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宛名を見ると、そこには 鈴ノ木遥 の名前が書かれていた。
突如、全身を流れていた血が一気に止まるような感覚に襲われる。
それとは裏腹に、涙は静かに流れ落ちていた。
「な、なんで……」
「大丈夫ですか。体調悪いなら救急車呼びますよ」
「す、すみません……だいじょうぶです」
涙と鼻水のせいで、配達員に無事だと伝えるのに数分もかかってしまった。
「商品、ここに置いておきますね。お大事に」
結局、何か勘違いされたようだ。
その箱はきっと軽かった。
だが今の自分には、初めて赤子を持ち上げたときのような重さを感じた。
結局、その箱は数日間開けないままだった。
いや、開けられなかったのかもしれない。
まだ遥の死を受け入れられない自分がいた。
その後も数日間、ぼーっとテレビやスマホを見て過ごしていた。
大学のことも、今はどうでもよかった。
そういえば、昔よくヒーローごっこをした。
俺がヒーローで、遥はいつも人質役だった。
そして遥は、助けを呼ぶとき必ず三本指を立てた。
声を出したら敵にバレるから
これが俺たちの中での「SOS」だった。
あの頃の俺は、必ず遥を助けていた。
でも今は違う。
遥が助けを求めていたことにすら、気づけなかった。
そんな俺を見かねて、遥の親が家に来てくれた。
父親の方だ。
正直、あまり良い印象はない。
以前、遥の家に行ったときも、ずっと苛立っているような人だった。
だが遥が亡くなって以来、その人はまるで別人のようだった。
沸騰していた湯が、冷水を浴びせられて静まったように。
「龍くんだったかね」
「はい、龍です」
「ここ最近、元気がないようじゃないか。遥の件かね」
「はい……遥の親父さんが一番悲しいとは思うんですけど」
「悲しみに一番も二番もないよ。気を使わんでいい」
少し間を置いて、遥の父は続けた。
「実はな、わしも龍くんのように立ち直れてはいない。
いや、たぶん一生立ち直れんだろうな。
遥が亡くなってから、後悔ばかりしている。
もう少し笑って過ごせばよかった。
もっと優しく接してやればよかったってな」
「きっと、親父さんが悪いんじゃないですよ」
「そうかな」
「遥は……親父さんも知ってると思いますけど、
人の気持ちにすごく敏感なやつでした。」
「そうだな特別だった」
きっと、親父さんの気持ちもちゃんと伝わってますよ」
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「そうだ。今日は遥の使っていた時計を渡しに来たんだ。龍くんがくれた時計なんだろう」
「ありがとうございます。」
その夜、もらった時計をじっと見つめていた。
遥が持っていたときは、止まることなく動き続けていた手巻き時計。
だが今は、遥の消失に合わせるかのように、落ち込んだように静止していた。
そのとき、ふと現実を突きつけられた気がした。
俺は箱を開けることに決めた。




