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線香の匂いが鼻を通り抜ける。
人の死とは儚いものだ。今まで積み上げてきたものが、一気に崩れ落ちてしまう。
僕たちの努力に意味はあるのだろうか。
たとえ何か大切なものを残せたとしても、それは広い地球の、ちっぽけな歴史の一部にすぎない。
いっそのこと、何もせず好きなことだけして生きていくのも正解かもしれない。
ただそれは、ゲームを買ってラスボスを倒すための行動をせず、始めの村でゆっくりしているようなものなのかもしれない。
「遥、ありがとな」
今は、そう言うしかない。
俺の親友だった。幼い頃から、どこへ行くのも一緒だった。
遥のことなら何でも知っていると思っていた。
なんで気づけなかったんだろう。
「龍くん、ありがとね。遥と仲良くしてくれて」
「そんな、楽しく過ごしていただけですよ。僕の方こそ感謝してます」
「あの子、自慢しいだったでしょ」
「そんなことないですよ。僕の前ではすごく謙虚でした。
きっと、お母さんに産んでもらったことを感謝を伝えるための自慢ですよ。遥は、そういう性格ですから」
「そうよ、わかってた。だから全部愛おしかったの」
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失ってはいけないものを、失ってしまった。
この先、遥で埋まっていた時間の代わりに、
何を入れればいいのだろうか。
ゲームをクリアするための、勉強だろうか。
だめだ。今の自分には、始めの村を出る勇気はないようだ。
数日間、ぼーっとしていた。
ピンポーン。呼び鈴が鳴る。
「はーい、なんですか」
何も頼んでいない。宗教の勧誘だろうか。
「宅配です」
「ペンでいいですか?」
「いいですよ」
会葬御礼だろうか。
宛名を見ると、そこには 鈴ノ木遥 の名前が書かれていた。




