1-01. 王道の異世界突入、ただし素っ裸
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-- skill:エルタノルティア西方言語取得 --
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「キャー!!」
「お、おい、誰か衛兵呼んでこいよ。」
「なんだ、なんだ?」
う・・・頭痛がする。体の節々が痛い。徹夜明けだから仕方ないな。
真っ暗な視界がぼんやり、だがほんの少しづつ焦点を結ぶ。
周りがざわざわと騒がしいな、取引先への納品までは漕ぎ着けたんだ、少し寝かせてくれよ、ああ、見積書をつくらんとな。
ザワザワ・・・
う~ん、騒がしい、寝てられん。立ち上げたばかりの零細企業とはいえ取締役兼社長の睡眠の邪魔をするとはいい度胸だ。
一括して黙らすか。
カッと意識をこめて目をあけ、膝に力をいれて立ち上がる。よっこらしょっと。
肺に大きく息を吸って一声
「職場では私語は慎め!!!」
立ち上がるときにスーっと風が全身を薙ぎ、気持ちが良い、ふはは、凄まじい開放感だ!
仕事明けはこうでなくちゃな!
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-- skill:一括 取得 --
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あん?イッカツシュトク何いってるんだ。
ざわついていた周囲が鎮まり返り、ようやく静寂が訪れる。
はて、立ち上がって周りを見るとなんだこれは。
中世の町並みが目にはいる、正面には華麗な装飾をほどこされた龜を持った女神さまから水が流れて落ちている噴水。
そして噴水を、俺を含めて、グルリと取り囲む人々。
OH... 夢か。夢なら仕方がないな。夢でも一括しちゃうって疲れてんのかな俺。
ゴシゴシと目を腕で擦るが、覚めない。
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-- passive skill:摩擦耐性(弱) 取得 --
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いや、だからさっきから何いってんだ?
擦った目を大きく見開いて周りを睥睨する。仮装大会の夢かな?
「コスプレにしちゃ~ できがいいな。」
俺を見るなり、バッと赤面して顔を逸らしたご婦人は今どきピアノの演奏会でしか見られないようなふんわりスカートが広がるドレスを着ている。
スカーレットオハラっていうんだっけ、あれ。
ドレスを着たオバハンの横に立つ男は怪訝そうな顔をしつつも、身なりはやはり中世っぽい、しかしメタボすぎて、服のボタンははち切れそうだ。
手に持つのは鎖、それに繋がれているのは猫耳の、痩せてはいるが、可愛らしい少女。
俺を取り囲む人々は程度の差があれ、全員コスプレしており、そんな童話の世界が目の前に広がっている。
夢にしては上出来か?
「ふ~む」
あれ?
そういや、なんで俺素っ裸なの?
そりゃご婦人も目を反らすよ。なんかごめん。
ネトゲでもlv1で世界に降りたとき、下着は大抵ついてるよな。
アルティメットモードってやつか。木の棒やステテコパンツすらない勇者みたいな。
それとも、実は俺、こういう願望があったのか。
・・・
・・・
・・・
いや、ない!断じて否!
