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マジック・カンパニー  作者: シャーネ
納得がいかない降臨
12/16

1-12.dont need 二つ名

支部長室と呼ばれるカーサの私室で一連のやり取りと手続きを済ませ、ロビーへと戻る。

ロビーにはもう入ったときほどの人数はおらず、さきほど待機室にいた数名とそれを取り囲むようにして見知らぬ顔がわいわいとまるでお祭り騒ぎだ。

どうやら、ギルドメンバーが新人となる合格者に祝辞を述べたりしているのだろう。

本当の思惑は依頼を受ける際に腕がたつなら仲間に引き込むもうと物色しているといったところか。

不合格者も今後、試験に活かすために話をきいているようだ。

二つの集団があるが、高価な衣装を着た少年がギルド支部から出て行くと、

片方の集団はさざなみが去るかのようにまばらになった。

もう片方の集団に取り囲まれているのは燃えるような赤毛の女性、モニカだ。

合格したんだろうか?


複数の視線が俺とエリスに注がれるが、誰も話しかけては来ない。

彼女はそんな視線には目もくれず、右奥にあるギルドカウンターの一つに向かう。

エリスに手招きされたので、足をそちらに向けた。

カウンター奥のフリフリスカートを着用している女性がぎこちない笑顔で話しかけてくる。


女性は書面になにやら書きながら、エリスを見、そして俺に視線をもどすとあらためて笑顔を作った。


「支部長より伺っております。暫定ギルドメンバーとしてプラチナランクの称号が贈られます。魔法試験も後にございますが、免除と伺っています。」


ところどころに緊張が伺える。

カーサから事情を聞いているからか?それとも、エリスを前にしているからだろうか。


女性の話しを遮るように、彼女の横に中年の恰幅のよい男性が、彼女に耳打ちすると書面になにやら書き始めた。

読めねえ。  文字が理解できないということではない、単純に文字が汚いのだ。女性が頷くのを見るとその男性はちらりとこちらを一瞥した後、カウンターの奥の扉に歩き去っていった。


ざわっ・・  


「プラチナスタートだと・・・聞いたことないぞ」


「暫定ってどういうことなの?」


「神風のおふざけか?」


室内が何やらざわめいている。声でけーよ、きこえてんよ。

受付嬢は騒然とした室内の雰囲気にも流されること無く職務に徹している。


「手続きが多いけど我慢してください。 まず、このブレスレット。プレートが付いているのが分かりますか。

これがあなたの身分証を兼ねています。基本的にギルドがある街はこれでフリーパスです。

大事なものだから無くさないようにしてください。」


そういうと受付嬢にあるまじき姿のおねーちゃんは壮麗な文様が刻まれたブレスレットを手渡してきた。若干緊張しているせいで小リスをいじめている気分だ。端からみたら俺のほうが子リスだが。


ふむふむ。 なんか名前が刻まれてるぞ?

おそらくエリスがやってくれたんだろうが、このうえなく恥ずかしい。

考えても見てくれ。 誠という名の方がいたとしよう。

MA・KO・TO って刻まれたブレスレットをつけた中年男性を見てどう思う?

今のみてくれはYO・U・JYOに近いが、そういう問題じゃねえ。

俺の魂が拒絶している、鳥肌モノである。


ってか、ギルド試験に合格したメンバーはなんて登録してんだ。

目ざとい奴がいたら、ちらっとブレスレットみられただけで名前が知られちゃうのはかなり個人的には危ない気がするのだが。


「名前が見ただけで知られてしまうのは個人的に嫌なんだが・・・、他の方はどうしてるんだ?」


「嫌なのですか? ギルド合格者ということだけで泊がつくものなので大抵の方はつけてらっしゃいますよ。」


「わたしはインベントリにいれてるわよ」


「ああ、なるほど。」


インベントリにいれときゃいいのか、便利だな。 でも、インベントリの所持はたしかプラチナランク以上だったきがするが・・・ 

暫定とはいえもらえるのかな?


