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第七話 迷宮攻略③










明かりが無ければ一寸先すら見えないような、闇の中。


それであっても、魔物たちは人間を捉えて襲ってくる。人間を遥かに越えた脚力で近づき、その顔を覗かせる。


「ヴァアアア゛、ああ゛ア゛ア゛───!!」

「ピィ!!────ぴッピィ゛ィ゛──」

「グルアアアアアアアァ!」


闇から現れたのは、五体の魔物。

個体の種族はそれぞれ違う。

巨大な体躯に捻れた角を持つ、牛の頭と人間の身体を持った魔物。

首が二つ生え、その嘴に複数の目玉がついた、巨大な怪鳥の魔物。

涎を垂らし、牙を剥く狼の魔物。


他にも、人間の腕が複数取り付けられたような異形。鹿の頭に虫の脚が生えた魔物………


種族も見た目も違うが、共通している点がある。

()()を感じているという一点において、共通している。


ノコノコとやって来た人間(エサ)を喰える、その血肉を啜れる、絶望が見れる。

有り余る加虐心と残虐性を総動員させ、目の前の快楽を貪らんとする。



「────遅い」


瞬間、剣を振るう。

醜悪な顔を破顔させて飛び込んでくる魔物たち。

その顔目掛けて、横一文字に薙ぎ払う。


剣が黒き軌跡を描いて、間髪入れずに炎が後追いする。

この迷宮を進む旅で、ロアが編み出した『加護(スキル)』と剣技を掛け合わせる戦い方。


一撃目で()相手を切り裂き、二撃目(竜の炎)で燃やす。


その戦い方は、魔物を屠る事に対しては最も適したものであった。そしてそれは、今この場においても同じであった。


「───ガが、が……?」

「ピィ!?ピぎぃ゛ィ──!?」

「ガァ゛アぁぁぁ゛!?」


魔物たちの身体に剣閃が刻まれた後、爆炎の花が咲く。


そうして、快楽を求めた最初の三匹は幸福な(ミライ)を抱いたまま、その命を散らした。


「「!?」」


後続である二体の魔物は、存外にも賢かった。

前衛の魔物三体が殺されたと見るや否や、即座に後退し距離をとる。


その行動は殺戮という甘美に取り憑かれた唯の魔物とは違う、目の前のエサを警戒しての動き。

エサでは無く、自分たちの生命(いのち)に届く存在であると再認識した動き。


「ギギギギギギギギッ──ギチギチ…!」

「オオオオォォォ……」


鹿の頭に虫の脚を持つ魔物は高く跳躍し、高速で岩壁を這いずり回る。目指すは人間の死角。


「オォォォ────!!」


それと同時に、無数の腕を持つ魔物も行動を起こしていた。

無数の腕からどす黒い触手が、勢いよく飛び出す。一本一本が太く肉厚で、人間一人ならば容易く叩き潰せるであろう物。


それが、合計()()


「っ!?────ちぃ!!」


一本でも見落とせば大怪我に繋がる。必然、そちらに注意が行く。

そして向こうに注意がいったのなら、壁を高速で這う魔物など目に入らない。



「ギチギチィぃい゛──!!」


射出される毒針。

魔物由来の強力な神経毒だ、人間はおろか獰猛な猛獣だろうとたちまち昏睡する。


勝ちを確信し、顔を破顔させる。



「───暴炎(ぼうえん)!」


が、その目論見は眩しいまでの炎に拒まれる。

ロアの身体から溢れ出た暴れ狂う炎が、毒針も、鹿頭の魔物も、向かって来ていた黒い触手も無慈悲に焼き尽くされる。


「ッッ!!───前に経験してるとはいえ、結構くるなぁ……」


もっとも、それはロア自身も例外ではない。

皮膚が溶け、肉が焦げ、骨が焼き付く。

そうして身体が破壊された途端に竜の鱗が生え揃い、修復される。


炎に剣の軌跡を後追いさせることには慣れたが、炎を動かすための手本(剣の軌跡)があったからできた事。


発現したばかりの加護を、竜の魔力を簡単に扱えるほどロアは優秀な人間ではない。

未だ制御できないままの、未熟な炎。

そうだとしても、魔物を焼き殺すには十分だ。


「ギチ、ギギ、ぎ───ち゛……」


黒焦げになって、鹿頭の魔物は絶命した。


「オオぉ!?────オオォォォ!!」


残る最後の魔物。一人となった多腕の魔物は更に後退し、次の瞬間、脱兎の如く逃げ出した。

"あの人間には敵わない、殺される"

多腕の魔物は一人になってようやく、その事実に気付いたのだ。


多腕の魔物はもう、喰らおうなどとは考えていなかった。魔物という存在の持つ加虐心すらかなぐり捨てて、一心不乱に逃げようとする。


今、多腕の魔物を支配するのは"生きたい"という生存本能のみ。


生物として、あまりに原始的な本能。


逃げる。逃げる逃げる。


逃げて、逃げて、生きる。


「オ、オオ、オオォオオ!?────オオぉお!オオオオ゛オ゛オ゛ォォ……!?」


そんな生物の本能を抱えたまま、勢いよく身体を両断された。


多腕の魔物には目がない、鼻がない、多い腕とのっぺらぼうな顔を補うような大きな口があるのみ。

余りにも人間離れした容姿。

そうであるにも関わらず、その姿はまさに───()()()()()()()()()()()









♦︎♦︎♦︎



「ふぅ……」


五体の魔物たちを全員殺し、その場に座り込んで休憩する。流石に五体同時は疲れた、いくら強くなったとはいえ多対一はキツい。

少し休まなければ、《《他の魔物と戦えない》》。


「は、ははは…」


口から乾いた笑いが出る。

いつの間にか、ここの魔物と戦うのを楽しみに感じている自分がいる。

ここの魔物と戦っていると、自らの剣技が研ぎ澄まされるようだった。


自分の思い違い、などでは無く、どんどんと高みに登っている。

もはや学園の頃とは比べ物にならないほど、強くなっている。

魔物を斬る度に、強くなっていると実感できる。


心地がいい。


『お前はもう、リアバルト家の人間では無い、二度と家名を名乗るな』


魔物を斬る。


『案外簡単なんだな、コレ』


魔物を焼く。


『────最低』


魔物を殺す。


ああ、心地がいい。

過去の言葉が、まとわりついていた劣等感が消えるような、心が洗われるように感じた。

当然、わかっている。

この心持ちが不健全なこと、穢れた考えであること、醜い想いであること。時折、自分自身が怖くなる。この迷宮から出たらこの楽しみを求めて人を殺すようになるんじゃないかと、恐ろしく感じてしまう。



でも、止まれない。

煮えたぎる憎しみの炎が、止まらせてくれない。


「……」


ふと、多腕の魔物の死体を見る。

その顔には口しかないのに、怯えているように見えた。


「……なんだよ」


怒りを感じた。


「お前らは、俺を殺そうとしただろ……」


言い訳をするように吐き捨てる。


「だから、当然だろ……」


そうだ、当然だ、当然。

殴ったなら、殴られる。

殺そうとしたなら、殺される。

それだけのことだろう。



………むかつく。




俺は休憩をやめ、先に進んだ。




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