一人ツッコミしたと同時に、さきほどの開放感の理由に得心がいく。
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-- title:恥辱の超越者取得 --
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やけに大きい声が聞こえたな。オイ。誰だよ恥辱の超越者て。
好きで裸で夢に登場したわけじゃねーよ。
うん、そりゃ素っ裸だと心地よいわ。
だが、夢の中とはいえ、ガン見されるのは気分がよくねえ。
俺はキャノン砲じゃないしなっ。
「おい、見せ物じゃねーぞ。」
そう周囲に向けて言った瞬間、いかつい兜に赤と白がまじった甲冑を着た衛兵が人垣を分けて俺の正面に立ち、声高に難詰してきた。
わーお、ご丁寧に槍までもっています。
銃刀法違反ですよ?れっきとした長物ですからね。あくまで心の中でそうつぶやく。
「貴様っ、神聖なる王都の中央でなにをやっておる!!」
ム、いきなり声を荒げられる。荒らげられる気持ちはわからないでもないが、その高圧的な
態度に少しカチンとくる。
夢の中だ、刃物を持っていても怯む俺ではない。
「そんなもん、俺が知りたいわ。」
「フン、大方逃亡奴隷か? 名乗れ! それとも名すらないか? 卑しい者よ。ひっ捕らえて貴様の飼い主も監督不行き届きで責任をとらさねばならんなっ!」
「奴隷なんかじゃねーよ、金ピカ野郎。名を尋ねるときは自分から、そう教わらなかったのか?」
そもそも人に命令されることが大嫌いで独立して会社を持ったのだ。
高圧的に上から物を言われることは我慢ならん、夢じゃなかったとして、道端で素っ裸で倒れてる奴を俺がみたら、まず体調を心配するわ。それからしかるべき機関に連絡する。
出てくる言葉も大丈夫ですか?か どうしたのですか?だ。
「せめて、その残念な一物だけでもこれで隠すがよい!! それを巻いたらこちらに来いっ!」
そう言うと衛兵の手からいかにもダニがキャッキャウフフしてそうなボロ布が俺に向かって投げつけられる。
ドッと笑いが周囲から巻き起こり、囃し立ててくる。
「そうだぞ~ 兄ちゃん、残念なのは頭だけにしておけよ」
「頭だけじゃなく、大事なところも残念だからなあ、ハハハ」
「いやだわあ~オホホ」
うっせえな、男の価値は大きさじゃねえ!テクニックだ。少なくとも俺はそう思っている!
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-- skill:虚勢 取得 --
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-- skill:フレンジ(弱) 取得 --
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虚勢じゃねえよ!!そ、そうおもってるよ?
やり場のない怒りを感じながら、大切なところを守るように隠しつつ、せっかく静かになった場をかき乱した元凶をにらめつけつつ言ってやる。
「残念とかいうなボケ。初対面で言われる筋合いじゃねえ。それと、さっきからでっかい声でしゃべりやがって、頭に響くんだよ。
それよりてめーらの格好、裸よりだせーぞ? その兜あつくないの、しゃべるたびにスーハースーハー息漏れしてんだよ、
犯罪者を拉致するどころか、一般人拉致してそうな格好だなあ?オイ。」
馬鹿にされたら馬鹿にしかえす。当然だ。
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-- skill:嘲弄 取得 --
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「な・・・なんたる愚弄。 神妙に縄につけ!! ひっぱっていってやる!」
「な~にが、神妙に縄につけ!だ。お芝居しては口調がプルプルふるえてるぞ~ あと、さっきからフレンジシュトクだとかチョウロウシュトクとか
意味わかんねーよ、人間の言葉で頼む。」
「・・・許さぬ!」
我慢の限界だったのか、槍先が足を狙って飛んできて右膝に深々と刺さり、赤い血が流れ落ちる。
迸る激痛、が、耐え切れないほどではない、
ちょっと、まじか。
口喧嘩で腹が立ったら刃物に訴えてくるの?そんなのアニメの世界だけでいいよ?
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-- passive skill:刺突耐性(弱) 取得 --
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「なにしやがんだこの野郎! 口には口で返せ!軟弱野郎!」
あ、いかん、思わず言ってしまったが後の祭りだ。
「まだ言うかっ!!」
衛兵は再度、槍を構え直し、再度 傷をおっていない足に向けて突きを繰り出してくる。
ガキンっ!
足に当たった槍が音を立てて弾かれ、苦し紛れに槍から身を守るために振り回した右腕が衛兵に当たると
豪快な音を立てて、衛兵が吹っ飛び噴水の女神像にぶつかり静かになった。
ワンテンポ遅れて女神像が倒壊、ガラガラと崩れた女神像の破片が水面に落下し、噴水に盛大な水しぶきが上がった。
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-- skill:カウンター 取得 --
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「たしかにカウンターだわ。」
脳内に響き渡る声を反芻して口にだしてみた、が、反応はない。
ここまできて、ようやく この”声”が周囲を取り囲む人々から発するものではないことに薄々気付き始めた。
あれか、あれなのか。今、流行りの転生ものってやつか?