「よろしいですかね? それでですね、インベントリにつきましては、ご存知のようですから説明は必要ないですか?」


あ、やはりもらえるみたいだ。これは嬉しいぞ。

軽くエリスから聞いただけなので詳しく聞いておきたい。


「いえ、お願いします。」


「インベントリとは魔法アイテムの一種です。

これを念じると、身に付ける装備の類を収納することができます。容量は個人の魔素量によって変化しますので後でご確認ください。

取り出すときも念じるだけでいいです。実際にやってみるとすぐ分かると思います。もし使用方法でお困りの際は気兼ねなくお聞きしてください。

ヘルプを参考にしてもよいでしょう。

特殊技術を用いて作られており、製造方法は秘匿されています。私も存じていません。

戦闘、魔法、特殊、生産、分野に問わずプラチナランク以上の方に貸し出しています。めったなことでは降格しませんが、

降格した場合はギルドに返却してください。持ち逃げしようとした場合にはギルドから追放処分の上、追っ手がかかります。

貸し出すといっても、個人所有になると考えてもらって構わないので魔素文様認証が必要です。

では、こちらの紙に手をあててください。」


ふむ、あとで試すとしよう。

差し出された紙に手の平をあててみると、淡く光った幾何学的な文様が紙に刻まれる。


「ありがとうございます。 これで認証は完了です。 では、次にお好きなインベントリを1つお選びください。

お決めになられましたらロゼさんを所有者として、認証いたします。」


差し出されたアクセサリー箱のようなものの中には イヤリング、リング、ブレスレット、ベルト、ネックレスがある。


常にもっておかないいけないものだし、貴重品だ。

できるかぎり肌身離さず、ひと目に触れないものがいいな。


うーん。


少し考えた後、ネックレスを指さした。


「ネックレス形状ですね。分かりました。」


そう言うと、お姉さんはネックレスを先ほどの文様が刻まれた紙で包んだ。 包まれた包装から薄く淡い青色の光が漏れると徐々に光が収まっていく。


「はい、これでOKです。 どうぞ、お受取りください。」


ずいぶん簡単だな?オイ。こんな簡単なら自分の手荷物全部その紙で

刻印すれば窃盗問題なんてなくなるんじゃねーか?

