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マジック・カンパニー  作者: シャーネ
納得がいかない降臨
3/16

1-03.魔物

その後、小剣で軽く突いてもらったらやはりかん高い音をたてて弾いた。

これはすごいぞ。

経験すれば、それに見合った防御力を得れるわけだ。チート!万歳。

他人がもっていたら理不尽さに呆れ返る能力も、自分の能力ならALL OKだ。

そうさ、使いこなせるかどうかが大事なのだ。ふはは。

とはいえ、この世界のことは何も分かっていない、即死要素満載と見ていいだろう。

たとえるならば、アリア○ンでたところの勇者ってところだ。大きなアリクイがでたら死んでしまうだろう。

ちなみに俺に勇者願望は皆無だ。 


やりたいといえば、前世での続きだ、それは叶うかもしれないが、叶わない時のこともかんがえておかねばなかろう。

この世界に会社という存在があるならば、俺はNO1の、世界経済を左右する財界人になってやる。

なければ、作ってやる。そう決めた。

ぬ、あれ、それって商社の概念がなければ王様なんじゃねーか?

いや、違うな、俺は命令されるのも大嫌いだが、命令するのも嫌いだ。

矛盾しているようだが、なんていえばいいのか、同じ目的のために 身分だとか、性別だとかそんなものを抜きにして、全員が自主的に動いてくれる

そんな組織をつくりたいだけだ。命令する前に、自主的に、自分のため、皆のために動いてくれるような仲間がほしいんだ。うん。


「話は変わるが、この世界に商社、会社ってものはあるか?」


「ショウシャ、カイシャ? きいたことないわ。」


「では、商いの方法はどうなってる?」


「ほんとに180度話が変わったわね。別にいいけどさ。金貨、銀貨、銅貨と商品を交換するのよ。でも、辺境では物々交換が主流よ。」


そういうとエリスは身につけていた袋から一枚の銀貨を取り出す。

小さな平べったい円型の銀盤に龍を象ったものが意匠されている。


「こういったものよ。正確にはエルタノルティア銀貨。相場についてはめんどくさいから、これから先でわかるでしょ?」


「そうはいかん。命は金より大事というが、人生の選択肢において、大きな選択を求められるとき、大抵理由になるのはお金様だ。

金を敬え。むしろ、媚びへつらえ。

簡単でいいから相場を教えてくれ。そうだな。

たとえば、城下町、あそこに宿をとるならどれくらいだ?」


「そこはお金より命を大事にしなさいよ。

場所にもよるけど、平民が取る2層の宿ならたぶん・・5銀貨くらいよ。」


至極全うな返答を返してきた。


「では、服は? エリスが着ているのはどれくらいだ?」


「なんであたしの服なのよ!」


「や・・・たとえをだしたほうがわかりやすいかと。」


「普通に男性服の相場きけばいいでしょ! へんた・・・ じゃない、この場合は・・惚れたの? 」


「なんでそうなる、ナル娘!」


「ナル娘ってなによ!」


む~~~ どうにも話が逸れる、逸れていく。

変なタイトルつかないだろうな? あ、フラグ?


・・・


・・・


よーし。

タイトル取得の声は鳴り響かない。セーフだ。


「すまん、男性服の相場でいい。庶民的なもので。」


「1銀~~7銀ってとこじゃない? 質にもよるからわからないわ。ただ、刺繍だったり、宝石が使われてると値段ははねあがるわよ。」


なるほど。やはり 時代でいうと中世あたりが妥当か。技術が金として成り立っている時代かな。


「話をもどそう。商いを取りまとめる組織のようなものはないのか?」


「ん~、一概には言えないわねえ。それこそ国よ。 地方なら領主になるわね。ただ、税をとっているだけで取りまとめるっていう言い方が

妥当かどうかはわからないわよ? それ以外でいうと、そうね! ギルドが一番近いとおもうわよ。 」


やはりあったか、ギルド。 俺の知る知識じゃ、冒険者ギルドとか、盗賊ギルドとか そんなかんじだが。

金をかせぐ方法も聞こうと思ったところだ、ちょうどいい。

なんたって無一文。私物、布切れのみ、義侠心、プライスレス。


「ギルドというと、魔物の死体を持ち帰ったり、依頼を達成するとチャリーン♪と音がなってお金が手に入る便利機関か?」


「どういう想像してるのよ! 死体なんて持ち帰らないわ!腐るじゃないの。だいたい死体を誰が活用するの!