こっそり関係書類作りながら裏で窓ひらいて読むのがマイブームだ。
だからといって、納得できるかといえばNO!だ。
しかし、肉体が訴えてくる感触や躍動感は現実と大差がない、夢と片付けるにはリアルリティありすぎだよ。
頭の中でそんなことを反芻しているといつのまにか取り囲んでいた人垣が面代わりしている。
で、これである。
俺の周りを何十人もの衛兵が槍を向けて取り囲んでいる。
騒ぎになっているためか、衛兵の後ろからは野次馬が乱立しており、それはもう、すごい喧騒だ。
幾分、距離をおいたものの取り囲んでいる最前列の観衆は興味津津な目をこちらに向けて静かにしているが、衛兵の目は仲間をやられたためだろうか、殺気走っている。
夢だからって痛いのは勘弁だ、高圧的な最初の衛兵に手をあげたことで少し溜飲は下がったので、今度は促されるままに神妙にお縄についた。
ボロボロの布切れを腰にだけ巻きつけ、手には頑丈そうなロープを巻きつけられ、引っ張られていく。
少しでも遅れると後ろから蹴りが飛んでくるのが腹ただしい。
後ろを向き、蹴りつけた相手をにらむ。俺はやられたことは必ずやりかえす。
倍返しだ。
心の師匠は半沢○樹。
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-- passive skill:打撃耐性(弱) 取得 --
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いや、もうわかったって、システムログみたいなもんなんだろ?
ご大層なもんだが、それなら 夢から覚める時間とか表示してもらいたいもんだ、この夢、変にリアリティあるんだよ、痛いしさ。
あ~、願わくば異世界とかいうオチは勘弁してほしい、切実に。
俺はやりたいことが腐るほど前の世界にあるんだよ。
それにしてもどうしてこうなった?
俺と提携している取引先の社長、テンションの高い面白い人で 収益より社員のことを思う、今どき珍しい人物だった、その人から火急の依頼ということで
新規の注文住宅の下図とイラストを書き、HPのサイト作って、見積書を書こうとして、疲れて寝てしまった・・・はずた。
刺された傷がひどく痛み、焼けるようだ、足を引きずるようにして歩くが流れる血は止まらない。
この痛みはやばいぞ? 目さめてもいいぞ?
痛みで顔をあげていなかったため気づかなかったが、ここは城のようだった。
美しい白で染められた階段にポツポツと流れ落ちる赤い点が異彩を放つ。
それをみた衛兵団の先頭を行く、赤い羽の兜をつけたマッチョマンがこちらの方に目を細め、声を荒らげてくる。
「絨毯を汚らわしい血で染められてはたまらぬ!治療してやれ。」
「っは、治療ね。病院にでも連れて行ってくれるのか?」
俺がそう言うと、後ろからさきほど蹴りつけたやつがおもいっきり俺の頬を張ってくる。
「貴様は黙ってろ!」
かなり良い音がしたが、痛みは不思議となかった。むしろ 張り付けた本人が不思議そうに痛がっている、いい気味だ。
小走りに走り寄って来る小柄な礼服を着たシスターとしか言い表せない青髪の女性が、俺の右膝に手を翳し 何やら目を閉じて集中いる。
「・・・! ヒーリング。」
ヒーリング?回復魔法? 思わず厨ニ病全開に笑いがこみ上げてくるが、そう女性がつぶくと右膝の傷がもりもり塞がり出血が止まった。
ネタだから笑えるのであって、実際にこうやって傷口が癒されるところをみると呆然とするしかなかった。
なんてこった、言い値の給料支払うから俺の会社で働かないか?
