ポンコツ詐欺師の善行
割と気に行っているので連載に化ける……かも
「フフフ……見つけたぞ。美味そうなカモだ」
路地裏の影から、俺——自称・冷酷非道な天才詐欺師のクロードは、薄汚れたパン屋の前に佇む少女を見つめていた。
少女の名前はミーシャ。お人好しが服を着て歩いているような純朴な娘だ。
父親が残した借金のせいで、悪徳高利貸しのハンスに店を乗っ取られそうになり、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「ふふふ、まずは『単純接触効果』の網にかける。人間は毎日顔を見るだけで、勝手に味方だと勘違いして警戒を解くからな。じっくりハメてやるぜ……!」
それから俺は、毎日同じ時間にそのパン屋へ通った。毎日、パンを1個だけ買い、「今日も良い天気だね」「ここのパンは美味しいよ」と短い会話だけ交わして爽やかに去る。それをきっちり1ヶ月間、毎日欠かさず繰り返した。
「フフフ……ついでに宣伝もしてやろう。カモはまるまる肥っているほうがいいからな」
1ヶ月後。ミーシャはすっかり俺に心を許していた。
「クロードさんが毎日来てくれるのが、今の私の支えです✨」
チョロい。チョロすぎる。俺は心の中で(よし、1ヶ月の『単純接触効果』で警戒心は完全にゼロ。財布事情を見るに、銀貨5枚ならギリギリ出せるな)と計算した。
いよいよ本命の「霊感商法」を仕掛ける時だ。俺は神妙な顔でミーシャに囁いた。
「実はね、ミーシャさん。最近、お店の周りで悪い気……そう、悪霊の気配を感じるんだ。私はそういうのが見える体質でね。このままだと店が呪われて潰れてしまう」
「えっ!? そ、そんな……! どうすればいいんですか……?」
怯えるミーシャに、俺は懐から怪しげなガラス玉のネックレスを取り出した。
「だが安心してほしい。この『幸運のネックレス』があれば悪い気はすべて消し飛ぶ。原価は高いが、ミーシャさんのために銀貨5枚で譲ろう」
ミーシャは1ヶ月培った信頼から、「これで、お父さんの残したお店が救われるなら……!」と、全財産である銀貨5枚を震える手で差し出そうとした。
(計画通り! 少女の全財産、いただきだぜ!)と思ったその瞬間。
「おいミーシャ! 返済期限だ! 店の権利書を渡せ!」
ガラの悪い部下を連れて、悪徳高利貸しのハンスが店に乱入してきた。ミーシャが悲鳴を上げて銀貨5枚を引っ込めてしまう。
(チッ、邪魔が入ったな……。待てよ? コイツから銀貨5枚を毟り取るより、あの金持ってそうな悪党にこれを売りつけた方が儲かるんじゃねえか……!?)
俺のケチな詐欺師魂がうずいた。俺はわざとネックレスをハンスの目の前でひらひらと見せびらかし、吹っ飛んだハッタリをかました。
「おっと、やっぱりこんな価値あるものをパン屋なんかに渡すわけにはいかないな。これは王都の貴族の間で奪い合いになっている、手にした者は絶対に商売で大成功するという伝説の開運遺物だ。値段は金貨50枚。その点、あなた」なら売るに値するかもしれませんね。
(ゲヘヘ、まぁ金貨10枚くらいに値切られて売れたら万々歳だな〜)
俺が心の中でそんな汚い皮算用をしていた時、ハンスの目の色が変わった。ハンスは強欲な上に、信じられないほど都合の良い頭をしていたのだ。
(な、なんだと……!? これを俺が手に入れて王都の貴族に転売すれば、金貨100枚以上で売れるんじゃねえか!? 美味すぎる!)
ハンスは鼻息を荒くして、俺の胸ぐらを掴まんばかりに身を乗り出した。
「金貨50枚だと!? 今すぐ手持ちはねえが……よし、このパン屋の『借用書(本物)』をやる! これはこの店をいつでも奪える、金貨50枚以上の価値がある書類だ! これで手を打て!」
俺は一瞬、素でフリーズした。
(え? いいの? もらっちゃうよ……!? 吹っかけて金貨50枚って言ったら、なんかパン屋の借用書で買っていったんだが???)
