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第六話 迷宮攻略②






思えば、自分の人生にはいつも剣があった。

五歳の頃、加護(スキル)を授かった後に、父から渡された銀の剣。


ロアは剣に強くなることを、母の優しさに報いることを、悪を挫き、弱き者達を守ることをこの剣に誓った。


────今はもう捻じ曲がってしまった稚拙な決意だが、少なくとも小さい頃は、綺麗な想いが込められていたと断言できる。


陽の光を浴びて、暁色に輝く美しき剣。

そんな剣に見合うほどの綺麗な想いが、込められていた。



そう……()()()までは。


努力さえ続けていれば、鍛錬していれば。

いずれは強くなれる、父に認められるほどの人間になれると、恥ずかしげもなくそう考えていた。


考えて、いたんだ。







「────で、今は()()か」


地面を埋め尽くすほどの白骨の山。骸と化した身体を持つ魔物たちは、完膚なきまでに叩き潰され、今度こそ身体をただの残骸にされて、冷たい地面へと倒れ伏していた。


押し寄せる亡者の群れ───所謂スケルトンを討伐し尽くしたロアは、残骸である白骨の山に座りそう呟いて腕の中にある剣をまじまじと眺めた。


その剣は黒かった。


ただ黒いだけではない、錆び付いて、刃こぼれして、赤黒く染まっている。


以前まで持っていた銀の剣を由緒正しい騎士の剣だとするならば、これは真逆。

鍛治師の練習に造られて、失敗作だと断じられ捨て置かれる。銘すら刻まれないであろう剣。


だが、それでも()()()()()



「いいじゃん、この剣」


なぜ気に入ったのか今なら分かる。理解できる。

この剣は今の自分と()()なのだ。

輝きを失った自分と、同じなのだ。


心に宿った綺麗な想いはもう消えた。

自分でも苦しくなるほど、悲鳴をあげるほどに捻じ曲がって。此処に落とされて、真っ黒になるまで焼き尽くされた。今、俺にあるのはこの黒い剣とよく似た憎悪と生き汚なさだけだ。


あれだけ大事にしていた想いも、友人も、幼馴染も今のロアにはもう居ない。すべて焼き尽くされて、銀の剣もロアも同じように黒く変わったのだ。


だからもう、それでいい。


錆び付いていてもいい。


失敗作でもいい。


綺麗じゃなくていい。


すべてはこの憎悪を晴らすために。


すべては生き延びるために。


すべては強くなるために。





「だだ再び────剣を」


両手でしっかりと握り、構える。


「ふー……」


呼吸は深く、意識は更に深く。

強く、鋭く。


「────はっっ!!」


赤黒い剣閃が風を薙ぎ、空間を裂いた。

それは今までで一番の出来だった。


こいつと一緒なら、何処までも行けそうだと、ロアは感じた。


手元の黒剣が、応えるように輝いた気がした。




♦︎♦︎♦︎





あの剣の名前は『《《黒鉄(くろがね)》》』。暗闇に溶け込むような黒さからそう名付けた。


我ながら適当な名付けだと思うが、持って生まれたネーミングセンスだけはどうしようもない。


「よっ!はっ!」


失っていた感覚を取り戻すために、この『黒鉄』で鍛錬をしていて二つ、気付いたことがある。

一つ、この剣は見た目以上に頑丈で鋭いということ。二つ目に炎への耐性があるということ。


『黒鉄』は確かに錆びれて、刃こぼれしている。お世辞にも戦闘には使えないようなナマクラ同然の代物に見える。


が、この剣はナマクラではなかった。

それどころか、振れば振る度、刻めば刻む度、その切れ味は色濃く表れ。感覚が冴え渡っていくのを感じた。


暗闇から現れる罪人迷宮の魔物であっても綺麗に叩き斬ることができた。


二つ目に。炎への強い耐性を持っていること。


魔物の肉を焼き焦がし、その気になれば岩壁さえも融解させられらる竜の炎。

そのはずが、なぜかこの剣に限っては逆に炎を取り込んだ。


獄炎にその剣身を抱かれて、融けるのではなく、炎を取り込みいっそう鋭さを増す。

それがこの剣の、もう一つの特徴。


こんなボロボロの剣が、なぜこれ程の力を有しているのか、考えてみた結果────一つの可能性が頭に浮かんだ。


それはこの剣が《《魔装(まそう)》》であるという可能性だ。


魔装とは読んで字の如く、魔法を施された装備のことである。

魔術師が武器や防具に術式を書き込み、自らの魔力を織り込む。

所謂付与魔法(エンチャント)と呼ばれる高等技術を用いて、魔装は造られる。


通常の剣とは違い、魔装は剣身を包み込む魔力によって刃こぼれしてもその切れ味を失わない。上質な物だと刻まれた術式の効果を発動できる物もある。



他には稀な例ではあるが、長年使われた剣が魔物の血や使用者の魔力を吸い、いつの間にか魔装となっていることもある。

こちらは術式が刻まれていないが、長年魔力や魔物の血を吸収し続けたこともあり、人為的に造られた魔装よりも更に強力に、魔物にある種の特攻を持つ物もある。



『黒鉄』に関して言えば、恐らく()()》。


優れた武器には銘を刻まれるものだが、『黒鉄』に銘はない。それにこの禍々しさから人の手によって造られたとは到底思えない。

前の持ち主が相当使い古し、魔物の血肉を啜らせたか、あるいは強烈な悪感情と狂気の持ち主。どちらかだろう。



魔剣だと結論付ければ、黒鉄の異常な特性にも納得する。


「ま、無事地上に出れたら刃こぼれを直すくらいはしよう…」


いくら魔剣で、刃こぼれしても問題なくとも────新たな剣がこれじゃあ格好がつかない。黒鉄自身も、このままの姿じゃ嫌だろう。




まず、目指すは地上。


新たな目的を胸に抱いて、ロアは上に続くであろう石段に足をかけた。
















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