今がお得な露瀬デザイン事務所、入社してくれたら企業方針は一気に転身だ、デザイン業は趣味でやることにしよう。
売り出しの広告は ”あなたの傷、癒やします”。
いかんな、これじゃ どっかの風俗店みたいだ。
”もう病院なんていらない。傷跡が残らない新治療!”
ダメだな。行政機関から訴えられそうだ。
うーん。
ちなみに脳内で響き渡ったログについてはもう突っ込まないゾ。
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-- passive skill:自然治癒(弱) 取得 --
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そんなこと考えてたら、一際豪華な広間に出た。
豪華絢爛なフロアは長く、幅のある豪奢な赤の布に金で刺繍してある絨毯が敷いてあり、並列するかのように数十人の豪華な礼服を着た男女が直立している。
宝塚歌劇団かここは。や、あそこには男性はおらんがな。
途切れるところは3段ほど高低差が設けてあり、玉座にはよく言えば恰幅のいい、悪く言えばメタボなおっさんが頭の上に金色の王冠を載せている。
王様なんだろうな、あれが、心の中でメタボとあだ名を設定。
前からおもうんだけど、王冠って重くないんかね? 首痛めそう。
玉座前の階段の手前でマッチョマンが足を折って拝謁し、俺は後ろから来たやつに膝蹴り付けられ、肩を抑えられ、無理やり土下座態勢にさせられる。この野郎、いい加減にしやがれ。
「此度の創国祭を騒がした者を連れて参りました。」
創国祭ねえ、祭りだったのか、どうりで人が溢れかえってるはずだ。そう考えているとメタボが口を開いた。
「そのようなことで余の元に参ったのか、神聖なる祭典を汚した罪は重い、牢獄にいれ、処刑せよ」
処刑!?裸でいただけで処刑!
メタボは興味がなさそうにサラっととんでもないこと言いやがる。メタボの手は寄り添う侍女のスリットに入っており、
厭らしい目つきが嫌悪感を駆り立てる。
「っは! しかし、この者、珍しいスキルをもっておりますれば、陛下のご判断を仰ぎ奉ろうかと思し召しまして。」
「ほう・・・ どのようなものじゃ?」
「お見せ致します。」
と、同時にマッチョマンが振り向き様に腰の長剣を抜き放ち、斬りつけてくる。
肩口が裂かれ、ッバと血が滴り落ち、激痛が肩を襲う。ふざけるな。突然なにしやがる。
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-- passive skill:斬撃耐性(弱) 取得 --
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おいいいい、システムログ、もういいよ!虚しくなる。どうせなら最初から耐性つけておいてくれ。
・・・
ワンテンポおいて、マッチョマンが首を傾げつつ
「はて?」
「はてじゃねえ!!痛いじゃすまねえぞ!」
「貴様、槍をはじきかえせせるほどの肌をしておるんじゃないのか?」
「なわけねーだろ!人間だぞ。」
「ただの人間が槍をはじき、素手で衛兵をふきとばした挙句、女神像を破壊できるか!」
そういってる間に今斬られたばかりの傷口が緩やかにふさがっていく。
その様子を見たマッチョマンがボソっとつぶやく
「自然治癒?」
と同時にデレデレと腰に座らせた妾の乳を揉んでいたメタボが、ドンっと妾を突き飛ばしてダミ声で大声をあげる。
「魔物じゃ! 始末せよ!!」
言うにことかいて魔物!魔物ですか!奥様聞きました?
