和金の死
私の名前は魚川真夜。16歳。高校2年生。私の家には金魚がいる。オレンジの和金だ。
小さい時にお祭りの金魚すくいですくったのだ。
私は凝り性で、他に夢中になれることもなかったせいか、金魚を飼い始めてから金魚に夢中になっていった。世話は最初は父や母や兄がやっていたが、自分でも世話をするようになった。当時、家にはすでに金魚を数匹飼っていたため、様々な金魚飼育用具が揃っていた。しかし、彼らとは大きさが違うので、小さな水槽を用意してもらい、それに金魚1匹を入れた。水道水に金魚のカルキ抜き用の液体を入れて、水を作り、空気をいれる【ぶくぶく】を入れる。ぶくぶくを入れないと大抵の金魚は死んでしまう。あと、このぶくぶくは空気を出すだけでなく、水槽の中のごみも吸収しているようで、水換えの際には、真っ黒に汚れている。
数年たち、沢山いた他の金魚達は死んでしまい、今は私がすくった1匹だけになってしまい、他の金魚が入っていた水槽に1匹を入れることができた。すいすいと早いスピードで勢い良く泳ぐ金魚は水槽を大きくしたからか、今は全身の長さが15㎝位に成長している。水が汚くなったので、久々に金魚の水槽の水かえをすると、金魚に3㎝位の丸い出来物ができていることに気が付いた。
「何これ?」
ネットで調べても金魚の病気は何なのか、はっきりとはわからなかった。
しかし、そのまま、ほうっておくわけにはいかず、近くのペットショップへ行きそれらしい金魚の病気用の薬を買った。水槽にその薬を入れて、1週間位様子を見るのだ。しかし、1週間位様子を見ても金魚の出来物の状態は治らなかった。そして、私の金魚はそのまま帰らぬ魚となった。
ベランダの空いてるプランターに土と、動かなくなった金魚を入れて土をかけて小さな金魚の墓を作った。墓の上には使わなくなった水草の残りと、水槽の中に入れていた金魚の水槽用の石を乗せた。そして、ダンボールの切れ端に【マヤヲのお墓】と書き、ガムテープで後ろから割りばしをはりつけ、金魚の墓の前に刺しこんだ。マヤヲとは私の飼っていた金魚の名前だ。
私の両親は共働きだ。2つ上の兄がいたが、高校を卒業してすぐに就職をして家を出てしまい、今年度からは学校から帰ると私はいつも家で一人でいる。居間にたたずむ金魚の“マヤヲ“が私の癒しの様な存在だった。
数日後、マヤヲの墓を見ると、マヤヲを埋めた所に掘り起こしたような丸い穴があいていた。マヤヲの亡骸は何者かに持っていかれてしまった。
カラスだろうか。それともきつね?誰かのいたずら???
わからなかった。それでも、もうマヤヲには2度と会えないということだけはわかった。
マヤヲの亡骸を盗まれた日の夜、夢を見た。マヤヲはオレンジ色の竜になっていた。姿かたちは違っても、その竜はなぜかマヤヲだと感じたのだ。
「マヤヲ…?」
「真夜ちゃん、今まで僕を大事にしてくれてありがとう。これからは僕が真夜ちゃんを守るよ。」
朝、目が覚めて鏡の前を通ると、自分の後ろにオレンジ色の竜がついていることに気がついた。
「ギャー」
私は竜の迫力にびびって悲鳴をあげてしまった。私がマヤヲを怖がることを知り、マヤヲは姿を元の和金の姿に変えてくれた。
「これなら怖くない?」
「怖くないよ、大丈夫。」
「それなら今から君は"魚使いのマヤ"だ。」
マヤヲは私にそう言った。
「魚使い…!?」
私は訳がわからなかったが、マヤヲとこれからも一緒にいられることが嬉しかった。