そんな疑問をエリスに口にしたら、魔証紙と呼ばれるその紙は一度しか使えずとても高価なものだそうだ。

その場で包装から取り出して、渡されたネックレスを首からかけ、服の中に隠すようにしまいこむ。

ブレスレットとネックレスを装着すると例の声が脳内に響き渡った。


※-------------------------------------------※

-- title:ギルドランク"プラチナ5"仮  取得 --

※-------------------------------------------※


ご丁寧にも仮という文字がついている。


「ロゼさんが所有者なので、そのネックレスはロゼさんにしか使用できません。さて、次にギルド所属規定の説明をさせていただきます。

ネックレスをかけていただきましたら、生体魔法の一種で照合とヘルプにギルドについてお調べすることができるようになったとおもいますので

そちらをご覧ください。」


話を聞いて、右下にあるアイコンからヘルプを呼び出してみると、ギルドについての欄が追加されていた。



------- ギルドについて(new)-------


・ギルド要項

・ギルド部門別要項

・ギルドランク

・ギルド規定


--------------------------------------


そこを調べてざっと目を通す。

だいたい見知った内容だが、要約するとこうだ。


ランクはダイヤ,プラチナ,ゴールド,シルバー,ブロンズの5段階。

さらに各々の階層において1~5段階まで分かれているため、全てのランクを列挙すると25段階にも及ぶ。

ランクはダイヤランクが最高だ。

ランク基準の依頼を受領できるようになり、力に見合った一定数の依頼を完了するか、どのような形であれギルドに貢献したと判断されると

昇給していく。 

降格は基本的にはしない。

基本給のようなものは存在せず、依頼でのみ賃金が支払われるシステム。 

依頼はパーティー平均で+、- 5段階まで受領できる。

ギルドメンバーとなった以上、ギルドからの命令は基本的に絶対遵守。

明らかな無茶振りの場合は、ギルド本部にあるギルド雇用監査会に訴えることで免除されることがある。

ランク問わず、情報開示義務があり、それに加え、ダイヤランクは国家非所属義務があること。


これに加えて、細かな制限も書かていたが、それでもギルドメンバーになろうとする者が後を立たないところを考えると、

やはりメリットは相当大きいのだろう。

受付嬢聞いた話によると、ゴールドランク以上の著名な鍛冶師は依頼をこなさずとも、ギルド、商社、果ては国家から注文が殺到し、依頼なにそれ?状態だという。

これは鍛冶師に限らず、どのような部門でも一緒だ。

俺は脳裏でさきほどの禿げのことを思い起こしてしまった。


情報開示義務があるということは、国家に結びつく貴族や王族がギルドに名誉目的で所属した場合に問題になるような気がしたが、そこは暗黙の了解があるらしい。


国家非所属義務がある以上、それならばプラチナランク1止が一番美味しいのではと考えてしまうが、Sになればそれに見合うだけの待遇と権限があるようだ。

現在のダイヤランクはたった6人。


そう考えると、プラチナランク1のエリスは著名人なことが頷ける。

日本の芸能人なんて売れてない者も合わせると万超えてそうだからな・・・。俺の憶測でしかないが。


最後にギルド受付のお姉さんがこう聞いてきた。


「二つ名はどうしましょう?」


どうしましょうといわれましても。

こっちにきて まだ一週間も経っておらず、この世界の「せ」の文字すらわかってない俺に大層な二つ名などいらない。


「エリス、なんか案あるか?」


ふられたエリスはぽりぽり首元を掻くと


「う~~~ん 大抵、二つ名ってのはプラチナになるまでにだいたい特徴とか、技能が噂を呼んで自然とよばれちゃったりするもんなんだよね。 

わたしが知る限りは、”神風””遠雷””幻氷””最遠””教官””癒波””煉獄””外道””勇者””豪腕”

 まだまだ・・ ”臨界””透徹””天覇”・・・」


厨二病まっしぐらな名前ばっかだな。それにしても勇者ってなんだ。つっこまねえぞ?


「神風はエリスだろ?2文字じゃねーといけない決まりでもあんのか?」


「そういうわけじゃないけど、なんていうか・・・ 流行? 火魔法よく使ってるし!”焼肉”はどう!」


こいつからかってやがるな?


「それはちょっと遠慮する。」


「んーーーー! ”照焼”」


意味がわからない。却下だ。とりあえず食べものに関するところから離れろ。


「パスで。」


「ならば、焼き・・・焼き・・・ 焔!」


ほむほむ~~♪ じゃねえ! 2文字の流行はどこいった?


「パス!!」


エリスが手を顎にやりながら唸る。


「じゃあ、とっておきよ。これしかないわ。 アイスボー 」


もはや漢字ですらなくなった。


「・・・ 死ね。」


なんでよー!!と両手をブンブン振り回しながらエリスが頬を膨らます。ちょっとかわいい。

かわいいけど、これ24歳がしているんだぜ?アウトだよな?

いかん、思わずアイスボーでいいです、といいかけたがいくらなんでもない。エリスを見る限り、二つ名は ある意味 名前より浸透する可能性があるからな。

受付嬢に暫定プラチナランクだし、保留にさせてくれとだけ、いっておいた。



ギルドカウンターの奥にある木目が麗しい壁には少し不自然な違和感を醸し出している、エリスが昨日絡んできた馬鹿二人を

めり込まさせた部分であろう、その近くにある漆喰のような素材で塗られた木製の白色扉がキイと音をたてて開く。

入ってきた男は冒険者風な軽装な出で立ちをしており、ところどころに刺繍のはいったチャコール色の上着に、茶色のズボンを履いている。

目元は涼やかで瞳はブラウン、瞳と同系色の髪が顔立ちによく似合っている。

腰には華麗な装飾のされた曲刀、シミター。

嫉妬の色メガネを掛けなければ10人中9人がイケメンと答えるであろう。や、別に嫉妬してるわけじゃないよ?

