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憂の鬱な世界、13回目。~輪廻に抗う幽霊少女。13回目の転生で真の身体を取りもどし、そして怪異の王となる~  作者: 神崎 和人
第1章 転生怪異

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17.激闘のそのあとで

「ゼロ」


 紘汰の口から自然と言葉がこぼれ落ちる。

 同時に光の矢が、青白い光跡を引きながら一直線にクマにむかって飛んでいき、胸部に埋めこまれていたヒトガタを撃ちぬいた。


「ごめん、憂」


 彩葉が思わず謝罪の言葉を口にする。

 巨大グマが断末魔の咆哮をあげ、同時に光で構成された頭部が霧散するように消えてなくなった。


 操り糸が切れたように足をぐにゃりと曲げて、重力に引かれるがまま後ろへ倒れていく。どさっと横断幕か何かが落ちたような音がしたものの、地響き等は皆無。


 そのまま身体がゆっくりと縮んでいき、ボロボロの小さなぬいぐるみへとその姿をかえる。


 その様子を見とどけた彩葉と紘汰は、地面に倒れたまま動かない可乃衣の元へとかけよった。

 彩葉が声をかけると、気をとりもどした可乃衣が横になったまま焦点の定まらない目で二人を見あげる。


「やったんやな。ウチのおかげやな?」

「そうね死神娘。でも私のゴーレムが動きを止めたのが大きかったわ」

「可乃衣や言うてるやろ、何度言わすねん……いててて」


 可乃衣が痛みに耐えながら腰を起こそうとする。


「え? 最後決めたの俺なんだけど……?」


 自分を指さして口ごもる紘汰に、二人はにこやかな笑みを浮かべて目配せをしあう。

 可乃衣に手を差しだして、彩葉が改めて自己紹介をした。


「水無瀬彩葉、彩葉でいいわ」

「俺は紘汰。瀬戸内紘汰」


 紘汰もそう名乗りつつ、可乃衣に肩を貸す。

 立ちあがった三人は、ぬいぐるみ――憂のもとへと向かった。

 途中、彩葉が地面に転がる◯ジラのフィギュアに目をとめる。首から上が取れかけており、中空の胴体を無惨にさらしていた。


「フィギュアが、限定フィギュアが……高かったのに……」


 思いだしたように涙を浮かべる彩葉を見て、他の二人が顔を見あわせ笑う。

 その近くに首が千切れ、あちこち破けてほころびだらけになった無惨な憂のぬいぐるみがあった。


 胸部が大きく裂け、ヒトガタが露出している。ヒトガタは小さな穴がひとつ空いていたものの、大きな損傷はないように見えた。


「また暴れられたら厄介ね。かわいそうだけど、いまのうちにヒトガタをぬいぐるみから引き抜くわ」


 ぬいぐるみを手にとり、ヒトガタを指でつまんだ彩葉の顔色が変わる。

 いくら力をこめて引っ張っても、それをぬいぐるみから引きはがすことができなかった。


「はがれない!? これは、未練? まさか、こんな短時間でヒトガタとぬいぐるみとの間に未練が形成されてる! しかもそれが物理的に作用して引き剥がせないなんて、なおさら聞いたこともないわ!!」


「いたた、痛いよ彩葉ちゃん。やめてよ!」

「憂! あんた無事だったの!?」

「無事って? ふぁーーー、あーよく寝た。あれ? 知らない子、外人さん?……」


 憂は可乃衣を見て言っているのだろうが、いかんせん頭がないので視線が読みとれない。

 そのとき、彩葉が背中に気配を感じて振りかえり、それにつられたように紘汰たちも後ろを振りむいた。


「お前たち、やってくれたな!」


 そこには、呆れ果てた顔の善次郎医師と薙刀を構えた婦長、紗弥の姿があった。




「なんだ善さん絡みの案件ですか。困りますよ、あんまり派手にやってもらっちゃ」

「いやぁ、すまんすまん」


 警官と笑いながら話す、作務衣さむえ姿の善次郎医師。

 彩葉宅に二台のパトカーが到着していた。パトランプが辺りを赤く照らしだす。

 二人の警察官が、集まった野次馬を慣れた様子でさばいていた。


『映画の撮影』


 大方はその説明に納得し、自分の家へかえっていった。

 厳しい表情にもどった善次郎がつぶやく。


「悪意が渦まき集中する、さっきの感じ。十年前のあのときに似ていた……」


 彼の言葉に無言で首肯する紗弥。二人の視線が憂の入ったぬいぐるみに注がれる。


「こいつはもしかすると、もしかするかもしれねぇ。俺が連れて帰る」


 善次郎が憂を見おろしたまま厳しい表情で告げる。

 それを聞いた彩葉が、あわてたように抗議する。


「ダメ、この子は私が預かるって決めたの。そもそもそっちが押しつけたんじゃない、勝手なことばかり言わないでよ!」

「どうしたんだよ彩葉、さっきまであんなに面倒くさそうにしてたのに……」


 紘汰は彩葉の反応に少し意外な様子。


「だめだ。お前をこれ以上、危険な目にあわせるわけにはいかねぇ。あいつに頼まれてるんだ、俺は」

「ばぁちゃんは関係ないでしょ! それに、危険な仕事ならいつも請けおってるじゃない!」


 善次郎の言葉に、なおも反論する彩葉。


「あんなものと一緒にするな!」


 善二郎は怒鳴ってしまってから、うっかり本心がでてしまったことを暗に示すかのように口元を手でおおい、言いよどむ。

 彩葉が彼に背をむけ、うつむいた。

 その肩が震えている。


「す、すまん。そういう意味では……」


 困り果てた表情の善次郎が、その肩に手をのばす。


 すると、突然ふりかえった彩葉がその手を払いのけるようにして彼の腰へ抱きつき、涙目で訴える。


「ありがとう。善爺にはいつも感謝している」


 善次郎の作務衣を強く握りしめ、彼女が懇願する。


「でもお願い。今回だけは、私のわがままを聞いて」


 彩葉の真摯な眼差しを受けて動揺したのか、視線をあらぬ方向にそらす善次郎医師。


「その……なんだ、見逃すのは今回だけだぞ。次、同じようなことがあったら――」

「ありがとう善爺!!」


 善次郎の言葉を最後まで聞かず、彩葉はジャンプしてその首に抱きついた。


「あちゃー、またやられた」


 その様子をみた紗弥が顔を片手でおおい、小声で言いながらため息をつく。

 同時に指の隙間から仲睦まじい二人の様子をうかがって、フフッと優しく微笑んだ。




 そうして善次郎と婦長は、まだ帰りたくないとダダをこねる紘汰を無理やりに引き連れて帰っていった。

 同時に警官たちも引きあげる。

 静まりかえった庭先にとり残された彩葉と可乃衣、それにぬいぐるみの憂。


「ふう、なんとかなったわ。半世紀生きたところで所詮、男なんてちょろいもんよね」


 彩葉がニヤリと笑いながら、水戸黄門の印籠よろしく見せつけたのは目薬だった。


「うわ、自分えげつなっ!」


 心底嫌そうな可乃衣。


「さあ、私たちも家にもどりましょう」


 振りかえった彩葉が見たのは、半壊状態の愛しい我が家だった――。


「げっ、忘れてた……」

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