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第五話 迷宮攻略①






その光は、鮮烈なまでに白く、暴力的なまでに熱かった。


閃光に当たられた猛犬は水が霧散する様に()()した。岩壁は溶け、土埃が舞い、白骨化した遺体は灰か塵となって消えた。


後に残るは、まさに地獄の如き獄炎。轟々(ごうごう)と燃え盛るそれはロアの身体に纏わりつき焼き尽くす。


が、そんな状況下でもロアは()()()()()。燃やされながら、笑っている。


「は、はは……ははは」


わずか一振り。


わずか一撃。


それだけでこの威力。


なんということだろう!何もできないと考えていた加護が、無能と蔑まれた自分が、この光景を生み出したのだ。


炎と共に歓喜が湧き上がってくる。


腹の底から笑いが込み上がってくる。


思えば過去に何度、心の底から笑えただろうか?もう数年は愛想笑いを貼り付けていた。


ならば笑おう。

誰も止める者は居ない、止められる者も無い。幾ら魔物が寄りつこうと、今の俺なら葬り去れる。


「はははははははははははははははは!!」


笑い声と獄炎が収まったのは、それからもう暫くしてからの事であった。







♦︎♦︎♦︎





「さて、と……」


炎も歓喜も収まり、いつもの冷静さを取り戻し、改めて自身の身体に目をやる。


「これも加護スキルの力なのか?」


今の俺は両足で立ち、左腕を持っていた。


喰われたはずの足や、腕が再生していた。


ただしその腕からは蒸気が立ち込め、薄緑色の鱗が生えている。

竜の鱗とも言えるそれが、花弁の様に地面に落ちる度に人間としての身体を取り戻していった。




心あたりはある。


閃光を放ったあの時、獄炎が執拗なまでに纏わりついてきた、痛みも苦しみも感じはしなかったが、その時に新しく()()()()()()()()()


元来、竜という種族は力と同時に生命力に溢れている物だ。それこそ首を断ち切られても暫くは生き続け、暴れ回るほどらしい。


成程、ならば腕や足の数本くらい、新しく生えてくるのも当然だろう。


「それに……よっと!」


そう考えながら、目の前にある岩壁に拳を打ちつける。構えてもいなければ、それほど力も込めていない一撃。


だというのに、分厚い岩壁には穴が空いた。



()()も『加護』による恩恵。


まともな力も込めていない拳が、堅牢な岩壁を壊せた理由。それは単純に、俺の身体から湧き出る魔力の総量が多くなったからだ。


魔力というものは魔法を行使するために使うエネルギーだ。魔力が有るからこそ世の魔術師は炎や氷を魔法として生み出せるし、治癒師は怪我を治療できる。


魔力の使い道はそれだけでは無い。練り上げ、身に纏うことによって身体能力を強化できるのだ。


魔力があればあるほど、魔力操作の練度が高ければ高いほど、その身体能力は人間の域を超えていく。


『加護』を手に入れた俺の魔力は今、その身体から溢れんばかりに満ちている。


ゆえに、壊せた。


今なら先ほどの黒い猛犬や、それ以上の魔物であっても殴り殺せる。そう確信できるほどの魔力総量だ。



「ははは……希望が見えてきたぁ!」


まさに僥倖、希望の道。

"能無し"、"無能"と蔑まれてきて十四年。認められない罪を背負わされ、奈落とも思える迷宮で死ぬ、その寸前に力を得るとは。


どうしてもっと早く目覚めなかった!と思う気持ちは勿論あるが……


なにはともあれ、この力を上手く使えれば、地上へと這い上がれるかもしれない。


「────よしっ!炎の操作もできるな…」


左手に火種を生み出し、ランプの明かりほどに大きくする。これで視界は確保できた。


「行くぞ……」


目指すは見慣れた地上。今はそれだけを目標にして。


ロア・リアバルトは迷宮攻略の第一歩を踏み出すのだった。





♦︎♦︎♦︎





「うらあぁぁぁ────!!」


「「グギャアアア!?」」


ロアの拳が魔物たちの身体にめり込む、まるでボールのようにその身体が歪んだ瞬間、爆散する。


「ガァァァ……!!」


同族の臓物と血が飛び散る地獄絵図であっても、後に控える魔物どもは怯みもしない。

何かに突き動かされるように、腐臭を漂わせながら目の前の人間に向かって行く。


この魔物たちは生ける屍、所謂ゾンビ。


他の魔物に備わっている同族意識さえ無く、ただ生者の血肉を求めて何度でも蘇る。


()()()()()()()()。それこそがこのゾンビ達の厄介なところだった。



「どんだけしつこいんだよ……こいつら」


どこか呆れたように、慣れたようにロアは呟き、手をかざす。


「『この手に火種を────』」


唱えるは火の初級魔法、多少なりとも魔力操作に心得があれば誰でも扱える、初歩中の初歩の攻撃魔法だ。


誰でも扱えるというだけあって、その威力は初級の域を出ない。せいぜい弱い魔物であるゴブリンや野鳥を焼き殺せる程度だろう。


──が、その魔法に規格外の魔力が込められていれば?


人間の力を超えた、燃え盛る竜の魔力が込められていれば?



必然、威力は大きく、強くなる。


込める、込める。


より濃く、より強く。


練り上げる、混ぜ込む。


「『────火球(ファイヤーボール)』」


詠唱が紡がれたその瞬間、赤い閃光が走った。


「ギャ────」


ゾンビ達が反応すらできない速度で火花が散り、そして、爆発。


その爆発は、あたり一面を文字通り吹き飛ばす。

おおよそ火球(ファイヤーボール)とは思えない威力で、ゾンビ達を一瞬で塵に変えたのだった。



「いくら殺せなくても、塵になれば復活できないだろ…」


土埃が舞う中、ロアはそう呟いた。

その時、前方から音が聞こえた。カシャン、カシャンと骨と骨がぶつかるような音。


暗闇から現れるのは、無数の人骨。言葉を発することは無く、筋肉の無い身体にもかかわらず当然のように此方に向かってくる。


「無限に湧いてくるなぁ……|お前ら()()は────ッて!?んん!?」


向かってくるの骸骨達を見て、ロアは驚く。

だって、その骸骨たちは、()()()()()()()()()



この迷宮に落ちてきて、失った物。

ずっと自らと一瞬にあった物。

極めたかった物、手にしたかった物。


「ああ……!!」


汚れている、ひび割れている、錆びれている。────それでも、美しい。



骸骨の手には、剣があった。









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