そのイケメンの顔にはくっきりと靴跡がある。

別に彼がイケメンだったから、顔面に蹴りをいれたわけではない。そこんとこ、よろしく。

戦闘担当教官だった。


THE・お祭り状態だったロビーが少しずつ静まり返っていく。

教官は注目されていることを気にも留めず、カウンターの前で受付の女性と会話している俺とエリスのところまでやってきた。

俺とエリスを交互に見てから声をかけてくる。


「やあ、エリス。久しぶり。」


「あら。 ティルトお久しぶり! っていってもあんた伸びてるとこ、わたしみてたんだけどね?斬新かつ新進気鋭の意匠を顔面に施しているけど~ 新たなファッション? 」


「そんなわけあるか。 原因はそこのお嬢さんだよ。伸びてたとこみてたんならわかってるくせにいうなよ。」


「十中八九そんな気はしたけど、気を使って口にしないであげたのよ。」


「気を使うというなら僕の分も教官やってくれよ」


「今回は半分うけもってあげたでしょ!面倒くさいし、面白くないから嫌よ。」


そういって、エリスは両手で☓の字を作った。

この教官、ティルトは苦笑めくと、俺に視線をうつした。


「ロゼさん、あらためて、あなたの試験担当させていただきましたティルトといいます。よろしく。さきほどの試合は驚愕の連続でしたよ。 ここらで僕が負けたのはそこの自己中女以来ですしね。

試験教官やってて初めて負けました。 いい刺激をうけました。ありがとう。」


うーん、礼儀ただしい人だ。 お洒落さんだし、イケメンだし、さぞかしモテるだろうな。・・糞が!もっと蹴り跡つけときゃよかった。

おっと本音が。


「いえいえ、こちらこそありがとうございました。 これから何か縁がありましたらその節は宜しくお願いします。」


礼儀には礼儀で。内心はどうあれ丁重に返答しておく。日本人的鏡。


目を少しだけ大きくしたティルトさん。


「ご丁寧に・・・どうも。 エリスの紹介だっていうから、もう少しぶっ飛んでると思ったんだけど、とても姿どおりの年齢とはおもえないなあ?

じつは魔族といわれても俺は驚かないよ?なんたってエリスの紹介だし。」


エリスが口をはさんできた。


「そーいえばロゼの年齢、あたしも知らないわね いくつなの?」


うーむ、答えにくい。が、アニスらには最初あったときに境遇は語ったし、それに似たようなこともこの街に向かう途中でずいぶん聞かれたしなあ。

別に答えてもいっか。エリスは本来の姿しってるし納得してもらえるだろうしな~。ティルト教官にしてもあの場にいたわけだしかまわないだろう。


「・・・29。」


「・・。」


なにその微妙な反応!!もうイジれる年齢じゃないわね的なその目!!やめちくり! 