死体をもてあそぶことは禁忌よ。燃やして浄化するのが普通よ、普通! 魔素が死体に溜まるとアンデット化しちゃうのよ?」


バ○オハザードか。 冷暗所の扉を開けたら、リアルゾンビ! 軽くトラウマになるな。

それにしても、魔素がたまるとアンデット化なあ、さきほどの話を振り返ると俺は魔素のみでうごいてるんだろ?

息してないわけだし?リビングデッドか俺は?

もしかしたら、机の上で寝ている間に、心筋梗塞でも起こして転生!って展開も考えれる。


「なあ、歩いてたら俺の体、腐ったりしないかな?」


「どうしてそうなるのよ!! 死体に魔素がたまったらっていってるじゃない。それともあなた死んでるの?

もう何いっても驚かないわよ?」


「たぶん、死んでないとおもう。」


「そこは自信満々に否定して!? たのむから。」


言い返せないのが悔しい。


「ぬう、で、だ。 ギルドにいって依頼をこなせば、金が手に入る。そういうことでいいな? 

最寄りの村はどこだ?」


「ここから北に4ティブほどいったところだけど・・・」


「北はどっち?」


「あっち。」


エリスの指差す方向に足を向け、颯爽と歩き出す。


「分かった。助かったぞ。じゃあな。」


そういうとエリスが慌てたように、回りこんでくる。

それはもう、俺の腰布である一張羅がめくれあがるくらい、ビックリな速度でだ。


「ちょっと! 待ちなさいよ! 何勝手にもう用は済んだって顔してんのよ。あんたの質問に答えたら、あたしの質問に全部答えるって最初いったでしょ!」


ぬう、覚えていやがったか。 美人は歓迎だが、こいつは王城の関係者だ。それは間違いない。

聞けるだけ聞いてトンズラこきたかったのだが。仕方ないな。

話はそれまくったが、律儀に全部丁寧に教えてくれたのだ。それなりの態度はとろうじゃないか。


「なんだ?」


「山ほどあるわよ!」


「もう少し落ち着いて話したらどうだ?」


「あんたが言うな!」


エリスは深呼吸して、一瞬空を仰ぐと、こちらに視線を向けて話しだした。


「ふぅ、 落ち着いたわよ。 あのね、質問にYESかNOだけで答えてほしいわ。中にはあなたが知らないこともあるとおもうわよ。」


「ほほう、わかった。」


どうにも話が逸れるからな、そのほうがいいだろう。


「あなた、ロゼ・・・さんは異世界からきた?」


「さきほどもいったがロゼでいい。分からん。 ・・・YESかNOで答えられん質問をするな。」


「っぐ、たしかにそうね。 答えられる範囲でいいわ。」


「おそらくYESだ。」


「なぜ、裸だったの?」


「しらん。」


「この世界に来る前、私にとっては異世界にあたるけど、その記憶はあるの?」


「YES」


「そう・・・」


なにやらエリスは考えてこんでいるが、こんなもん信じるほうが普通ではないだろう。

だが、王城での騒ぎのときに、あの場にいたのなら 信じられるかもしれないな。

そういう意味では、貴重な人脈といえる。


「元の世界に戻りたい?」


「一応、YES。こちらのほうが楽しいことが多いならこちらにいる。」


生きがいは会社の運営だけだった、あとは読書。ネトゲは学生時代に少しかじった程度だ。それよりも楽しいのなら、特に必死で戻る必要もない。

妻もいなければ、彼女もいない、親は他界している。

あ、なんかへこんできたぞ。俺ボッチだったのか?