思わぬ展開に脳がバグりかけたが、俺は必死にポーカーフェイスを維持した。
「ふむ……仕方ありませんね。特別ですよ」
「ガハハ! 大儲けだぜ!」
ハンスはただのガラス玉のネックレスを宝物のように抱きしめ、風のように去っていった。
後に残されたのは、本物の借用書を持つ俺と、店を失うと思って絶望の涙を流すミーシャ。
(あいつはバカなのか?………まあいい。ハンスをハメて借用書をゲットしたぞ。あとはこの借用書でミーシャを脅して、このパン屋を合法的に乗っ取るだけだ……!)
俺は冷酷非道な詐欺師の顔を作り、ミーシャに向き直ろうとした。
しかし、それより早く、ミーシャが感動に顔を歪めながら、両手で俺の手をぎゅっと握りしめてきた。その瞳は、まるで夜空の星のようにキラキラと輝いている。
「クロードさん……! 私のためにお店を救ってくれたんですね……!✨️」
「えっ、あ、いや……」
「私に借金を返せるあてがないからって、借用書を取り返してくれるなんて……! ありがとうございます、ありがとうございます……!」
まともな人間にそんな純真無垢な目で見つめられたことがない俺は、完全に気圧された。顔が火を噴くように熱くなる。
(ち、違う! 俺は店を奪うつもりで……! でも、こんな顔されたら『お前を脅すためだ』なんて言えるわけないだろ!)
「フ、フン! 勘違いするな!」
俺は顔を真っ赤にしながら、パッと借用書をミーシャの顔に押し付けた。
「しょうがないな、やるよ。ちゃんと恩返ししろよ」
「クロードさん……! やっぱり、あなたは優しくて神様みたいな人なんですね……!」
ミーシャは借用書を抱きしめ、今日一番の満面の笑みを浮かべた。
それから数日後。
俺の懐に入った金は一円もない。それどころか、ハンスを騙すためのハッタリ小道具の経費でむしろ大赤字だ。
「……なんで俺、天才詐欺師なのに、宿代すら払えないくらい一文無しになってんだよ……あー、やっぱり渡さなきゃよかったぜ………」
トボトボと街を歩く俺の前に、香ばしい、信じられないほど良い匂いが漂ってきた。
「あ! クロードさん!」
大繁盛しているパン屋の店先から、ミーシャが焼きたてのふかふかのパンを抱えて走ってくる。
「クロードさんのために、今日も特製のパンをたくさん焼きました! お金はいりません! 私のお店がある限り、一生毎日、クロードさんの分のパンは私が焼きますからね!」
ミーシャから手渡された、ずっしりと温かいパンの山。
「……フン、毎日パンをタダで手に入るんだからな。俺の勝ちだ……」
俺は負け惜しみを呟きながら、美味すぎる焼きたてパンをガブりと齧った。
【オマケ1:ミーシャ視点のエピローグ】
(……クロードさん、本当にいい人だなあ)
夜、営業を終えた厨房で、私は一人で嬉しさを噛み締めていた。
思い返せば1ヶ月前、お店の経営が苦しくて泣いていた私に、クロードさんは毎日同じ時間にパンを買いに来てくれるようになった。
それだけじゃない。「ここのパンは世界一美味しいよ」って、通りすがる人たちに聞こえるように宣伝までしてくれて、おかげで少しずつお客さんが戻ってきたのだ。毎日顔を見るだけで、どれだけ心が救われたか分からない。
それが今日、まさか私のためにあんなことまでしてくれるなんて。
「悪い気を払うため」って持ってきてくれた、あの綺麗なネックレス。お父さんから受け継いだお店を守るためなら、銀貨5枚なんて安いものだった。
なのに、乱入してきたあの恐ろしいハンスさんを前に、クロードさんは、私のお店を救うために、そんなに高価で貴重な宝物をハンスさんに差し出して、代わりにあの「借用書」を奪い返してくれたのだ。
『しょうがないな、やるよ。ちゃんと恩返ししろよ』
なんて、顔を真っ赤にしていって、
クロードさんはただ、私に気を使わせないために、わざと悪ぶって私に店を返してくれたんだ。
(……クロードさん、そんなに私のパンを気に入ってくれたのかな?)
