ケーキと使命
物語が作者に書かせました
「もうすぐクリスマス!」
朔のテンションがいつもより一層高い。
「ご予定は?」
蓮が呼応するように高いテンションで反応する。
「白紙ー!」
「おめでとう」
透はいつも通り。
「というかな、この中でクリスマスに予定が入っている不届きものは居るか!?」
予定入ってたら不届きもの扱いになるんだ。
「朔、クリスマス限定でスペシャルケーキってあるんだって、私食べたいなー」
分かりやすく蓮がすり寄る。
「限定のスイーツゥ?」
蓮が携帯をいじっている。
「あった!これ!」
「げっ!1ホール¥8,500ってマジか!?」
「お願い、朔〜。蓮ちゃん、限定スイーツ食べた〜い。」
ちらっ蓮が目配せしてくる。
「あ、灯ちゃんも、限定スイーツ食べた〜い。」
「澪ちゃんも、限定スイーツ食べた〜い。」
「朔の奢りなら食う」
透は乗ってこなかった。
「ほら、ムギも食べたいって言ってる。これは男をみせるしかないんじゃない!?」
蓮が悪い顔してる。
「まさか可愛い女の子3人からお願いされて無慈悲に断るような、朔に限ってはそんな男じゃないと思ってるからのお願いなんだけどー?」
蓮がグイグイ乗ってきた。
透が財布をいじっている。
「さすが!透!俺に助け舟をー」
「¥1,000全財産。」
透が財布を逆さにして振っている。なんの音もしない。
「じゃあ俺は¥7,500の支払い!?比率でかくね!?」
「朔、俺は『お前の奢りなら食う』としか言ってないし助けると言った覚えはないが?」
たしかに。
「そんな大金持ってねえよ」
財布を確認しようと思ったら蓮が制止してきた。
「恋人のイベントクリスマスでこんな限定スイーツを私たちのために買ってる男子って絶対モテるって」
ちらっと目配せしてくる。
「え!?えっと、私たち連れて買いに行くと女子3人連れて歩いてるすごい人になるよ!」
「三股」
蓮が透の脇腹に小さく鉄拳を入れている。透は蹲って咳き込んでいる。
「えっと、クリスマスの予定がそれで埋まるっていうのも素敵じゃない?」
朔は頭を抱えて見たことないような動き、なんかうねうねしている。
「何か気持ち悪い動きで悩んでる感じ?」
蓮が悪い顔になっている。
「悩むってことは『買えるけど、どうしようか』ってことよね?そもそも買えないと悩みようも無いもの。ね?」
「ぐっ」
「澪と灯も言ってたように、クリスマスという恋人のためのイベントで1人で寂しく過ごすより、私たち女の子3人引き連れて街を歩くだけで朔自身も相当な優越感を得られるんじゃない?」
「まあ、このスイーツ、予約なしで当日販売のみらしい。買えたらそれだけでも高ステータスだな。まだ日もあるしそれまでに決めたらいいんじゃね?」
透がそう言って今日のところは収まった。
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
12月24日 恋人のための日 クリスマス
朝6時でまだ暗い。そんな時間にみんなで集合していた。
朔はおとなしい。
「あれ!?今日はクリスマス!って騒ぐんじゃないの!?なんであんたお葬式みたいになってんのよ!」
「諭吉との、別れが辛い」
「諭吉!?諭吉居るのあんた!」
蓮の目が輝く。
「それなら尚更早く並ばないと!県外から泊まりで来てる人も居るらしいし!売り切れたら大変!」
朔がうだうだ言っているのを透が引っ張ってくる。私と灯はまだ暗い中でテンションをそこまで上げきれてなかった。眠いし寒い。
チラシのお菓子屋さんの前にはすでに人が並んでいる。
限定500食
と書いているのに店の前からの長蛇の列は2〜300メートルくらい続いていた。
「うわっ!すごい人!これは早く並ばないと!」
と言って私たちを見る蓮。
「澪!灯!急いで最後尾に並んできて!私は透と朔を連れて行くから!」
走って!って発破をかけられて灯と笑いながら走っていった。
「蓮も必死だね」
「蓮、ケーキとか大好きなんだよ。ケーキ頬張る蓮、本当に可愛いんだから。」
灯が笑っている。
「幸せそうな顔は絶対に写真に収めたい」
灯が断らない理由ってそういうことなのね。
蓮たち、まだかな?振り返ると、朔の両手を蓮が、両足を透が持って運んで来ている。
「俺の諭吉ー!」
側から見ると、朔はどんな悪さをしてこうなってるんだろう?