「ふ~ん。」


「なにか言いたげだな?」


「あたしならどうしたかなっておもってね。 絶対に帰りたいというとおもうから。

それはいいとして、あたしのこと王城で見た?」


「NO」


「最前列の右隣りにいたわ。それでも?」


視界にははいっていたのだろうが、あのとき そんな余裕もなければ他の奴のインパクトが強すぎて印象にない。


「ああ。」


またもや、考えにふけるエリス。黙ってみているとやはり美人だ、スタイルもいい。さぞかしモテそうだ。

だが、おそらく付き合った後にフラれるタイプだ。


「あたしが城壁の側で助けるっていった言葉を、今は信じてる?。」


「一応、YES。はっきりいおう、助けてもらったことには・・・い、岩から助けだしてくれたことには感謝しているが、

吹き飛ばされたことで帳消しだと思っている。普通・・・死ぬぞ?俺自身が信じられん。

俺がいきなり殴りかかったのが悪いのだが、その服を見て、逃げるなというほうが

無理だと理解してほしい。 信じたいとはおもうが、信じるには、まだ無理だな。」


俺の馬鹿!どうして岩のところで言葉が詰まるの!

そんなトラウマなの!?

ほら、あっちも気にしたのか 目逸らしたじゃん!おもいださせてるよおおお。


「いいわ。敵意を持たれてないだけいいってもんよ。ここからは取引よ。YESか、NOでなくていいわよ」


頷き、続きを促す。 取引。 いい響きだ。アドレナリンが分泌されるね♪

こういうのなら得意で好きだぞ。損得がはっきりすれば、それは下手な友情より信じれるしな。


「では。あらためて、 あたしの正確な名前は、エニス・フォン・アルトレット。傭兵よ。」


「傭兵? 傭兵がなんで王宮の、しかも最前列にいるんだよ?」


「理由はいろいろあるけど、一応プラチナランクの傭兵だからね。」


ほう、プラチナランクとな?

ギルドシステムによくある階級のことだろうか。

仮にも王宮にいたのだ、とんでもなく強いか、こいつが王族なり貴族なりの血族の2択だ。

ランクについてはまだよくわからんから判断がつかん、両方の場合もあるな。


「で?」


俺は続きを促す。


「あたし・・・というか、あたし達ちょっと厄介な依頼を受けさせられてしまってね、それを手伝ってほしいのよ。

あなたをスカウトした理由はいわずもがな、ユニーク持ちだからよ。 王城での一件もみさせてもらっていたわ。

是非、力になってほしいの。」


こいつが相当の実力者だとして、厄介な依頼というのがどれほどのものなのか確かめなければ判断のしようがない。

それと見返りだ。 返答は話を聞いてからだ。


「依頼の内容は? それと取引というからには俺への見返りがあるのだろうな?」


「まあね。 この国では、私にしかできない見返りだわさ。 って その前に、そのでっかい魔素量なんとかならない?

魔物は魔素に引かれてやってくるんだからね! 」


「おまえも相当多いんじゃねーのか?」


「そうよ。 だけど、抑止する技術ももってるもの。あなたは?」


「魔法の存在すら知らなかった俺がもってるわけねーだろ。」


「仕方ないわね。 じゃあ、 これを嵌めて。」


と、エリスがどこからともなく取り出した指輪をなげてよこしてくる。


俺は別段なんともなしに、深く考えず、左の薬指に嵌めた。


突如として、突如として黒い、霧に覆われたかとおもうと、身体に違和感を覚えた。


「待てこら、これはなんの指輪だ?」


しゃべってる最中にも声がかわる、よく言えば落ち着いたトーンのおっさん声がハスキーな性別不明な声に変わっていった。

なんとなく、いや、はっきりと視界が低くなっていく。

縮んでる!?


