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憂の鬱な世界、13回目。~輪廻に抗う幽霊少女。13回目の転生で真の身体を取りもどし、そして怪異の王となる~  作者: 神崎 和人
第1章 転生怪異

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15.続・大怪獣バトル

「まさかあれ、放射能とかださないよな?」


 それが彩葉の術法で巨大化させたフィギュアだと聞かされた紘汰が、引きつった顔で彼女に尋ねる。


「あたりまえでしょ、◯ジラのフィギュアよ、ただの」


 元は彩葉がコレクションしていたフィギュアだった。クマが暴走をはじめたときに彼女の部屋から瓦礫と一緒に放りだされたのだ。


「ところで、◯ジラの“◯”ってなんだよ? 普通に言えばいいじゃないか?」

「うるさいわね! いろいろケアが必要な時代なのよ。今はどうでもいいでしょ、そんなこと!!」

「なるほど、そういうもんか……」


 腕組をして変に感心し、何度もうなづく紘汰。

 そうこうしている間にも、二撃、三撃と振りおろされる◯ジラの猛攻を、彩葉は必死に耐えしのぐ。


「何してるんだ、逃げろ彩葉!」

「私が逃げたらこの家が……くっ」


 術法の効果が弱まりつつあるのか、衝撃が彼女の身体に伝わりはじめたようだった。


「家は壊れても、あとで直せるだろ!」


 紘汰が必死に呼びかける。


「作りなおしたら、それはもう別の家だもの。じぃちゃんとの大切な思い出がつまった家はこれだけだから……」

「くそっ! バカ彩葉!!」


 紘汰が彩葉の元に駆けよろうとしたその時、一人、クマと戦いつづける可乃衣の叱咤が飛ぶ。


「二人とも、なにを遊んどんねん!」

「うるさいわね! 私だってやりたくてやってるんじゃないわよ!」


 可乃衣の声に気をとられて集中力をかいたのか、防御術法がその光をうしなって今しも消えようとしていた。


「あぶない!」


 危機をつげる紘汰の声が飛ぶ。気づけば、◯ジラの巨大な尾の一撃が、彩葉に真横から襲いかかろうとしていた。


「えっ!?」


 硬直したまま動けない彩葉。

 しかし、彼女の身代わりとなってその一撃を受けとめたものがいた。


 ――紘汰だ。


 宙を舞う二人の身体。それぞれが別々の方向へ弾き飛ばされる。


「いてて……」


 すぐに起きあがったのは彩葉。紘汰が攻撃を受けとめてくれたおかげで、大きなダメージはないようだった。

 あたりを見回し、数メートル先に仰向けで倒れたまま起きあがらない少年の姿をみつける。


「紘汰!」


 彩葉が駆けよると紘汰は苦痛に表情を歪めながら、無理やりに作った笑顔で微笑んだ。


「無事……だったか、よかった……」

「バカ! なんで出てくるのよ!! 私の身勝手にあんたが巻きこまれることなんて――」

「だからって、お前がケガでもしたら――俺は自分が許せない」


 かすれた声で安堵したように紘汰が言う。

 彩葉の目に涙がにじんでいた。

 己のバカさ加減に嫌気がさすと同時に紘汰の言葉にうれしさと気恥ずかしさも入り混じり、感情がぐちゃぐちゃになっていた。


「私、今日は紘汰に守られてばっかりだ……」


 そう言いながら彼女は、幼き日のことを思いかえしていた。

 



「紘ちゃんをいじめるな!」


 背が低く、まわりの子供たちからいじめられがちだった紘汰。

 そんな少年を身をていして、いつも守っていたのが彩葉だった。


「うわっ! 男女おとこおんなが来たぞ! 逃げろ!!」


 彩葉の登場をはやしたてながら、悪ガキたちは逃げていく。

 少女は泣きべそをかいてしゃがみこむ紘汰を立ちあがらせ、服についたホコリをはらう。


「しっかりしなよ、男の子でしょ? また善爺に怒鳴られるよ?」

「だって……僕は彩葉ちゃんみたいに大きくないし、強くもないから……」

「弱いなら、強くなればいいの! そうね、まずはこれを読んで」


 彩葉が手渡したのは、某有名格闘マンガ。


「他のキャラはみんな宇宙人だったり、人造人間だったりするけれど、この子はただの人間なんだよ」


 指さしたのは他の登場人物たちと比べても一際背の低い、ハゲ頭の少年だった。



 

 ――もう身長は追いこされちゃったね。


 彩葉が倒れたままの紘汰に微笑みかけたそのときだ。


「ふたりとも! 後ろや!!」


 危機をつげる可乃衣の声が響く。

 気がつけば、◯ジラが眼前にせまっていた。

 彩葉が紘汰を庇うように覆いかぶさる。


「俺のことはいいから逃げろ!!」少年が声を限りに叫ぶ。


「あんたを見捨てて逃げられるわけないじゃない。私にだって、少しはカッコつけさせてよ」


 彩葉は自身の最期さいごを覚悟した。

 しかし、なにもおきないまま、静寂の時だけがすぎていく。


 ――もしかしてここは天国で、私と紘汰はもう死んじゃったのかな?


