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憂の鬱な世界、13回目。~輪廻に抗う幽霊少女。13回目の転生で真の身体を取りもどし、そして怪異の王となる~  作者: 神崎 和人
第1章 転生怪異

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12.彼女のミレン

「それにしてもこんなすごいの、私もはじめて見る……」


 夜空を覆いつくす光の束、『未練』に言葉を奪われる彩葉。

 彼女はその中でも比較的太い、何本かの未練を指さして言う。


「このどれかが、おそらく憂の本当の身体と繋がっているはずよ」


 紘汰と憂が彩葉の指さす方向に目をむけ、光の帯がのびるその先を視線で追う。


「あなたの魂は身体と未練でつながったままなの。だから成仏できない。普通は肉体の生命活動が停止すれば、自然と消失していくものよ。死んで間もないのか、あるいは医療機関で仮死状態のまま延命されているとか……」

「えぇーそんなー。どうすればいいの?」


 ぬいぐるみが胸に手をあて、首をかしげながら彩葉に問う。


「自分で未練を断ち切るのは簡単じゃないわ。特に身体との未練は一生をかけて形成した、とても強いつながりなの。身体を探しだして滅却めっきゃくするのが一番手っとり早いわね」

「でも逆に考えると、まだ生きてる可能性もあるってことだよな。なんていうか、幽体離脱みたいな……」

「おー、そうとも言えるわね。紘汰にしては上出来」


 めずらしく紘汰が機転をきかせたことに感心したと言わんばかりに、彩葉が大きくうなずいてみせる。

 バカにされたと思ったのか、ムッとした表情の紘汰。しかし、ふと、何かに気づいた様子で、彩葉の胸のあたりを指さした。


「えっじゃあ、これはどういう……」


 ぬいぐるみと彩葉の間にも光の帯、未練が形成されていた。他の未練と比べてもかなりの太さだ。


「おまえ、ママに買ってもらったぬいぐるみをそんな大切に……」


 吹きだすのを必死に我慢する紘汰。


「バカ! そんなわけないじゃない、あと人を指差すんじゃないわよ、失礼ね!!」


 彩葉が顔を真っ赤にして怒鳴りつける。

 頭をかかえて逃げまどう紘汰の背中を追いかけながら、力の限りどつきまわす彼女。


「ちゃんと説明を聞いてたの? いま見えているのは私じゃなくて憂の未練よ!」

「いたた、え!? だって、二人は今日はじめて会ったんだろ? どういうことなんだよ!?」

「それは……」


 紘汰の言葉に思考をめぐらしていた彩葉が、天井を見あげてはたと動きをとめた。

 一瞬にして、その場の空気がズンッと重くなる。そして彼女を襲う強烈なめまい、悪寒、そして吐き気。


「おい、様子が変だ。色が変わっていくぞ!」


 紘汰が指さす方向を皮切りに、未練が次々と色をどす黒く変化させていく。


「なによこの強烈な悪意、この家を目掛けて日本中から押しよせてくる! いえ、それだけじゃない海のむこうからも!?」


 見えない何かに取り囲まれたようにあたりを見回し、背をふりかえり、彩葉が叫ぶ。

 自身の両肩を抱きかかえたままガタガタと震え、冷や汗をたれながす彼女。心配そうな顔で駆けよろうとする紘汰を片手で制す。


「あんた一体、なにをしたの? このおびただしい数の未練、ほとんどが深い悪意に満ちている。尋常じんじょうじゃないわ」

「わからない……覚えてない、何も覚えてないの……」


 彩葉の詰問に、憂はただただ首をふる。


「なら今すぐ、成仏なさい! 日本、いや世界のため、何より私自身の安全のために!!」

「そんなーむりだよー。彩葉ちゃんがそう言ったんじゃんかー」


 彩葉は瞬時に考えをめぐらす。

 

 ――祓うのは無理。なら、どこか隔離された場所に封印するか……。

 

 しかしそれが出来ないことは自身が一番よくわかっていた。遥かに高い霊能力を持ち、彩葉の師匠のような存在である善次郎医師でさえ、ヒトガタに移すことしかできなかったのだ。未熟な自分には憂を封印することなど到底不可能だ。

 自身の力のなさに歯噛みする彩葉。


「紘汰、善爺を呼んで! 頼れるのはあのひとしか――」


 言いかけた、まさにそのときだった。


「待って、近い! 来るわ」天を仰ぎ、身構える彩葉。


 天井がきしむような物音がわずかに響き、パラパラと砂埃が床に落ちる。


 突然の轟音。


 天井の一部が陥没するように大きく裂け、家全体が上下左右に揺れる。裂け目を中心に天井が崩れ、頭上から瓦礫が降りそそぐ。次の瞬間、彩葉の頭頂部を狙うかのようにはりの一部が落下した。


「あぶない!」


 彼女の危機を救ったのは紘汰だった。

 紘汰が彩葉に覆いかぶさるように飛びつく。その勢いのまま、二人抱きあった姿勢で横方向に床を回転して壁に激突。壁にしこたま肩をぶつけた紘汰が(うめ)く。

 さっきまで彩葉が立っていた場所には、天井から落下した角材が転がっていた。


「紘汰、大丈夫!?」

「いてて……、だっ大丈夫。へーき、へーき」


 紘汰が引きつった笑顔で彩葉に答える。

 抱きあったままの姿勢で、しばし見つめ合う二人。

 はっとして互いに目を背ける。気恥ずかさに頬を赤らめながら、上目づかいに紘汰へ視線をもどした彩葉は、少年の緊張に満ちた表情に異変を察知する。


「え……? 誰だよおまえ、一体どこから!?」


 少年の視線の先に何かがいた。部屋中に舞いあがる粉塵ふんじんに身を隠すようにして、しゃがみこむ黒い影。肩に長く、巨大な何かを担いでいた。


 紘汰の問いに答えるように、すっくと立ちあがる。

 瓦礫とともに空から降ってきたもの――それは巨大な鎌を構えた、黒ずくめの少女だった。

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