「魔法アイテムのひとつよ。 魔力を抑えて、抑えた状態にふさわしい然るべき身体に変化させるものよ。

もともとは魔王が眷属を増やすためのものらし~けどね~ あなたはちょうど、王宮で顔みられちゃってるし、ちょうどいいでしょ。」


にゃろう、俺をハメやがったな。

やられたら、やり返す!! 

だがしかし、勝つ見込みがない投資は俺はしないぞ。

無作為に殴りかかったところで、お空にDIVEさせられるのが見えている。 

ここは見逃してやる。



音速で踵を返して、脱兎の如く走り去る。 

背後から


「こらーーー 待ちなさい!!」


と怒声が聞こえるが、心の中で罵倒だけして無視する。

その直後、俺の前に二つの影が躍り出た。






「*******。」


「気がついたようですよ。」


「まじか?魔符は緩んでないな?」


「大丈夫です、抜かりはありません。」


「あー、ジェイリス!それあたしの肉!」


んー。

なにこの状況。

目の前に焚き火を取り囲む3人組み。

俺はといえば身体をボロ布で簀巻きにされ、変な文字が書いてあるお札が一杯張らている。

左薬指にはにはキラリと光る指輪。

俺が意識を取り戻したせいかどうかはわからないが、最初にしゃべったやけに老けて見える男は神妙にこちらを伺っている。

魔法使いです!と一目でわかるような黒色のトンガリ帽子に杖をもっている。

ジェイリスと呼ばれた男は筋骨たくましい。日本じゃある意味お洒落であろう刈り上げた黒髪のヘアスタイルでなかなか整った顔立ちだが目が笑ってない。

剣、どうみても剣だ、刃渡り80cmほどのものを取り出している。

銃刀法違反もなんのそのだ。

それなにに使うおつもりかしら。

もう一人の金髪の女は・・・エリスだ。

こいつは男からとりあげた肉をおいしそうに食べている。

空気嫁。落ち着いた物腰はどこへやら、こちらが素のようだ。



なんともいえない空気の中

最初にしゃべった老け顔の男性が俺に話かけてきた。


「あなたはなにものですか?」


人生においてこんな言葉をかけられたことはない。

俺は一体、どんな容貌になってしまっているのだろうか。とんでもないBUSAMENなのだろうか。


「・・・ニンゲンだ。エリスから聞いてねえのか?」


「確認だよ。」


ジェイリスと呼ばれた男が噛み付いてきた。

そんなことより俺は自分の声にビックリだ。変声期前の少年のようなソプラノボイスなのだ。

違和感ありすぎて奇妙な感覚を覚えた。

男が手にもってる剣をこちらに向けながら


「人間がそんな凄絶な魔力もってるもんか。 人型を取れる上級魔族だっていう可能性がある

だが、残念だったな。クロノスの魔符はヴァンパイアですら身動きが取れなくする束縛術だ。」


男が警戒しながらそんなことをいってくる。

むう、たしかに力がはいらん。指輪で封印された上に魔符だと!?