 そんなことを考えながら彩葉が顔をあげると、◯ジラは眼の前で身をよじりながら、身動きがとれずにもがき苦しんでいた。


 よく見れば、◯ジラの身体に分銅ふんどうのついた鎖が巻きつき、その動きを封じている。

 鎖の先には可乃衣の姿。

 鎌の柄から伸びた仕込み鎖を片手で握りしめて、◯ジラの動きを懸命におさえこんでいた。


「いまのうちに、そいつを引っこめるんや!」

「言われなくたって……」


 彩葉が立ちあがり、印を結ぼうとしたその時だ。


「キャー!!」


 可乃衣の悲鳴だった。


 彩葉が声の方向を振りかえる。しかし、先ほどまで可乃衣がいたはずの場所に彼女の姿がない。

 かわりにあったのは、腕をふり抜いた姿勢のまま静止する巨大グマの姿。

 そして、その視線の先に桜の木へ背中を預けたまま、うなだれて動かない可乃衣。


「可乃衣!」


 動かなくなった可乃衣に興味を失ったのか、次の獲物をもとめて巨大グマが◯ジラにむきなおる。

 鎖の呪縛から解放された◯ジラも、迫りくる巨大グマに気づき、一歩踏みだした。


 にらみ合いながら互いの様子をうかがう二体。

 一瞬の静寂のあと、どちらともなく激しい咆哮をあげた。

 それを合図にしたかのように、両者は正面から激突する。


 腕力に物を言わせるクマに対し、◯ジラはその太く長い尻尾をふり回して応戦。

 何度かの衝突をくりかえした後、がっぷり四つに組みあって押しあいをはじめた。

 それぞれの自重により足元から地面がえぐれていく。


「いまのうちよ!」


 痛みをこらえながら立ちあがった紘汰に彩葉が肩をかし、二人は可乃衣の元へかけよった。


「見た目、大きなケガはないようだけれど……」


 彩葉が可乃衣をかかえ起こしながら、目視と簡単な触診で確認する。

 しかし、専門的な知識のない彼女に適切な判断ができようもない。

 あの巨大な拳の直撃を不意に食らったのだ、骨の一本や二本、折れていても不思議はなかった。


――私のせいで、この子までこんなことに……。


 彩葉が歯がゆい思いに拳を震わせる。


「とりあえず、今は下手に動かさない方がいいわ。可乃衣の救助はあとよ、先にこいつらをなんとかする」

「わかった! で、この弓は?」紘汰が思いだしたように弓をさしだす。


天之麻あめのまなんとかって、神具のレプリカよ。レプリカといっても国宝に値するくらい価値のあるものらしいわ」

「なんで国宝がお前んちなんかにあるんだよ」


「知らないわよ。ばぁちゃんがどこか山奥の村を悪霊から救ったお礼に、名主みたいな人からもらってきたらしいんだけど、弓なんかに興味ないって。それでじぃちゃんが床の間に飾ったらしいわ」

「ふーん、これがね。ただのボロ臭い弓だけどな」


 紘汰が納得いかない表情で弓を左手に持ち、軽くつるを引いてみせる。


「この弓でヒトガタを撃ち抜けば……だけど今のままじゃ――」


 彩葉が言葉をにごす。

 可乃衣の決死の攻撃も虚しく、ヒトガタを露出させることには成功していない。

 このまま撃ってもヒトガタまで貫通させることができるのか、彼女には疑問だった。


 そのとき、突然背後からバキンッ、バキンッ、と何かが砕ける音が聞こえて彩葉は振りかえる。

 見あげれば、両肩を捕まれ首を半分噛みちぎられた◯ジラが、今しも絶命しようとしていた。


 空から紫色の光につつまれて降ってくるのはプラスチックの破片。

 巨大グマが動かなくなった◯ジラを横に押しのけると、地響きをたてて横倒しになった◯ジラは紫色の光につつまれて一瞬の間に収縮し、もとのフィギュアにもどった。

 首がもげかけた無惨な◯ジラの姿に愕然とする彩葉。


「あぁ、私の◯ジラが……。貴重な限定品だったのに……」

「いや、だから今そんな場合じゃないだろ、何回、言わせんだ!」


 そうこうしているうちに戦う相手を見失った巨大グマの矛先が二人にむけられる。


「紘汰、構えて! ヒトガタをその弓で撃ち抜くの!」

「構えろったって、矢がないんだよ!」

「矢は私が用意する、いいから集中して。いつもの練習を思いだして!」

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