その声に数人の男女が腰から下げた剣を抜き放ち、こちらに近寄ってこようとするが、マッチョマンが牽制する。
「陛下!お待ちください。 謹慎騒がせ奉りお詫び申し上げます、ですが、この者が言うことが万が一本当でございますれば、ユニーク持ちスキル保持者の可能性がございます。どうか、私の顔に免じてこの場は鉾を収め、一度だけ水晶裁定を行う機会をお与えください。」
その言葉を聞いて、まさに斬りかかってこようとしている男女の動きが止まった。
マッチョマンが男女の列で玉座に一番近い鳥目の分厚い唇の栗毛男に目配せする。
視線の先にいるBUSAMENのくせに変にナルシストくさくて鼻につく、
一言でいえば気持ち悪い若者が口を開く。
「陛下。私のほうからもお願いします。魔物でしたら、始末すればいいだけのこと、陛下の迅速な英断には感服いたしますが、
もし、ユニーク持ちでしたら、これから我らの剣となり、盾となり存分に使ってやりましょう。アクイロフィアの反乱軍どもも最近蠢いているという情報もあります、矢面にたってもらおうじゃありませんか。」
広間にただすむ人々は逡巡した後、メタボに視線が集中させる。
メタボ、もとい無節操なおっさんは幾許か迷ったようだが一つ頷くと
「ふむ、王太子クヌートの言うことも一理ある。今回はそなたの顔に免じて許そう。 誰か、水晶球をもていっ!」
じゃあ、いまのBUSAMENが王太子か。基本的に王族って見栄えのいい連中と無節操に関係持つから血縁者は見てくれだけはいい印象があるんだが
早くも俺の偏見に亀裂が生じつつある
ハハっ!と広間をでていった衛兵の一人が大きな水晶球を持って戻ってきた。
マッチョマンは俺に剣を突きつけると口を開いた。
「さあ、その水晶球に触れよ。」
へいへい。だが、素直にしたがってやる義理は、1ミリの小石ほどもない。
「触れろっつっても、手はこのとおり塞がってますしねえ。誰かさんが斬ってくれた右肩をわざわざ後ろの馬鹿がさっきからそれはそれは強くおさえつけてくれてるもんで無理だわ。 」
勝手にわけわからんやり取りした挙句、命令だ。いい加減うんざりしているので嫌味くらい言わせろ。
ッチ
マッチョマンが舌打ちし、ヒュンっと剣が振り下ろされ、手を縛っていたロープが断ち切られる。
明らかに当たっても構わないとばかりの斬り方だったな、こいつ。顔は覚えたぞ。
強引に背後の衛兵に立たされ、ボーリングの玉くらいの水晶球に触れた。
特になにも起きないな、っと思った時に急に眩しい光が辺り一面を包む。
「ぬう、いったいなにが・・」
マッチョマンの呻く声が聞こえる。不本意だが同意だ。
光が徐々に収まり、それと反比例するかのごとく、透明な球体の上部に、蛍光インクで書かれたような文字が浮かび上がる。
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-- unique skill:理を知る者 --
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-- unique skill:越境者 --
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ざわっ・・・!
「やはりユニーク・・・!しかも二つ持ち!?」
「ありえないわ・・」
「そんな馬鹿な。」
「理を知る者とはなんだ、聞いたこともないぞ?」
「ユニークだから当然でしょう。」
広間は喧騒に包まれ、非常に興奮している様子が見てとれた。
当の本人の俺はへぇとしか思わない。そんなスゴイことなのこれ。
さきほどから周りが熱狂するに連れ、冷静になるとともに沸々と怒りが湧いている。
そんな中は一際大きなメタボの声が響き渡った。
「ぬははっはは、ははは、でかした!でかしたぞ、クヌート、そしてポチョムキンよ!」
ッハ、と先ほどの唇が分厚い栗色の髪をした列の先頭の男(以下 アナゴ)と 隣にいるマッチョマンが敬礼する。
マッチョマンの名前がポチョムキンか?うははは、似合いすぎる!
やべえ、吹き出してしまいそうだ。やっぱり得意技は投げ技かね?