目の前のいる連中・・・少なくとも男二人の態度は真剣そのものだ。

エリス 説明しとけよ。


「まあ ユニーク持ちの魔族って可能性もあるっちゃあるか?」


とケタケタ笑いながら、肉を頬張りつつ金髪が続ける。


「エリス・・・ 取引とかいって それを切り出す前にこういうのは卑怯じゃないか?」


肉にかみつきつつ


「ほふね・・・(そうね。)」


とつぶやくとようやくフォローをいれてくれた。


「王宮でこの目で見たから真実、十中八九、この人は越境者よ。 あと、こっちの二人はあたしのPTメンバー。ジェイリスとクロノス。」



「本当に越境者なのですか?」


初老のおっさん、実は老けて見えるだけで18だという、クロノスが丁寧な言葉遣いでつぶやいた。


「・・・その可能性はあるが確証はなにもねーな。」


「なあ、王宮でも騒いでたが、越境者ってのはなんなんだ??ただのユニークスキルだろ?」


「そのまんまだ。おまえにみたいにこの世界で生まれたんじゃなく、異世界・・つまり天界から堕ちてきた”ヤツ”だ。

天界がどういう仕組みになってるかお偉いさん方じゃねーと詳しいことはわからねーが、天界から出てきて

魔獣災害のときには人間に助勢してくれたりする。中には人間と結婚して家庭をもったやつもいるな。天界か自分の意思で堕りてきたやつもいれば

追い出されたヤツもいる。アクイロフィアにいるって有名だ、実際に俺がみたわけじゃないけどな。」


ジェイリスが剣を切り株に置きながら言う。警戒心は一応といてくれたようだ。

あくまで一応は。


串を通して焚き火で炙っている肉をひとつ掴むと無造作にかぶりつき、そのまま続ける。


「で、お嬢ちゃんの名前は?」


お嬢ちゃん?そういって後ろを見る・・・簀巻きだから首しかまがらない。

後ろを見ようとしたら、ゴロリンとうつ伏せの状態から仰向けになってしまった。

つまり、あれか、指輪のせいで俺はお嬢ちゃんのような外見になってしまったと・・・そういうことなのかああああああああああああああ!!


「エリスーーーーーーーーー!」


と思わず、熊も怯むような目でエリスを睨みながら呼びかけたが、

食事中の彼女は意にも介さずもくもくと食事している。


「エリス?お嬢と同じ名前なのか?」


勘違いしたジェイリスが聞いてくる。


「露瀬だ。」


一拍置いてから答えた。その様子をみてからクロノスが口を開く。


「名前などどうでもいいがな。俺は早く、夢幻洞を越してプラチナランクに上がりたいんだよ。それで晴れて、二つ名を名乗れる!

 ふはは、俺は既に名乗る通り名決めてあるんだぜ!」


「どうせ頭のわるそーな通り名にするんでしょ~」


とエリス。おまえ、俺を無視しといてからに。


「おう、聞いて驚け。”豪腕”のジェイリス!だ。 どうだ。 ピッタリじゃないか?」


「うわ~ 頭わるいよ~ 脳筋だよ~ それに”豪腕”は大剣使いのアーノルドにもう使われてるよ~」


「煩い、アーノルド卿は俺の尊敬する人なのだ。憧れなんだ! むふふ、 想像するだけで上腕筋が震えるわ。

ゆくゆくはアーノルド卿と二人で前線に立ち!互いの背を預けて魔物を屠る! ・・・!!」


「そ~ゆ~妄想はプラチナランクに上がってからしてよ~。 筋肉菌が感染するから半径2m以内にこないでね?」


「ぬぐ。」


ジェイリスはエリスに頭が上がらないようだった。

それにしてもエリスはよく食べる女である。あんな華奢な身体のどこに収まるのだろう。

10串あった肉はもう残り2本しかない、一人で6本は食べている。

それを視界に納めながら聞いてみる。


「それで俺をこのあと、どうするんだ? エリスの話じゃ、取引で手伝えってことだったが。夢幻洞ってのにかかわってんのか? 正真正銘俺はこの世界のことなにもわかってないぞ、うまれたての赤ちゃんとかわらん。」


エリスが口に肉を含みながら答えてきた。


「さっきの質問に答えるわ、指輪のせいでその姿になったけど、そのことなら心配しないで、いつでも元にもどしてあげられるから。理由は渡すときにいったからわかってるわよね?しばらくその状態でいて頂戴。

夢幻洞についてはおいおい詳しく話すわ。 今しゃべってもしかたないことだしね。とりあえず、ロゼはやだろうけど、一旦エルタノルティアにもどってギルドと連絡をとりましょう。賞金首のロゼに対して誰が、どんなふうにうごいたのか調べる必要もあるしね。 」


