表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

チーズタルトの大冒険

作者:

自分はチーズタルトが大好きです。

でもどのコンビニを見ても、チーズタルトが最後の1個とかになっている事がないんです。

なので、売れないチーズタルトの気持ちになって書いてみました。

なりきれているかどうか分かりませんが、是非読んでやってください!

 僕はチーズタルト。

 最近はコンビニとかでもよく売れているらしい。

 いやぁ、それを聞いて、チーズタルトに生まれた事を誇りに思うよ!

 父ちゃん、母ちゃん、僕もちゃーんと売られてみせるよ!!



 でもね、何故か、どこのコンビニでも僕はいっつも棚の奥。

 だから消費者の皆様は僕に目もくれない。

 僕みたいな普通のチーズタルトは……もしかしたら売れないのかもしれない。だって『レアチーズタルト』とか『めっちゃおいしい!チーズタルト』とかの方が先に売れてっちゃうから。

 あ、大変だ! 僕の賞味期限、あと1日しかないじゃないか!!!

 セブンオヤブンが棚の奥なんかに置くから!!

 これならミニスコップに行った方がいいのかもしれない。でもミニスコップって僕の知ってる町内には無いんだよなぁ……。

 あとコンビニはどこがあるだろう?

 あ、サークルBがあるかも!!

 いや、でももうコンビニには頼らない方がいいかもなぁ。


 ――――よし。僕は決めた! 僕は、誰かに食べてもらえるように、自分から町に進出するんだ!!急げ僕! 賞味期限が切れる前に!!









 チーズタルトの僕は今、町内をブラついてる。

 え、足が生えたのかって? そんなバカな話があるか。コンビニのダンボールの上に乗っかってこれからどうしよっかなぁーって考えてたら、急に動き出したんだ。ガラガラに乗っけられてコンビニのバイトが運んでる。

 このダンボールが今からどこに行くのか分からないけど、僕は賞味期限が切れるのをただ待つだけなんて嫌だから、とにかく降りずに居る。

 お? トラックだ。……あ、きっとこのダンボール、このトラックの荷台に積まれるんだ。

 ダメだよ! そんな事したら僕、潰れちゃうじゃないか!

 よーし。さっと降りよう!


 うん。無事着地。さて、問題は今からどうするか、なんだよなぁ。手も足もない僕が、どうやってこの町を歩けと言うのか。

 もう頼れるダンボールは居ないし。

 いや、とにかく歩いてってみよう。……と言うか、這ってってみよう。

 僕はとびうおのように跳ね跳ねして進んでいった。通る人達が見てくるかなぁと思ってたけど、チーズタルトのパッケージに包まれたままの僕は、風に吹かれて飛んでいるとしか見えなかったみたいだ。

 少しつまんない。

 あー。段々疲れてきたな。ベッチンベッチン当たるもんだからお腹も痛くなってきてる。どうしよう。少し休み…………あれ?

 うわ、うわうわうわ! 雨だ!!

 雨宿りだ、雨宿り!!


 ……お、丁度いい! バス停があるじゃないか。頑張れ僕。あそこまで跳ね跳ねして行くんだ!

 バス停に着くと、そこにはバスが来ていて、お婆ちゃんが乗ろうとしていた。

 でも足腰が弱くなってるみたいで、杖付いててもプルプル震えちゃってる。助けてあげたいけど、僕はチーズタルト。

 何も出来ない。

 や、でも、何も出来ないと決めつけてるだけで、本当は何か出来るかもしれない。

 やってみよう!

 僕はお婆ちゃんの足が乗っかってるタラップに飛び乗った。だけどお婆ちゃん、僕に気が付かない。

 あ、え、うそ!? お婆ちゃん、僕チーズタルトだよ! ココに居るよ!! 待って待って、足下ろすの待って!!


 ぐぇっ!