朝9:00になり店が開いた。長蛇の列がどんどん捌かれて行く。
11:00になり、とうとう店の前まで進んだ。私と灯は邪魔になりそうだから店の外で待つことにした。幸せそうにケーキを頬張る蓮。どんな顔をして出てくるんだろう?ちょっと楽しみ。数分後、蓮と朔が泣きながらケーキの箱を持って出てきた。
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
とうとう列がお店の中に入った。
もう少しで限定スイーツ!胸が高鳴る。
朔が放心してるのは気にしないでワクワクを抑えながら並ぶ。
「すいません!限定のスイーツこれが最後になります!」
店員さんが申し訳なさそうに謝っている。私たちの5組くらい前で無情にも売り切れてしまった。
「嘘……。」
私は放心している。朔の手が視界に入った。ガッツポーズしている。前に並んでいた人はお目当てのケーキがないことを知るとパァッと居なくなってしまった。私は朔と腕を組みながら前進する。涙が流れているのを感じる。
「お、おいおい。そんな腕なんて組んでたら恋人みたいじゃねえか」
朔はあからさまに照れている。
「申し訳ございません、限定のケーキは完売してしまって。」
「いえ、いちごのショートケーキと粟栗のモンブラン、シュークリームを3つずつください」
「あ、はい。いちごのショートケーキと粟栗のモンブラン、シュークリームを3つずつですね。」
店員が注文の確認をしてくる。
「はい」
「お支払いは?」
「こいつが」
組んでいる腕を軽く引っ張る。ここにきて逃がさないためだと気付いたらしい。
「はあ!?」
「合計で¥4,800になります。」
朔は震える手でお支払いをして私はケーキを受け取った。店を出る時、私も朔も泣いていた。
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
2人が泣きながら出てきた。
「何があったの!?」
「目の前で売り切れた」
「あら……、それはお気の毒に」
「朔はなんで?」
「諭吉との別れがつらい」
そこで蓮の持つ箱に気付いた。
「これは?」
「ショートケーキとモンブラン、シュークリームを『買わせた』」
「『買わされた』」
蓮が私の方へ箱を突き出してきた。受け取れってことよね?
私は箱を受け取った。視線を下げた時、衣服の部分と右手の部分で影の濃さが違って見えた。右手の部分だけレースカーテンの影のような薄く柔らかい影だった。
「灯、代わりに持ってもらっていい?」
「ん?うん。いいよ」
そうして最寄りのショッピングモールのフードコートでケーキを広げて蓮は泣きながらだけど舌鼓を打った。ケーキ2つを平らげた後、少し機嫌が戻ったのか、幸せそうな顔でシュークリームを頬張っている。
「ね?」
「うん。」
可愛い。ずっと見ていたかった。
その横で朔はずっと泣いていた。
それを透はコーヒー飲みながら眺めていた。
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
部屋に戻ってきてベッドに横になる。
今日は朝5:00起きてから動き回ったからどっと疲れた。それにしても、蓮のシュークリームを食べてる時の顔、可愛かったな。
目を閉じたらまたあの表情見れないかな?ちょっとだけ期待して目を閉じた。真っ暗。そりゃそうか。
気を抜いたらそのまま眠ってしまえそう。
それでもいいなって思った。
それにしても今日は朝6:00から並んでたのに目の前で無くなっちゃうって不運だよね。
それで消沈しないでケーキ買わせてくるあたりはさすが蓮だと思う。朔、今日は何やっても泣く日だったんだね。朔には申し訳ないけど笑ってしまった。
あれだけ早起きして行ったのに。残念だったね。言葉がなかった。
目を開けた。天井の方へ右手を伸ばす。手の傷は瘡蓋ができて治りかけの状態だった。もう血は出ていない。のに
「影、薄くなってた……」
ちょっと忘れかけていた。ここはゲームの世界なんだ。『なんでも願いが叶う』って言ってたっけ。なんでも叶うなら最後の1つをギリギリで買えてもよくない?よく分からないところでリアルで融通が利かないんだから。
何か意味がある?
ふと頭に浮かんだ。
ん?意味?
いや、ケーキが目の前で売り切れたことになんの意味があるのやら。
私はベッドから起き上がって手を眺めた。動く。影を確かめてみた。やはり衣服と手では濃さが違う。
あれだけ時間使ったのに買えないなんて、そんなの分かってたらもっと別のことに時間使えたのにーーー。
視線が右手の奥、開いたままのノートを捉えた。
『2度と目を覚まさない私』
頭の中でピースが急速にはまっていくのを感じた。必要だけど欠けていたピース。
あの時、灯はなんて言ってたっけ!?
「澪が今日来なかったら、蓮や透や朔が何を言ってきても受け入れなかったと思う。」
「澪のお母さんはお風呂とトイレ以外はずっと澪の隣にいて、澪のお父さんも仕事が終わったら病室に来てる。私も学校が終わったら毎日お見舞いに行ってるんだよ?」
『澪は帰ってくる。今はただ、帰り方がわからなくなってるだけ』だって。『目を覚ました時に誰もいないなんて寂しいじゃない?』ってほぼ毎日おばさんは言ってるし私も意識が戻るのを待ち続けてるよ」
一年間も?ずっと?
そして、これからも、ずっと??
『2度と目を覚まさない私』のために!?
ダメッ!そんなの、絶対!!
何か意味がある?