そんな俺の我慢を知らず、メタボは続ける
「この国にして初のユニーク持ちである!これで増長する反乱軍どもに楔を打ち込めよう!我が国の手となり足となり、馬車馬の如く働け!! そのような下賎の身でも、余に仕える誉を施してやる。」
こっちをお構いなしに、勝手なこといってやがる。慇懃無礼もほどがあるぞ、慇懃の文字いらねえな、無礼だ。
俺はわざと腕を組んで憮然として言ってやった。
「嫌だ。」
・・・・
・・・
「もう一度言おう。 イ ・ ヤ ・ ダ 。」
広間に静寂が立ち込める、言われた本人は口をポカーンとあけて、言われた言葉を理解できてないらしい。アナゴも こいつまじか?といったような目で見てくるが全くもって気にしない。
この腐れメタボは相当、なんでもかんでも人に強制することが当然の環境で育ってきたんだろう。
俺の中で嫌いな人種のトップ3に入る。
ちなみに序列は
・理不尽な命令をしてくるやつ
・上目遣いで要求してくるやつ
・責任をとらないやつ
だ。
さらに、もう一度いってやろう。3度目の正直ってやつだ。使い方は間違ってるがな。
「聞こえてないのか。 それとも理解できる頭がないのか。 嫌だといったんだ。 公衆の面前で裸でいたことは謝ろう。しかし、その理由は俺にも分からない。それに対し、質問をするどころか、強引に連行し、槍を刺すわ、斬りつけてくるわ、挙句に処刑とかほざいておきながらユニーク持ちだから
仕えて働け? それも 仕えさせてやる?だあ。 人を舐めるにも程がある。」
正確に言うと、殴り飛ばした衛兵に質問はされたのだが、あんな聞き方では答える気にもならない、というか答えても信じてもらえるわけがない。
こいつらの態度を見て確信する。
「余を愚弄するのか貴様。」
「愚弄?「人の心は合わせ鏡」って言葉しってる?理不尽な要求されたら突っぱねるにきまってんだろ。俺が 今!この場で!
初対面のおまえに俺に従って働けと命令したらついてくんのか?
ああ、言っておくが、頼まれてもおまえのような人材は俺には不要だ。」
どこまでも人を見下した奴だ。 これが夢なら俺の王様という人種のイメージがこれなんだろう。合ってはいるな。
「キ・・・キ・・・」
マッチョマンことポチョムキンが震えている。でるかポチョムキンバ○ター!
いや、実際されたら困るけどね?
顔は真っ赤を通り越して、ドス黒い。
「キキキ?猿マネなら間に合ってるぞ。」
あ、ついまた言ってしまった。 いかんな、思わず口に出してしまうのが俺の悪い癖だ。
「キサマーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!! 」
ポチョムキンの雄叫びと共に、今までは呆然と見ていた連中も抜剣し、襲い掛かってくる。
直後、列の中間あたりにいたふとましいオバハンの持っている杖から大きな火の塊が飛んできた。
どうせなるようになれ、とは思っていたがまさか即決で殺しにかかってくるとは予想外だ。
燃え盛る火球は回避する間もなく、俺に直撃
ボウ!!!
くそ、熱い!!! 火傷じゃすまない。皮膚は一瞬のうちに焼けただれ、尋常ではない痛みが全身を襲う。
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-- passive skill:炎耐性(中) 取得 --
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こんなときに、悠長に、取得とか・・・!
ッハっとして顔をあげるとポチョムキンが長剣を高々と振り上げている。
筋肉が脈動し、俺を焼く炎を切り裂いて眼前に剣が迫る。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア! ふ・ざ・け・る・なあああああああああああああああ!!!」
俺は全身全霊の力を込めて、無我夢中で憤りを床にぶつけた。
凄まじい音をたてて、床は縦に裂け、地面が激震する。
広間の支柱にひびが入り、ガラガラと崩れ、落ちてくる天井。
落下してくるシャンデリアを蹴り飛ばし、落ちてくる巨大な天井・・・天井というには大きすぎる石の塊ををおもいっきり殴りつけ、粉砕、振りかかる巨大な瓦礫を踏みつけ飛翔する。