奇妙な静寂をティルトが耐えかねたかのごとく口を開く。


「や、まさか本当にそんな年だったとは。お嬢さんと呼んで失礼だったかな。」


「仕方ないことですよ。この姿にこの服装ですからね。」


ティトスは軽く笑うとエリスに向かって言った。


「ふ、ありがとう。 エリス、この後は一旦 宿にもどるのかい?」


「ええ、そのつもりよ。ロゼが魔法試験が受けるなら、それ見てから帰ろうとおもったけど、免除になったから。

当然よね。この支部には高ランクの魔法専門職なんてそんないないし。

今頃、髪も腹の中も真っ黒なクソ女が、慌てて本部に向けて連絡とってるころだろうから試験どころじゃないんじゃないの? 」


そして、一段声を落として周囲には聞こえないようにエリスがティルトへと囁く。


「どこまで聞いた?」


すると、ティルトも声のトーンをおとして呟く。


「そのことについてな。 あとで宿に伺いたい。」


コクンとエリスが頷く。

それをみてからティルトが声を元の大きさにもどしてエリスに対して軽口を叩く。


「そう言ってやるなよ。あれでもカーサの奴、結構苦労してるんだぜ?」


エルタノルティアの支部長、カーサ。俺が言うのもなんだが絶世の美女だとはおもう。服装の露出が激しすぎて

刺激が強すぎるのもあるが、近寄りがたいオーラがあるのはたしかだ。新宿のNO.1キャバ嬢を相手にするとあんなかんじだろうか。

ああ、キャバ嬢が近寄りがたくてどうする、いい例が思い浮かばないわ。

そんな支部長がいる支部長室は、服装と反比例して整理整頓された実務に特化した質素な部屋だったが、そこでエリスの立会のもとで関係書類を作った。

その際にもお互い憎まれ口を叩いていたが、口で言うほど険悪な仲ではなさそうだ。

似たもの同士な空気が漂っている。同族嫌悪という奴だろう。


「出世、もとい保身のために苦労してるだけでしょ~。しったこっちゃないわよ。」


フッときざな苦笑を浮かべると、わかったわかった、またあとでなと言いながらティトスは踵を返し、奥の扉へと消えていった。


さて、ティトスが去ったあと、それまでこちらを遠巻きにみていた人らが

一気に話しかけてきた。

ちなみにエリスはギルドカウンターから離れた片隅にある依頼掲示板のほうに行った。

ジェイリスやクロノスも最初からそこにいて、なにやら話しこんでいたようだ。一応、俺とエリスが部屋にもどっきたときに身振り手振りで試験結果を伝えていた。

エリスが手をジェイリスらのほうに向けて親指を立て、ジェイリスがそれをみてガッツポーズ、クロノスは軽く拍手。

こんな感じである。


周囲を取り囲むようにして質問攻めにされた内容は以下の通りである。


「すげえな、オメーさん 試験官ぶったおしたのか?」


とか、


「どういうふうにあの変則的な剣技をくぐりぬけたの?」


「もうパーティーは組んでんのか?」


等等。エリスが目を離した途端これだよ。

よっぽどエリスが怖いのかなあ? 

先日、ガラの悪い奴らがまさにこの場所で半殺しにされているからしかたないか。


俺は律儀に一つ一つ質問に答えていく。暫定とはいえプラチナランクデビューだし、カーサとエリスの二つのルートで本部に連絡がいってるであろう。

隠したところで・・・ってやつだ、それより少しでも顔見知りを増やしておくにこしたことはない。同業者になるんだしな。


まず、教官は魔法使って倒したこと。

そのため剣技については分からないこと。

実際見てないし、見たとしても詳しくもないし。

パーティーについて、受付嬢から説明はうけていたが、詳細はあまりよくわからないのでこちらから聞き返してみた。

するとこんな答えが返ってきた。

パーティーは依頼ごとに組んだり、解散したりできるが、手続きがめんどうなため必然的に長期的に組むことが多いらしい。

ゆえに、誰がどこのパーティーに所属しているかはギルド支部に来るとだいたい分かるようになってくるようだ。

エリスらから誘われているのでおそらく エリスと共に行動することを伝えるとすごく落胆していた。

不死湖のことは伏せている。

中にはそれでもめげずにエリスらも含めて、一緒に行動しないか?と誘ってくるものもいた。

大人数のパーティーが合同で依頼をうけるシステムはレイドというらしい、つまりレイドとして参加しないか?とのことだ。

エリスが実質上のパーティーリーダーなので彼女に聞いてくれ、と断る。

不死湖にいくにはそれなりに人を集めたいところだが、パッと魔素を目に集中して見る限り、話しかけてきた連中の魔素は微弱すぎる。 

おメガネに叶いそうな者は遠巻きにこちらを観察しているだけで会話に参加してくる様子はない。 


一段落したら、赤毛のレザースーツに身を包んだ女性、モニカが話しかけてきた。


「ふぅ、ようやく話せるわね。 まずは合格おめでとう。 お互いに、ね。」


と片目をつぶってみせる。 ギルド試験待機室で話し込んだこともあり、エリスら以外ではこっちの世界で一番話せる。

波長も合うしねっ!

喜びながら俺は答えた。


「モニカさんも合格されたんですね、おめでとう。合格したのはモニカさんとさきほどでていった貴族っぽい少年だけなのかな?」


「そのようねえ。 私は手続き終わったら、今までのあなたみたいに質問攻めにされてねえ、勧誘も多かったわ。

 お金もそろそろ底をつきかけていたし、レイド”エルトネス”のメンバーとしばらくは一緒に動いてみるつもり。

 ロゼちゃんはあっちにいる金髪の方とパーティーなのよね? もし、所属してないから一緒にどうかなってさそってみようとおもったけど、

 またの機会にしましょうか。」


モニカが相手だと、俺も幾分か素の態度で接せれるから不思議だ。


「ああ、残念だけどね。俺も時間が空いたら声をかけるよ。

 ・・・人にはあまり言わないでほしいが、近日中に不死湖とよばれる迷宮に向かうつもりだ 」


「? わかったわ、口外にはしないようにする。

 でも、奇遇ね? 私達も不死湖にいくのよ。 5層までの狩りと依頼を兼ねてね。今から私はエルトネスのメンバーと顔合わせがあるから時間はとれないけれど、エルトネスの動き次第ではしばらく街にいないと思うのよねえ。そうだ、ロゼちゃん いろいろ準備があるとおもうし、街もあまりみてないのよね?