 いいさ。どうせ僕はチーズタルト。僕の言葉なんて人間に届くはずがないんだ。

 僕は見事に潰れた。タルトの部分はボリボリになって、チーズの部分もぐちゃぐちゃになっちゃった。

 そしてお婆ちゃんの役に立てたか、って言うと、結局なんの役にも立てなかった。

 僕が潰れただけ。

 あーあ。やっぱり僕は無力なチーズタルトなんだな。

 バスは僕を乗っけたまま走り出した。

 振動が気持ちいいかもしれない。あ、でも早いとこココを退かないとまた他の人に踏まれちゃう。

 僕は急いで運転席の傍に来た。ココに居れば、運転手に体当たりする人も居ないし、僕を踏み潰す人だって居ない。

 1つ目のバス停に着いた。ビーッと音が鳴ってドアが開く。1人、降りた。

 2つ目のバス停に着いた。ビーッと音が鳴ってドアが開く。2人、降りた。

 3つ目のバス停に着いた。ビーッと音が鳴ってドアが開く。1人、降りた。1人、乗った。

 4つ目のバス停に着いた。ビーッと音が鳴ってドアが開く。1人、降りた。

 5つ目のバス停に着いた。もうビーッとは音が鳴らなかった。バスの中に乗客は1人も居なくなってた。

 居るのは運転手と僕だけ。

 客が居なくなると、運転手は急にタバコを取り出した。

「ふぅー。毎日疲れるぜ」

 さっきまでの笑顔は消え失せて、タバコの煙に包まれた悪魔みたいな顔だけがあった。

 あれが『営業用スマイル』なんだろうな。……人間ってコワイ。

「お?」

 あ、しまった。僕に気が付いたみたい。

「なんだコレ? ……チーズタルト? げ。潰れてやがる」

 運転手は「ヘッ」って笑うと僕を投げ捨てた。

「チーズタルトの居るスペースなんて無ぇんだよ!」

 って言って、バスは行ってしまった。投げられた僕は地面に叩き付けられて、またベッチャンベッチャンになっちゃった。

 もうこんなチーズタルト食べてくれる人、居ないだろうな。

 僕は何の為に町に出てきてしまったんだろう。セブンオヤブンに居た方が楽できたのに。

 はぁ。もう意味が無いや。

「ママー! セブンオヤブン行こー! 僕チーズタルトが食べたい」

「もう。しょうがないわね。今日だけよ」

「やった〜」

 前から親子が歩いてきた。何、チーズタルトを食べたい? 僕を食べたいのか!?

 僕はココに居るよ! ねぇねぇ食べてよ!

「わぁっ! チーズタルト!! でも潰れてる! 気持ち悪いよぅ、ママァ!」

「あらホント。こんなの食べちゃダメよ。ちゃんと買って食べましょうね」

「うん」

 …………やっぱり……潰れたチーズタルトなんて、しかも地面に転がってるチーズタルトなんて、誰も食べたがらないんだ。

 大丈夫、分かってたさ。

 うん、大丈夫。僕はこんな事でくじけたりしないぞ。きっといつか、僕を美味しい、美味しいって食べてくれる運命の人が見つかるはず。

 子供に見捨てられたからってなんだ。しっかりしろよ、僕!

 ……と言っても。今、ココはどこなんだろう? 全然分からないよ。バス停の文字を見てもなんて書いてあるのか全く分からない。

 どうしよう……。あ、なんか空が暗くなってきてる。もう夜かな。

 疲れたし、今日はこのバス停で休もうかな……。

 いやいや! ダメだ!! 僕は賞味期限前に誰かに食べてもらわないと!! 疲れたって休んじゃダメだ。頑張るんだ、僕!!