また浮かんだ。
分からない!分からないけど、このまんまじゃいけない!
意味?私が『呼ばれた』意味?
………うん。よし!!
ノートに現状をまとめてみた。
まず、どんな気持ちなんだろう?
知らない世界の知らない私。
オープンキャンパスで将来に期待を膨らませたその日から意識がない私。
そんな私を見守ってくれてるお父さん、お母さん、灯、みんな。
何もしなかった場合、どうなるんだろう?
お父さんも、お母さんも、灯も、毎日病院に来てくれてる。
ずっと、私が意識取り戻すのを待ち続けてくれている。
私がみんなを病院に縛りつけてるみたい。
なのに、みんなは期待を持ってる。
現実世界(?)の私の気持ち:分からない。
これを見たゲーム世界の『私』の気持ち:大切な人を病院から解放したい。みんなの自由を奪いたくない。
何もしなかったらお父さんも、お母さんも灯も、大事な時間のほとんどを病院で過ごすことになる。私の『せい』で…
知らない世界の私の気持ちを考えるの難しいな。でも私と一緒なら、良しとはしてないはず!同じように考えてる!と、思う。
『私』がゲームに来た意味?
もし、意味があるとしたら。
私と同じように考えてるとしたら。
灯は高校3年生、大学を選ぶ時期。
病院に縛るのも、遠方で来なくなるのもつらい。でも、どっちがよりつらい?
【灯の将来を捻じ曲げて縛り付ける方がつらい】
だからかな?
いや、なんか違う気もする。灯からの話を思い出して!
「これは澪のお母さんから聞いた話なんだけど、オープンキャンパスからの帰り、電車で疲れて寝ちゃったんだって?そして電車の脱線事故が起きた。」
突然のことだったんだ。寝てる間にすべてが起こって終わってたんだ。私がやりたいのにやれてないことがあるんじゃない!?なんだろう?
『あまりにも突然のことで、やりたいのにできなかったこと?』
【 今のところ分からない 】
これがキーになりそうな気がする。
うーん、突然のことで、やりたいのにできなかったこと?分からない。
ふと灯の顔が浮かんだ。電話してみよう。
「どしたのー?」
待ち構えてたんじゃないかってくらい、ほぼゼロコールで灯は出た。
「うわ、早いね。びっくりした笑」
「携帯いじってたからねー、どしたの?」
「いや、ふと灯の顔が浮かんだから。」
「そうなんだ」
「あ、今灯も私に電話しようとしてた?」
「え゛!?」
「分かりやすくない笑」
「ははははは、うん。ちょうど電話しようとしてたところ。」
「やっぱり!で、灯はなんで電話してくれようと思ってたの?」
「今日の蓮、可愛かったでしょ!?」
「うん、可愛かった!」
「シュークリーム頬張ってるとことか、幸せそうな顔がもう尊くて!写真撮ったから送ろうと思って!」
「あはは、ありがとう」
「さっき蓮に写真送っていいかの電話かけたらね、『僕に黙ってケーキ食べてきたんだ』ってムギに拗ねられて土下座して謝ったらしいよ笑」
「朔には強いのにムギに弱い笑」
「ねー笑」
「あ…」
「どうしたの?」
「いや、写真送っていいかを訊いてないと思って」
「え!?何のための電話笑。って、もう送られてきたよ!?うわ!めちゃくちゃ幸せそう笑」
「あらららら、ま、いっか笑。変な写真じゃないし」
「いいんだ笑」
「そういえば澪の方はどうしたの?」
「ちょっと訊きたいことがあって。」
「『答えられる範囲』なら答えるよー」
「そんな警戒しないでよ」
「警戒してるつもりはないんだけどね。1番言いたくないことは先々月に話したし。」
「もう、そんなになるんだね」
「そうよー」
「それでね、灯って『突然のことでやりたいのにできなかったこと』って何かある?」
「うーん、蓮に写真送っていいかの許可もらうこと」
「すごく直近で笑。無許可で送ってきたもんね笑」
「蓮には内緒ね?」
「どうしようかなー?」
「ええ!?」
「うそうそ、大丈夫だから」
「よかったー」
「うん、突然ごめんね」
「いや、大丈夫」
「またね」
「うん、また明日」
灯との電話終わって、収穫はなし…か。
蓮の写真を見る。本当に幸せそうな顔。
ありがとうね、灯。
携帯をしまおうとした時に若干の違和感があった。
ん?
今一瞬、何か頭に引っかかりがあった気がする。なんだろう?
もう一度蓮の写真を見る。携帯をしまう。何もない。気のせい、かな?
ーふふ、ありがとーー。
【これ】か!?
急いでノートに目をやる。
『あまりにも突然のことで、やりたいのにできなかったこと?』
別世界の私、【伝えたい感謝を伝え】られてないんじゃないの!?
だから逝きたいのに逝けないんじゃない!?
もしかして、これが私が『呼ばれた』意味?
読んでいただきありがとうございます。
次回、「感謝」とよろしくお願いします




