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明日

作者: 雪猫
掲載日:2026/09/17


俺は一日を何度も繰り返した


良くある話だ



驚き、喜びを覚え、


「何をしよう」と、想像を膨らませた


だが実際は、ループ前と変わらなかった


犯罪を行おうという気はないし、


何かこれといって、楽しいことも、したいことも思いつかなかった


仕事を休んで、土手で眠るくらいだった


年寄りな訳では無いが、


今から何か夢を見る程、若くもない


ループしていく一日がただ過ぎていくのを


眺めるだけだった



時々、恐怖がこみ上げる


「永遠の一日」という深淵に、怖気づく


だが、だからといって、なにをすればいい?


何が出来ると言うんだ?


俺は不安を抱えながら、


怠惰な安楽へと逃避していた



そんな時、車椅子の彼女を見た


子どもの笑い声かと思った


年に似合わず幼い印象だった


しかし、その豊かな愛らしい表情に目を奪われた



恋に落ちた





朝、彼女に、


勇気を出して、あいさつをした


楽しく弾んだ声で、あいさつが返って来た



世間話が出来るまで、何度もループを繰り返した


毎回リセットされるが、それよりも、


彼女を知れることが、毎日会えることが、嬉しかった



一日のループが楽しくなり、


夜も寝付けず時計を見つめた



23時59分には、


『もし、ループが終わった場合、彼女に会えなくなるかもしれない』と


胸が苦しくなり、彼女に会える今日がループされることを、神に祈った


0時0分に、今日が巻き戻ったことを確認して、


歓喜の声を上げた。




ループして彼女を深く知ることで、


リセットされても、直ぐに仲良くなれるようになった



彼女の病室は質素で、少し寂しい印象だった


しおれそうな綺麗な一輪の花が、彼女自身のようだった


窓の向こうから、遠く、子ども達の楽しそうな笑い声が聞こえた



親しくなった彼女の母親から


彼女が余命僅かだと知った



なるべく長く彼女の横にいて、彼女を楽しませた


ループしながら、手品を覚え、お笑いを学んだ


面会終了の時間


さよならと言った彼女は、苦しそうだった



そして、容態が急変した


彼女は、その日の内に亡くなった





俺は知った




彼女は、今日一日の命だった



ループする一日の、23時59分に毎回、


彼女は死んだ



不治の病だった





俺はループを繰り返した





彼女の前で悲しい顔は見せないようにした


でも時々、笑っている際、彼女に


「なんで泣きそうな顔をしているの」


と聞かれた




俺は、悲しくて、愛しくて、別れたくなくて、


どうしても抑えきれなかった




全てがリセットされている朝


彼女にとって初めて俺と会った朝に、


出会った瞬間、あいさつの前に俺は


彼女にプロポーズをした



俺は自分の暴走に呆れ、恥じた


慌てて取り繕おうとする俺に


大人びた微笑みをして、彼女は


プロポーズを受け入れた



突然の小さな結婚式場で、


レンタルのスーツがぎこちない俺は


美しいドレスに身を包んだ彼女に小さな声で尋ねた


「なぜ?」


恥ずかしそうに微笑みながら彼女は答えた


「不思議だけど、あなたを見た時


ずっと一緒にいたような気がした


覚えてないけど


いつか、どこかで」



指輪を交換し、


誓いのキスをした





俺の腕の中で冷たくなっていく彼女に


俺は何もしてあげられなかった




0時0分になった時、


俺の手から彼女のぬくもりは


跡形もなく消えた




次の一日


俺は彼女を海へ連れて行った



二人で海に沈む夕日を見た


彼女は今日会ったばかりの俺に


何も言わず寄り添ってくれた



俺は死ぬことも出来なかった



夜の浜辺で


彼女は俺に寄り添い


手を繋ぎながら何も言わず


死を迎えた





だから俺は、






俺の時間にして数十年


彼女と会わなくなった




そして数十年後、


彼女の前に姿を現し


俺は





彼女を殺した




何度も



何度も







そして今日も夜になって


彼女の病室を訪れた




彼女の容態が急変する30分前


彼女が一人になる時間


俺はループによって


誰にも見つからず病室まで来る方法を知っていた



彼女は、初めて見る俺に、はっと驚く


俺はカバンを机に置き、開こうとする


しかし、躊躇する



彼女が俺に尋ねる


「なんで泣きそうな顔をしているの」



俺は、カバンから注射器を取り出し、


絶望と自嘲で、歪んだ笑みを浮かべながら


彼女に言った



「これは、君を治すために作った薬だ


だが、どうせこれも駄目だ


失敗だ


また」




最初は呪文でも読んでるのかと思った


何が書いてあるのかも、


自分が何を分からないのかも分からなかった


病気に関する論文を読み漁った


外国語の論文も、ネットの翻訳や辞書を使って



だが、治療法は、どこにも載っていなかった


自分で考えていくしか無かった



手を広げ、似た病気から類推し、


様々な症状を知って、治療薬を知って、実験し、


薬品を盗み、様々な研究室、病院、大学に入り込み、ループを繰り返した


病気の専門家にも会い、知識を深めた


気付いたら、彼らより、俺の方が詳しくなっていた


不治の病と言われる幾つもの病気の治療薬を作り出した人が、こう言ってくれた


「もし、今この世界で、この病気の原因を突き止め


治すことの出来る人間が存在するとしたら


君以外にはいないだろう」



俺は、何百と仮説を立て、実験を繰り返し


病気の原因を、治療を、目指した




そして遂に見つかった


あらゆる実験結果は、俺の仮説の正しさを証明していた


漏れはない


完璧だと思った




再び彼女の前に立った



一日で材料を集め治療薬を作ってからなので


来れるのは夜しかなかった


初めて会う俺を、彼女は受け入れてくれた


薬を打った



彼女は見るからに元気になり


薬は効いたかと思った



だが、


いつもの通り容態は急変し、


彼女は


23時59分に亡くなった




俺が殺した



下らない俺の勘違いが




それが


何度続いた?



その都度、完璧だと思えた


だが、毎回、彼女を殺した後、


致命的な誤りに気付かされる



他の同じ病名の患者に効く薬が


彼女にだけは効かない


彼女の病は一つではなく


複数の不治の病が複雑に絡み合っていた


それら一つ一つを克服していく必要があった


その山を登りきった


そう思った途端、自分がまだ登ってもいなかったことに気付かされた


プラスではなくマイナスからの再スタートだった


今までの数年が、自分の仮説が、ただの妄想だったことに気付かされた


最初の前提から間違って進んでいた


全て無駄だったことに気付いた


自分の愚かさに気付いた


それが何度も


何度も



元々、才能もない


どんなに時間をかけても、努力なんて実らない


全て無駄だ


永遠の時間があるのに、俺自身に限界がある


誰か他の人ならば、


どこかの天才ならば、見つけられるのだろうか


ならば、お願いだから、その人がループするようにしてくれ



それとも、人類には不可能なのか


この病は永遠に不治の病なのか



俺の目の前の永遠には、何の価値もない


俺に価値がないからだ



この薬もどうせ効かない


全ては無駄だ


俺は





彼女は俺の手を取り


無言で微笑んだ


そして


俺が作った薬を打つことを望んだ




俺は


薬を打った




これで終わりだ


これが駄目ならば


もう




俺は諦めていた


同時に、


祈っていた





だが


彼女の容態は急変した




そして






23時59分



彼女は息を引き取った





















0時0分




彼女は息を吹き返した







もうループはしなかった





明日が


やって来た









眩しい明日の朝日の中で


俺と彼女は


初めてあいさつを交わした







 



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