 明日の午前中、よかったら街見て回ったりしない? 私につきあってもらう形になるからよければでいいけれど。 」


ふと、禿げ、もといガルガトス生産部門長のことを思う。奴は今、進退極まっている。

事実上、明確な証拠といえるものはないものの、汚職嫌疑を掛けられている状態で、情況証拠は固められている。

カーサが決済書等の書類を提出しろ、といっていたが俺に言わせれば甘すぎる。奴から提出させる以上、いくらでもごまかしは効くだろう。

だが、カーサも貴族に顔が効くようだ。こうなってしまえば、奴の失脚は目に見えている。

たとえ、ごまかしきれたとして(カーサが故意に見過ごすことを考慮して)、俺が不死湖の依頼に成功し、帰ってきても失脚は免れ得ない。

それを回避する方法とすれば、俺を不死湖で亡き者にするか、カーサ、ミルドといった半目する連中をどうにかして失脚させる、強引な手段を用いるなら全員消してしまってから口裏を合わせればいいが、それは

さすがに取るとはおもわなかった、辺境とはいえ首都のギルド支部、そうそう取り繕えるとはおもえない。その保険のためにエリスの名前をあの場でだしているわけだし、2ルートで本部に掛けあっている。

が、しかし。

追い詰められて近視眼となった人間が取る行動は時として突拍子もないことを俺は知っている。


モニカと二人で行動するとなると、奴らにとっては絶好のチャンスではなかろうか?

だが、逆にこれは俺らに対してチャンスでもある。 決定的証拠がない現状で実行犯を捕まえれれば確定的になるし、

不死湖に行く前に害の芽は摘んでおきたい。


モニカを巻き込むことになるかもしれないが、それを抜けば断る理由もない。正直、エリスなみの人間がゾロゾロいるなら話は変わるが、認めたくないがあいつは別格だ、そうそうプラチナランクを

破っている俺に対し、刺客なりを送ってくるとなると浅慮というものだろう。

街中で人目を引くということもある。ただ、ガルガトスのつながりは話しぶりからして王族・貴族ともに幅広い、人目は障壁にはならないかもしれないな。


実際街の中、というか この世界のことを少しでも知るためにいろいろ見ておきたいのだ。

エリスと街を歩いてもは食べ物に惹かれて案内どころじゃないし、クロノスやジェスもなにかと単独行動が多い。

気兼ねなく誘ってくれるならありがたいことである。その分申し訳なくも思うが、襲ってくるとは限らない。

本当に正義感のみでガルガトスは動いていて、汚職していない可能性すらある。


しばらく考えて、答える。


「おっけー。エリスにいって時間とってもらっておくよ。」


「ふふ、じゃあ 朝10時にメインストリートの噴水で待ち合わせしましょう。」


俺が頷くと、モニカは手を振りながらエルトネスのメンバーだろう、黒髪の男性と青いポニーテールの女性と共にギルド支部から出て行った。

モニカが出て行ったことを見届けてから、俺はエリスらがいる掲示板に歩み寄る。

クロノスやジェイリスは幾分真剣な表情でエリスとの会話を聞いている、どうやら俺と試験会場での部門長らとのやり取りを

教えているようだ。

クロノスは思わず天を、天井を仰いで唸る


「エレメンタルピラー・・・ に使う魔石を手に入れる・・・、”掃除”を実質プラチナ二人と、ゴールド二人だけでやる・・・と

そんな馬鹿な・・・。 前回はギルドの有力者や、国の手だれの精鋭を揃えた一連隊規模の動員だったはず・・。」


「腕がなるな!! こりゃあ、達成したら確実に昇進だ。」


はしゃぐジェイリスと、絶望しているクロノスから改めて暫定とはいえ合格の祝辞をもらうと、俺はモニカとのさきほどの話をここで出した。

エリスは頷くと、どこからもってきたのか、煎餅のようなものをパリパリと食べだした。


「分かったわ~、じゃあ 出発は明後日にしましょ~。

 あ、夕方からティトスが宿にくるから、それまでには全員もどっておくこと。 じゃあ 解散。 あ、ロゼはちょっとあたしにつきあって。」


それだけいうと、ロビーで解散して俺はエリスの後ろをついていった。




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