彼と私
時計の針は2を刺し、店内には誰もいないコンビニ。
お疲れ様です。という声だけが響き、入ってきた背筋のよい男の子。仏頂面だが怖い雰囲気はなくむしろ優しい雰囲気に包まれている。誰もいないのに少しも緩むことなく背筋を伸ばし、真ん前から視線を外さない。まるでこのコンビニに置かれた仏像のように。それから微動だにせず1時間が経った。ウィーンとドアが開き若い女の子が1人入ってくる。だらだらと足を運び店内の商品を1つずつ眺めている。その変な人は私だ。2回目の2年生を過ごす事が決定し、人生のどん底を味わっている。入学とももに上京しアパートに一人暮らしをしている。部屋には大きなベッドがありそれで部屋のほとんどが埋められている。私は趣味が睡眠というぐらい寝る場所を重視しており、一人暮らし初日にニトリでこのベッドと出会った。値段の割に大きく少し固めが好きな私の好みにも合い帰り道は浮き足立った。しかし今となってはこのベッドが私の人生史上最大の敵である。毎日飲み会をする陽キャでもなければ、テストの成績が足りない訳でもなく、ベッドの魔力に連敗して授業に出ることが出来ず日数が足りなくなるというなんとも情けない理由で留年が決まってしまった。親に理由を赤裸々に話すと出席日数ぐらいちゃんと管理できないことが全くもって理解されず、怒りを通して呆れられた。格闘していたあの時の私だって行かなきゃいけないことぐらい分かっていた。むしろ私が1番理解していたし、焦りを感じでいた。しかし、勝てなかった。布ペラ1枚木の棒でラスボス魔王と戦うぐらい無謀な戦いだったと自分に言い聞かせてしまい目をつぶってしまったのだ。こんなベッドを開発してしまったニトリにはぜひ責任をもってもらいたいが、この魔力がこめられたベッドを開発できた魔王の技術団に私も加入したいとも思っている。来年から友達だった皆は就職活動を徐々に始めなければいけないが私はそんなことする必要もなくそれが友達との縁を段々と薄めていかせた。なので、今は夕方に起き、だらだらと時間を過ごし、この時間に初めて外界の空気を吸うという生活をしている。意味もなくコンビニの全商品を見るのはただ単に暇だからである。しかし、私がコンビニに来る理由は他にある。いつも通りコーヒーの氷を手に取りレジに持っていく。素早くレジを取り、お釣りを渡してくる。187円を1000円で払ったのに一瞬で誤差なくお釣り渡してくる。しかも、私の手から落ちることないようしっかりと手のひらの中心に置いてくれる。その後私がお釣りを財布にいれ、商品をもつところをしっかりと見届けお辞儀をする。そう。彼は神接客をしてくるのだ。隣のイートインスペースでコーヒーを飲んでいる間私は彼とよく話している。他のお客は基本的にはやってこないので1時間ぐらいは話していることが多い。私の愚痴に基本付き合ってもらうだけなので、彼のことについては何も知らない。名前さえ知らない。ここのコンビニの店員は誰も名札をつけていない。そういうとこも今は増えているのだろう。時代的な問題なのだろうが、私的には居酒屋などにある名前とともに一言書いている名札が好きなのでぜひ導入してほしいと思っている。彼から話しかけてくることはないし、彼が自分の話をしている所も見たことがない。多分彼からしたらお客様が話しかけてきたのに対して接客をしているという感覚なのだろう。この遠い距離感が私にとっては心地よく話しやすいと思っている。今日もコーヒーをちびちび飲みながらサークルの嫌な先輩の話を聞いてもらっていた。