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第二章 (3)

清掃員に

 月曜日の朝、ショウタ達はリョウヘイの会社に行って清掃の仕方の講習を受けた。玄関口でリョウヘイが迎えに出てくれた。

「リョウヘイさん、ありがとう。面倒かけて悪いな」ケントがリョウヘイに礼を言った。

「いえいえ、お安い御用ですよ。彼が主任のシンジ君です」

「シンジです。よろしくお願いします」主任はひょろっとした細身の180cmを超える長身の男性だった。真面目な好青年という顔立ちで上から見下ろされてもショウタは威圧を感じなかった。

3人とも青みがかったグレーの作業用ユニーフォームを着せられ、頭には野球帽のようなキャップを被せられた。いつもいかつい表情で包丁を握っているケントが動物園の飼育員のような柔らかい姿になった。そして小柄のエミリーにはサイズが合うユニフォームがなく、袖や裾がだぶついて子供が大人のパジャマを着ているような姿になった。二人のその姿が可笑しくショウタは声を出して笑った。

「そんなに笑わないでくださいよ。ショウタさんのユニフォーム姿が決まっているのは認めますけど」エミリーがしかめ面をしてショウタを睨んだ。講習では部屋や廊下の清掃の手順、掃除機やモップなどの器具の使い方、研究所のビルの構成と清掃の段取りなどを教わった。主任の指導は丁寧で手際がよく、わかりやすかった。

「話は社長から聞いています。朝、ご父兄に会うためにまず食堂の入っているビルから清掃を始めましょう。何時にご父兄が朝食を摂りに来られるか正確な時刻は不明ですが、研究所の始業時刻が9時なので、7時から8時30分の間に来られるのではないかと想像します。念のため6時から食堂のフロアの清掃を始めて9時まで、誰かしらがその食堂のそばにいるようにしましょう。特に清掃する順番は指定されていないので食堂のフロアから掃除を始めても問題はないです」

「ご配慮ありがとうございます。そうしましょう」ケントが同意した。

「講習は以上です。皆さん、覚えが早いので助かりました。それでは明朝、5時30分に出発するので5時20分までにはここにいらしてください」

「この度はお世話になります。明日はよろしくお願いします」ケントのその言葉とともに3人は主任に頭を下げた。


 モッキンに戻ったときには既に日が暮れていた。

「これから仕込みがあるからショウタ君、エミリーちゃんを頼む」そう言ってケントはドタバタと調理場に入っていった。ショウタはエミリーと店の隅のテーブルに座った。エミリーと二人になると特に話すこともなくショウタは少しどぎまぎした。どうしようかなあと店の奥の方を眺めているとエミリーが話しかけてきた。

「ショウタさん、手助けしてくれてありがとうございます。仕事はいいんですか?」

「いいんだよ、ちょうど休みをとっていたし」

「そうなんですね」そう言うとエミリーは下げている小さなポーチから何かを取り出した。

「これ、ショウタさんに上げます」それは木でできたペンダントだった。長さ3㎝くらいの角張った木片に模様が掘ってあった。それはエミリーの服にある不思議な模様と似ていて、同じようにオレンジや緑色で着色されていた。

「これはクスの木でできています。私の家のそばに大きなクスの木があるんです。名前はセルジュ。樹齢は1万年を超えているといいます。このペンダントはそのセルジュの枝から私が彫って作りました。この模様は我が家に代々伝わるもので、人と木々などの自然が一緒に暮らす姿の象徴だと聞いています。そしてこのペンダントは平和に暮らすためのお守りです」

「ありがとう」

「模様も私が彫ったんですよ。この模様を自分で彫ることが願い事をかなえ、お守りにもなるんです」

「え、そうなんだ。それは貴重なもんだね。大事にするよ」

「私も身に着けています」エミリーが首から下げている紐を引っ張ると服の中から同じペンダントが出てきた。エミリーの手作りで同じものを持てることがショウタは素直に嬉しかった。エミリーがペンダントを差し出すとショウタは丁寧にそっとそれを受け取った。エミリーの手に自分の手が少し触れたときに何か温かみと力を感じた。自分の首にペンダントをかけるときほのかな香りを感じた。

「なんか、不思議な香りがするね」

「クスの木の香りです。その香りが魔除けになると言われています。これからも災いがおきませんように」


エミリーからのプレゼントをもらって喜ぶショウタでした

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