 僕はまたひたすら跳ね跳ねした。もう雨は止んでた。きっと夕立ってやつだ。

 僕が跳ね跳ねしてきた道は、外灯しかなかった。民家なんて全く無くて、僕の居たコンビニのある町とは全然違ってた。

 でもずっと跳ね跳ねしてると、一軒の家が見えてきた。明かりがついてて、なんだか暖かい感じがする。

 僕の体は、意識せずともその家に向かっていた。

 でもその家からは楽しそうな声は聞こえてこなかった。ジッと見てたら、急にドアが開いた。中から女の人が出てきた。

「何よ! アンタなんか一生チーズタルト食べてれば! もう知らないから!」

 そしたら中から男の人の声が聞こえてきた。

「お前なんかチーズタルト以下だ! 俺のチーズタルトをバカにしやがって! こっちこそもう知るか!!」

 なんかチーズタルトを巡った争いみたいだった。チーズタルトがどうのこうのって。今僕は、チーズタルトの僕はココに居るんだよ。

 ねぇ男の人。もしよかったら僕を食べてくれない? こんなグチャグチャのヘニョヘニョになっちゃったけどさ、賞味期限はまだ大丈夫だよ。

「……あれ、チーズタルトだ……」

 男の人は、出てきて僕を見てそう言った。でもグチャグチャに潰れてるのを見て苦笑いした。

「これは……ちょっと食えないかな……」

 やっぱりそうだよね。誰が踏んだか分からないチーズタルトなんて、食べてくれる人は居ないんだよね。子供にも男の人にも捨てられた僕。

 どうすればいいんだろう。こんな踏まれちゃってちゃコンビニでも売ってくれるはずないし。

「でも…………」

 男の人は僕を拾い上げてくれた。

「こんなに潰れちゃって……誰が捨てたんだ。可哀相に」

 かわいそう、って思ってくれるの? こんな僕を? こんなグチャグチャの汚い僕を??

「いや、大丈夫。食える食える! 袋ん中入ってんだから中身は大丈夫だろ」

 ……ホントに? ホントに食べてくれるの!? 僕、踏まれても投げられても、跳ね跳ねしてきてよかった!

 さぁ、食べて。僕を食べて。

「賞味期限は、っと……」

 大丈夫だよ! 賞味期限ならあと半日は…………。

「げ。もうとっくに過ぎてるじゃん」

 ……え? でもだって、賞味期限は明日の昼頃まで……。

「2006年って……」

 2006年? 今は2007年で……って事は2006年の2月??

 なんでそんな物をコンビニに置いておくの?

 だから僕は売れていかなかったの?


 あ、カビだ。カビが生えてきてる。嫌だよぅ。気持ち悪いよぅ……。

「カビが生えてちゃもうダメだな。やっぱ食えねぇや」

 男の人は僕を捨ててそそくさと中に戻っていった。

 どうして? どうして賞味期限が切れてるのに棚に置いてたの?

 僕に惨めな思いをさせる為? 自分の売れなささを更に自覚させる為? 僕は食べられないままカビにやられていくの?

 じゃあどうして、食べられないのに僕を作ったの? どうして? …………どうして?

 嫌だよ。このまま死んじゃうの? 僕は幸せな思いしないまま死んでしまうの?



 助けて。

 誰か 助けて。






 僕の意識は無くなった。最初からあったのか無かったのか分からないけど、とにかく真っ暗になった。

 人に食べられて幸せな思いをしないまま、僕の意識はどこかへ行ってしまった。





「お、チーズタルトだ」






 誰かが言った。僕を手に取った。

 そして歩く。レジの音みたいなのが聞こえてきた。




 ……ん??




 レジ?

 どうしてレジなんてあるんだ?

 だって僕はコンビニを抜けて町に進出して……それで……それで…………。


「ありがとうございましたー」

 その男の人は自動ドアを抜けて歩く。そして走った。男の人はひた走る。



 その人の家に着いた。ドアを開けて中に入って、机の傍にある椅子に腰掛けた。

 セブンオヤブンの袋から僕を出して、更にチーズタルトの袋からも僕を出す。


 そうか。僕が見てたのは全部夢だったんだ。

 食べて欲しいという願望から来る、ただの夢だったんだ。

 って事は、僕はまだ賞味期限切れてないし食べてももらえるんだ。

 よかった。なんだ…………よかった。

「へへっ。いっただっきまーす」

 うん。いただいて!

 あぁ。幸せだなぁ。やっぱり最後はこうじゃなくっちゃ。

 僕、やっと食べてもらえたんだ。

 なんか段々ワケ分かんなくなってきた。自分の体がバリボリ言ってる。

 でも痛くない。全然痛くないよ。

 普通のチーズタルトでも、食べてもらえてよかった!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最後まで諦めないチーズタルト、かわいいですね。 チーズタルトの見方がちょっと変わりました。 コンビニで見つけたら、買ってみようと思います!
[一言] チーズタルトはねはねしての大冒険、かわいらしいですね。 小説としても、また、子供さん向けの絵本にしてみても、楽しめるような作品だと思いました。 素敵な作品を読ませていただき、ありがとうござい…
[一言] 初めまして。チーズタルトのキャラが可愛いなと感じます。微妙に違うコンビニ名に笑いを覚えつつ読みました。(笑)  何度か繰り返す言葉は時々、物語を下げる事もありますが、“跳ね跳ね”などチーズタ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