かって、エリスが疾走してくる。
くそ。
降下しながら周囲の魔素と、自分の魔素を幾分か割り振って、指示式を使ってエリスに叩きつける。風だ。
流れる魔素を見切られているのだろう、エリスは軽やかにステップしてL字を描いて俺に肉薄する。
そのタイムラグのおかげで攻撃を受ける前に着地できそうだ。
とっさに両手で魔力を円を作り、着地と同時に地面に両手をあてて魔素を拡散、周囲におもいっきり飛ばす、風が俺を中心として
巻き起こり盛大な土煙が巻き起こる。
制御を誤り、俺自身も後方に吹き飛ばされるが、エリスも吹き飛んだと予想。
体制を立て直しつつ、高速でエディタの中から光のコードをチョイス。
ええい、まだためしてねーから加減がわからん、こんなもんか。
コードを脳内にとどめたまま、魔力は注がないでおく。
土煙から一陣の塊が雷速の勢いで飛来、いわずもがなエリスだ。 木剣はもっていない。 律儀なやつだ。
恐ろしい音を立てて大気を割いて迫り来る蹴りを両手でなんとかガード、と同時に右手の手のひらだけをエリスに向けて
指示式に魔力を注入。
カッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ッキャ!」
エリスの悲鳴をかき消すほど、それは膨大な光量。 太陽を直視してしまうかのような輝きが、エリスの視界を奪う。
俺は目をつぶることでその引き起こした現象を回避。
一テンポおいて、目を開き、目をショボショボさせているエリスの胴にむかって若干手加減したボディーブローをかます。
ボディーブローは強烈な風圧に阻まれて、空振り。
エリスの奴とんでもねえ! 風に関してのみなら到底およばぬほど使いこなしている。
「もう!! たった2日でどんだけ抽斗あるのよ! アンタ!本気でいくからねっ!!」
眩しさで涙を流すエリスが、片腕で目を擦りながら言い募る。
風だ、とりあえず風をとめなきゃ話にならん。
エディタにメモしてあるコードを高速で検索。
これじゃいかん、 これもダメだ、 反転? これは使えるか。
必死で考えている中、エリスに膨大な魔素が集中。 エリスの身体の周囲を取り巻く、青い燐光を放つ文字。
とっさに目で確認、指示式を理解する。
それはエリスの身体周囲を覆うほどの膨大な数の文字列。
まじですか!?!?!?
チートって俺のためにある言葉じゃなかったの?
あの女化け物なんだけど???
やばい!やばい!やばい!
とりあえず、集中力見出さないと、なんかいいもんはないか?
んんんーーー!
これだ!
スキル:嘲弄!!
「おい、エリス、てめー 俺の大事なところ見やがって!スタイルがちょっといいからって調子のってんじゃねーぞ!
パクパクパクと食べ過ぎなんだよ、ちょっと気を抜いたらあのメタボにクリソツになるだろーよ!」
うむ、うむ、おもっていたことがスラスラでる。 これはよいぞ。さながら自動嘲弄機。とおもっていたらー・・・
「糞思いリュック何十キロに渡って背負わせやがって、24だろ!減量しろ!減量!」
あ、あれ? とまらんぞ?
「ビリーズ・ブー○・キャンプでもやりやがれ! 行き遅れるぞ~?? もう遅れてるか?」
どうにもこうにもとまんねー!!?
キニシテハイケナイ。
エリスを取り巻く文字を乱すどころか、量ふえてんだけど!?!?!?
「・・・・・っのド変態が。よくも、きにしてることを・・・・・ やったろーじゃないの!!!
天空より導かれし風の精霊達よ、仮初の主たるエリスが命じる。吹き荒れろ!!ウィングトルネード!!」
女性への3大禁句は年齢、体重、あとなんだっけ?
気を抜いたら太るぞっていっただけじゃん、なんでそんなブチギレるの?太りやすい体質なの?行き遅れが最たる原因か?
街中で・・・いくら広いつっても宿の庭でつかっちゃだめだろ!!!!!!!!
トルネードって台風ですよ!? おくさあああああああああああああん!!
螺旋を描く猛烈な突風が俺を中心として、拡大、拡散!
台風なんて送風(弱)だねっ!と驚愕できる風圧が地面から天に向けて巻き起こる。
俺は空中に投げ出されながら、天地が逆転した状態でエニスにアイコンタクト。
「ゴメン・オレ・ウソ・ユルシテ」
エニスは金髪を掻き揚げながら、流し目で
「オワッテカラ・ハナシアイマショウ」
・・・
ぜんぜん魔法よわめるつもりねえ!
昨日より、遥かに高く、個人の飛翔高度としてはギネスに間違いなく載る高度から落下し、苦し紛れに風魔法で減速かけるが
対して効果は発揮させず、今度は池の水全てを巻き上げるほどの水しぶきを爆発させて、池の水底に突き刺さった。
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-- passive skill:衝突耐性(大) 取得 --
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-- passive skill衝突耐性(大) 取得 --
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薄れゆく意識の中で、ぼんやりと本人が危機感を感じる攻撃をうけた際にスキル取得になるのかと理解。
間違いなく、突き刺さりの難がでている。 間違いない。
ピコーン。
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-- title: 落下者(世界記録)取得 --
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・・・タイトル・・・ゲットだぜー・・・。
ううん。
気が付くと宿のリビングにあるソファーであった。
吹き抜けの3階に吊るされているジェイリスとばっちり目があう。
手をふると、力なくジェイリスも手をふってくる。
1日吊るされてたってのに意外と元気そうだ。
「ロゼ。起きた? 大丈夫?」
体を起こすとすごい倦怠感を感じる。大丈夫って?おまえな・・・!
「大丈夫だが・・・、おまえなっ! 殺す気かっ!」
「私の気にしてることをベラベラ言うからよ!
しっかしね~、無駄な魔法うちすぎよ。これでもかっていうくらい大型魔法つかいまくっちゃって。
あのね、実戦だと敵の数が多い時はすごく役に立つとおもうけど、1:1だと効率よく戦うほうがいいわよ。
わたしがしてたみたいにさ。 部分部分で魔法をつかうの。最初にみせた、土をなげつけてくるのはよかったとおもうわ。」
「ぐぬぅ、しかし、1撃すらいれれなかった。ショックだ。」
いつのまにか有頂天になっていたのだろう。
みんなの声を聞く限り、俺の魔素量はずばぬけている。でも練度が足らず、実戦経験もないため、赤子の手をひねるように負けた・・・
いい勝負とはいえないだろう。 先ほどもいったが一発すらいれれなかったのだ。
どこの世界にも努力というものはやはり必要なのだ。
「明日試験だから今日はもうゆっくり休んで。」
そこから明日の試験用にいくつか助言を貰い、俺は寝室で改めて横になったのだった。
エリスが浴場にいったのはたしかだが、偶然を装って行く力も無かった。
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休日は筆、もといタイピングが踊るぜい。