マスクの箱舟…東南アジアの海水温が5°c上がって悟る人々
✦『マスクの方舟』
― 東南アジアの海水温が5℃上がって悟る人々 ―
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地球が熱を出してから、まだ百年も経っていない。
海は赤く、空は鈍く、大地は揺れ、火山は唸る。
それでも人間は――
“救われる側”と“沈む側”に分かれた。
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❖ 世界の富豪たちが造る「方舟」
砂漠の地下には「永遠都市」が建てられている。
空調が季節を決め、人工太陽が朝を作り出す。
壁の中には最新の核融合炉が眠り、
地上が燃えても彼らは生き延びるという。
太陽フレアが爆発しようが、
地軸が傾こうが、北極の氷が溶けようが――
彼らは冷静に方舟を作り続けていた。
別の大陸では、火星行きの方舟が組み立てられている。
何千億ドルを投じたロケットは、
まるで“神の梯子”のように立ち上がった。
だが研究者たちは知っている。
火星では放射線を防げず、
人間は宇宙では長く生きられないことを――。
「宇宙ステーションも、
地球の息の届く高さに浮かんでいるだけですよ。」
それを知っていながら、誰も口にしない。
なぜなら、あの国は月に行っていないのだから。
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❖ イエローマスクの教育
その計画の中心にいたのは、金色のマスクを好む科学者。
人は彼を「イエローマスク」と呼んだ。
「まもなく地球は終わる。
だが私の子孫だけは生き延びる。
そのためには、
新しい教育と新しい種が必要だ。」
子どもたちは要塞の中で、AIがつくった仮想教室で学んでいる。
歴史も宗教もなく、ただ“生き残る方法”だけを学ぶ。
――それが、“新しいノアの教育”だった。
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❖ 地球の熱が生む貧困の連鎖
バングラデシュでは、貧しい女が泣いていた。
娘は縫製工場の火災で死に、
姉は海辺で働き、波にさらわれて戻らなかった。
「神さま…方舟はどこにありますか?」
答えはなく、波の音だけが葬送の鐘のように響いた。
海の底では**毒の藻(赤潮)**が花を咲かせ、
珊瑚は白く骨になり、魚は姿を消した。
漁村では子どもたちが食べる魚を探して浜を歩く。
インドネシアの火山は1万メートルの煙を噴き上げ、太陽を灰で覆った。
米は実らず、職を失った若者たちは
ネット詐欺やオンラインカジノに吸い寄せられていった。
「暑くなったこの海に、
そなたの兄弟の奴隷舟が浮かんでいるんだよ…」
村の長は泣いている娘にそう語った。
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❖ 地が裂けるアジア
ネパールではマグニチュード7の地震が起き、
仏塔が崩れ、家族を呼ぶ声が山にこだました。
カンボジアでは洪水が都市を呑み、
タイとの国境で銃声が響いた。
「水が奪われる前に、私が水を奪うのよ!」
――避難民の女教師は言った。
インドとパキスタンの国境でも、
干ばつと小麦不足が戦火を呼び、
アフガニスタンでは難民が人身取引に巻き込まれた。
SNSの闇は、“仕事”という名の罠で満ちている。
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❖ 熱を逃がそうとする海
インド洋の波は、その怒りを北へ運ぶ。
かつて日本へ向かっていた台風は、
いまや東南アジアに吸い寄せられている。
風速50メートル。
“数十年に一度”の嵐が、
“毎年の行事”になった。
「日本が50℃にならないのは、
フィリピン湾の海が
日本の熱を吸ってくれているからです。」
ヨーロッパは乾き、スペインは50℃の熱波に焼かれた。
日本は40℃で息をしている。
それでもギリギリの「命の温度」。
「これは天罰ではありません。
人類が自分で招いた“地球の熱”です。」
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❖ 老漁師アリフの言葉
焼けた浜辺で、老漁師アリフは空を見上げた。
「異国の地で
“ノアの方舟”を作っているイエローという男がいるらしい。
でも、わしらはまだ、
波の音を音楽と勘違いしとる。」
風が吹き、火山が噴き、海がうなり、地が鳴り、空が泣いた。
地球の熱はまだ冷めない。
それでも、人間だけは冷たくなっていく。
アリフは子どもたちに言った。
「いずれこの世界は滅ぶ。
じゃが我らだけが、
真の信仰を持つ民であることを忘れてはならんぞ。」
宗教、金、科学――三つの方舟が競い合うように浮かび始めている。
そして地球は、自らの熱をアジアの海に逃がそうとしていた。
老漁師アリフは、腐った木で舟を作り続けている。
釘は錆びて、帆も破れていた。
夜明け前、海の向こうが光った。
それは爆発か、日の出か?
――誰にもわからなかった。
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❥現代黙示録 ― “最後のページ”
67歳の老人は、やっと涼しくなった日本の田舎で呟く。
地球は熱を出している。
海は怒り、山は裂け、空は泣く。
だが、ほんとうに壊れかけているのは、
拝金主義で汚れてしまったわしの心かもしれない。
富める者は宇宙を目指し、
貧しき者は炎の海に沈む。
そしてそのどちらも、
それから、わしも――
お釈迦様がおっしゃる「慈悲」という意味を
もう一度、学び直す時が来たのだろう。
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「地球が風邪を引いたのなら、
そして、わしらが地球を我が子と思うのなら、
薬を与えず、体温計を壊して笑うはずがない。
額に手を当てて、
“大丈夫だよ、明日にはお熱が下がるよ”
と、優しく声をかけるだろう…」
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それがこの時代の黙示録。
そして、この物語を読む者たちへの――
老人の最後のメッセージでもある。
「地球を救うのは
科学でも宗教でもない。
それを
“まだ救える”と信じる心だ。」