会話をしてる中、エリスが最後の一本に手をかける。

それと同時に左手で腰に指してある短剣を逆手に抜き放ち、斜めにする。

キンと高い音を上げ、なにかが短剣に跳ね返り、簀巻きにされてる俺の目の前に突き刺さる。 矢だ。


「お客さんか~、食べてるとこだってのにぃ。」


串肉を右手に、短剣を左手に持ちながら悪態をつきながらエリスが立ち上がる。森の奥から10匹ほどのゴブ○ンが現われた。


クロノスが帽子に触れながら立ち上がり口にする。


「ゴブリン10体というところでしょうか。囲まれてますね」


冷静に口にはしているが、その声は少し震えている。

てゆーか、やっぱりゴブリンかよ!


「多いな、珍しい」


これはジェイリス。

剣を持ち上げ、立て掛けてあった盾をとりつつゴブリンのほうに目を向けている。

焚き火を取り囲む俺たちをさらに取り巻くように現われたゴブリンは様々な武器をもっている。

太い木の枝をもっている者もいれば、ナイフや、錆びた剣をもっている者もいる。

最初に弓を射ってきた以上、弓を所持している個体がいるはずだが囲んでいる中には見当たらなかった。


「食後の運動だねー! ジェイリスは正面の3体、あたしが残り全部やるよ。 クロノスは中央で私たちの援護。

弓うってきたヤツがいるから気をつけてねー。」


エリスがてきぱきと指示を出す。

ゴブリンが同時に距離をつめる。

振り上げた棍棒が猛烈な勢いで少女の頭上に襲い掛かる。

当る瞬間少女の姿がブレ、左手に持った短剣でゴブリンのわき腹を斬りつけると同時に右足が跳ね上がる。

踵がゴブリンの鼻梁に直撃し、倒れ、優雅に金髪は着地する。


まさに一瞬であった。

俺は思わず目を瞠り、その動きに見惚れてしまう。


一番組しやすいとおもわれた少女に出鼻を挫かれたゴブリンは動揺したのか、少女を3体がかりで取り囲むようにして動く。

一方、ジェイリスと対面したゴブリンは錆びた剣を突き出してくるが、軽く弾かれて、腹部を蹴られ後方に倒れる。

仲間が蹴り倒されたと同時に2匹が横から棍棒を振り下す。

しかし、ひとつを右手の剣で斜めに受け止め、ひとつを左手の盾でガードした。

金髪ほどではないが、十分にこのジェイリスという男も戦い慣れているかんじであった。


一方、焚き火のある中央付近に陣取るクロノスは戦闘が開始されると同時にそわそわと周りを見回しながらブツブツとなんか唱えている。

時間としては1分にも満たないであろうが、クロノスが大きく口を開く。


「身体強化”フィジカルブースト”!!」


言葉を言い終えると同時に、杖を掲げると青い光が発生し、金髪少女の足とジェスの腕が燐く光った。


やはり、魔法だ!!! エリスのときに盛大にぶっ飛ばされたので失念していた。


これはすごい。

いままでの常識からいえば、この現状は明らかに常軌を逸しているのだが魔法というロマンを目のあたりにした俺は狂喜した。

夢でもいい、夢から覚めるまえに魔法が使いたい! なぜなら、金になりそうだから。


「きたきた!いっくぜえー!」


ジェスが吼える。


その名の通り、身体強化されているのだろう、ジェイリスが右手を一振りするとゴブリンの持っている剣を粉砕しつつ、そのままホームランのごとく

押し切り吹き飛ばして、木にぶつけている。吹き飛んだゴブリンは、赤い灰となって消え、その場には小さな珠玉の宝石が転がった。


対して、エリスはもっとすごい。

一足でゴブリンに詰め寄ると短剣を閃かせて腕の腱を切断、回転しながらしゃがみ、右足で足払いし、連動した左足で跳躍、

転んだゴブリンの溝落ちに落雷の如き踵落としがに決まる。


あれは当分食事できないであろう。

右手に肉の串はまだ持っている。


瞼を閉じて、もう一度開ける。

すると、もう1体も仰向けに転がっている。

さきほど、ジェイリスに斬られたゴブリンと同様に赤い灰となって散る。

踵落としだけで殺傷するってどんだけーー!