あんな高いネックレスを犠牲にしてまで私を助けてくれたクロードさんに、ちゃんと恩返ししないとバチが当たる。でも、今の私にはお金がない。
「そうだ……! パンをあげよう!」
お金はいらない。私のお店がある限り、一生、毎日、心を込めて世界一美味しい特製の焼きたてパンをクロードさんにプレゼントしよう。
「ふふっ、待っててくださいね、クロードさん」
私はまだ見ぬ明日の朝に向けて、一番上質な小麦粉を丁寧にこね始めた。
(まだ、彼が『冷酷非道な天才詐欺師(自称)』であることにも、ネックレスがただのガラス玉であることにも、ミーシャは一切気づいていない——)
【オマケ2:ハンスの因果応報編】
「ガハハハ! チョロい、チョロすぎるぜ!」
王都へ向かう馬車の中で、悪徳高利貸しのハンスは狂ったように笑っていた。手の中にあるのは、あの冴えない男からパン屋の借用書と引き換えに奪い取った『幸運のネックレス』だ。
「あのバカ投資家め、こんな王都の貴族が奪い合う伝説の開運遺物を、たかが地方のボロパン屋の借用書なんかで手放しやがって! これを王都のジャン伯爵に売りつければ、金貨100枚……いや、150枚は固い!」
ハンスは自分に絶対の自信を持っていた。鼻息を荒くしながら王都に到着すると、そのままお抱えの商人の紹介で、気性の荒さで有名な大貴族・ジャン伯爵の屋敷へと押し入った。
「伯爵様! 本日は、王都の貴族の間で密かに奪い合いになっているという、伝説の開運遺物『幸運のネックレス』をお持ちいたしました! 伯爵様のこれからの益々の繁栄に、金貨150枚でいかがでしょうか!」
ハンスは極上の揉み手で、大理石のテーブルの上に恭しくネックレスを差し出した。伯爵はフムと鼻を鳴らし、お抱えの「本物の鑑定士」を呼び寄せる。
鑑定士は、ルーペを覗き込んでネックレスを凝視した。……1秒、2秒。鑑定士の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
「ど、どうだ? 凄まじい魔力だろ?」
ハンスがニヤニヤしながら尋ねると、鑑定士は震える声で伯爵に告げた。
「は、伯爵様……。これは、その辺の露店で銅貨3枚で売られている……ただの、着色された安物のガラス玉です。魔力など塵一つ入っておりません。完全なる『偽物』……いえ、ただのおもちゃです」
「……は?」
ハンスの時が止まった。その瞬間、部屋の空気が凍りついた。ジャン伯爵の額にピキピキと青筋が浮かぶ。
「安物のガラス玉だと……? おい、地方のしがない金貸し風情が、この私を騙して金を毟り取ろうとしたな? 貴族を愚弄した罪、ただで済むと思うなよ!」
「ち、違います伯爵様! 私はあの詐欺師に騙されて……! 私は被害者でっ……!」
「黙れ! 刑務所の冷たい床の上で、自分の罪をじっくり数えるがいい! 連れて行け!」
「ひえええええっ! 助けてくれえええ!」
ハンスは泣き叫びながら、屈強な近衛騎士たちに両脇を抱えられ、引きずられていった。
罪状は『貴族に対する詐欺と不敬罪』
ハンスの全財産は没収され、王都の最深部にある、光すら届かない地下監獄へと永久に投獄されることが決まった。彼は死ぬまでそこから出られない。ハンスが騙し取ったと思い込んでいたガラス玉は、騎士のブーツに踏み潰され、粉々に砕け散った。
お読みいただきありがとうございます
割と気にいった作品なので連載になる……かも?まあ、評価次第ですね。
と、言うわけで皆様、評価、コメントよろしくお願いします。
また、私の他の作品もぜひ見ていってください。割といろいろな作品がありますよ




