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憂の鬱な世界、13回目。~輪廻に抗う幽霊少女。13回目の転生で真の身体を取りもどし、そして怪異の王となる~  作者: 神崎 和人
第1章 転生怪異

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11.憂鬱の“憂”

「おっ、気がついた」


 数分後、彩葉と“クマのぬいぐるみ”に看病された紘汰が目を覚ます。


「彩葉――ひどい夢をみたよ。ぬいぐるみがしゃべるんだ……立って動くんだ……」


「しゃべるし、動くよ?」横になったままの紘汰の顔を覗きこみながら、ぬいぐるみが言った。


「これ、このとおり!」


 腰に片手をあて、もう一方の腕を高々と天にかかげるぬいぐるみ。

 その横で片膝立ちしてぬいぐるみにむけた両手をひらひらと動かし、口笛ではやしたてる彩葉。


 またもや驚いて悲鳴をあげようとした紘汰は、彩葉に後ろから口をふさがれ、そのまま流れるようなチョークスリーパーで首を締めあげられる。


「はいはい、面倒だからもう大人しくしてね」


 彩葉の二の腕をタップする紘汰の様子を確認し、彼女はゆっくりと拘束を解いた。


「ゴホッ、ゴホッ、いや、しかし、こんなはっきりと……」

「霊だって元は人間だもの。大事なのは仕組みや理屈ではないの。霊が“話せる”と思える環境を整えてあげること」


 紘汰は彩葉の言っていることが理解できないのか、首をかしげるばかり。

 少年の頭上に浮かんでは消えるクエッションマークを想像しながら、「まぁいいわ」と彩葉が話の矛先を切りかえる。


「あなた名前は?」


 彩葉がぬいぐるみに問いかける。


「ユウだよ」

「優しいの“ゆう”?」

「わからない……覚えてないの。それ以外は何も」


 それを聞いた彩葉が一瞬、首をひねり考えをめぐらす。


「じゃあ、私が決めてあげる! 憂鬱ゆううつの“ゆう”よ! 面倒なあんたにピッタリ」

「えーひどいよ、彩葉ちゃん……」


 クマがコミカルに両手をふって困惑を表現する。

 その様子に、顔を見あわせて笑いあう二人。


「もう知ってるみたいだけど、彩葉と紘汰よ。同じ中学校の二年生で、大変残念なことにクラスメイト」


 彩葉は簡単に二人分の自己紹介をし、それを聞いた紘汰が乾いた声で笑う。

 

 ところで、と急に神妙な顔になって彩葉が聞く。


「憂、あなた私とあったことが?」

「わからない、そんな気がしたの。彩葉ちゃん……彩葉ちゃんは、どこかでわたしを?」


 うーん、あごに手をあて、うつむいて考えこむ彩葉。

 彼女はたしかに憂によく似た少女を“視て”いる。しかし、それは呪物から得たインスピレーション、イメージの話であるし、あの血塗れの少女が憂である証拠はなにもない。

 なにより『蛇を喰らう女』にあった禍々(まがまが)しさを、眼前のぬいぐるみから感じ取ることはできなかった。

 

「……気のせいかも?」


 彩葉は舌をだして、笑って見せた。




「それで憂はどうしたいの?」


 彩葉があらためて問いなおした。


「幽霊のままは嫌。生きかえってカワイイお嫁さんになりたいの。それが無理なら、せめて成仏して天国に行きたい……」


 うつむき加減でつぶやく憂に、したり顔で彩葉がつげる。


「“カワイイお嫁さん”は保証できかねるわね。あと、なんであんたが成仏できないかはそろそろわかるわ」


 次の瞬間だった。

 突如として、ぬいぐるみからおびただしい数の光の帯が、天にむかって伸びていくのを彩葉は目撃する。


「はじまった」


 大小、さまざまな太さの光の帯が、まるで樹木が枝を生い茂らせるかのごとく天井いっぱいに広がっていく。


「はじまったって、なにが?」


 彩葉につられたように、普段と何一つ変わらない天井を見あげた紘汰が、キョロキョロと視線をさまよわせながら問いかける。

 

「ほら、手をだして。こうすればあんたにも見えるでしょ」


 彩葉が紘汰にハイタッチの要領で手を差しださせ、指と指をからませるようにぎゅっと握る。

 思わず身体をビクッと震わせて、顔を赤らめる紘汰。


「ほら、憂も」


 彩葉は憂の方に気をとられていて、紘汰の様子には気づかない。


「うわっ、なんだこれ? いままで何も見えなかったのに……」

「すごい、光が……」


 紘汰と憂が声をあげる。


「視界の共有みたいなもんよ、一時的な」彩葉が自慢げにそう説明する。


 手を伸ばして光の帯に触れようとする紘汰。その手はただ、くうをかくばかり。


「外をみて」


 窓の外はすっかり日が落ちて、暗闇につつまれていた。

 光の帯は家の外壁をすりぬけて天空を弓なりにのびていく。それは夜空を塗りつぶすかのごとく四方八方に広がり、遠く地平の彼方に沈む。


「すげーな……これ、一体なんなんだ?」

「『未練みれん』よ。人と人、人と動物、装飾品、場所、なんでもいいわ。とにかく、人が想いを強く残した対象との間に未練は形成されるの」


「誰にでもあるってことか?」

「そうよ。でも普通の人には見えないし、そもそもいくら霊能力が高くても自分の未練は見えないの。いまは私の目をとおして二人に映像を共有しているだけ」


 説明しながら、彩葉自身もその光景に目を奪われていた。

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