残りの3体はもう逃げ腰だが、それに向かってエリスが追っていく。


ビシュッ


ふいに風きり音がし、クロノスを狙った矢が俺の顔スレスレに突き立った。


「うお!」


びっくりした俺は反射的に横に転がった。簀巻きにされてるから転がらざるをえない。


ゴロンゴロン。


必要以上に勢いがつきすぎたせいか そのまま焚き火にぶつかる。

ぬあああ、炎上!

あつい、あつい、死ぬ、あれ、熱くない?


あ、炎耐性(中)のおかげか。


魔符が燃えたのだろう、俺は先ほどまで感じた倦怠感が嘘のようになくなり身体の自由を取り戻す。

嘘のように感覚が広くなり、手に取るように現状が認識できる。

明瞭とした感覚はクロノスの背後、40mほどの木の上になにかがいると訴えている。

きっと弓を所持したゴブリンであろう。


ビシュッ


また風きり音。


まっすぐこっちに向かってきている、俺、じゃない俺の正面に立つクロノスを狙っての一撃であろう。

しかし、こちらを集中しているクロノスにはそのことが分かっていないようであった。

咄嗟にクロノスを突き飛ばすが、目前に矢が迫る。


これはだめだ。かわせん。


はて、ここでふと思う。なぜ、矢が見えるのであろうか。

人間、死ぬ間際には走馬灯を見るというが、それか。やけにスローにみえる。

なんとなく、生前のアニメを思い出した、敵が振りかざした刀を両の掌で挟み


「真剣白刃取ッ!」


ってやつである。


こんなスローならできるのではなかろうか、身体が動けばだが。

矢だから刀取ではなく矢取になるのだがそれはいいだろう。


できた。


ビックリだ。

人生の運をここで使いきってしまったのではなかろうか。

手で挟みこんだ矢を見ながらそんなことを考えた。

だが、ふと思う。 俺って刺突耐性もってなかったっけ?


※--------------------------------------※

--  skill:矢掴み       取得  --

※--------------------------------------※


・・・


・・・


やっぱ真剣白刃取りではないか。 矢だもんな!

ま、いきなり耐性があるからって躱さないのもアレだしな?

わすれていたわけではないですよ?

ほら、あれだ、轢かれても大丈夫な能力もったとしても、車がつっこんできたら反射的にかわそうとするだろう?

そういうことだ。


「クロノス、だいじょうぶー?」


奥にいた弓矢もちのゴブリンであろう、それを引き摺りながら、金髪少女が駆け戻ってくる。

片手で引き摺らていることは憐れではあるが同情はしない。

さすがに肉の串はもう持っていなかった。

3体をのばしたジェイリスも戻ってくるが、直立している俺を目にとめると警戒したかのように動きを止める。


「え、ええ。大丈夫です。」


俺がクロノスをつきとばして矢から逃れさせたのが見えていたのであろう、エリスははにかみながらいってきた。


「ロゼ・・・。 感謝するわ。助けてくれたんだよね? クロノス、あのままだったら背中から矢が生えたとこだったから。」


それを聞いたためか、ジェイリスも剣を下げ、こちらに近づいてくる。

そして、ジェイリスが声を紡ぐ前に俺はまだ呆然としているクロノス、もといクロノス様に歩み寄り手をつかんでこう言った。


「魔法!教えてくれ!! じゃない、ください!!」

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