正義と正義
「あなた達は逃げなさい!特にその家族を早く連れて!キャッツ相手だと私じゃ守れないわ!」
メラアが焦って指示を出すとキャッツが言った
「我は後ろの人間に手を出さないと約束をしよう」
「あなたらしいわね。なら見ていなさい!」
「ちょ、おい、信じちゃっていいのか?」
アメリは聞いた
「いいわよ。約束だけは破らない。そういう意味ではキャッツは一番安全だし、一番まともよ」
「ならいいが……」
キャッツは銃を構えた。メラアは水化をする
「終わりよ!キャッツ!」
キャッツの周りに竜巻のように纏う。フリースは目を閉じ鼻で笑った。勝利を確信したのだろう。あの水化メラアに勝てるのは電気だけだと
「メラア、それは意味がない」
キャッツは細い剣を抜いた
「意味がない?この能力は毒や電気が無いと対策不可能だわ……まさか毒を使おうとしてるんじゃ!?」
「そんな汚い真似はしない。しかし我は」
キャッツは剣を空に振るった。するとメラアの水の端が切り離された。メラアの痛み悶える声が響いた
「昔からバカは治ってないな。我くらいになると切り裂ける」
『前の世界でもキャッツとは話したことしかなかった。まるで相手にもされなかった。私の知る限りでは最強の能力なはずだし、これを切れた人間なんていない』
キャッツは三切り空中へ放つと、メラアは更に酷く苦しんだ
「メラアちゃーん!!!」
マナエッテは走ってキャッツの方へ向かっていく。アメリは手を伸ばし呟く
「あのバカ!」
「俺に任せろ」
フリースは走りマナエッテの後を追っていく。マナエッテはキャッツの顔を殴ろうとしたが、軽く交わされた。しかしマナエッテはその空振りを殴り続けた
「あまり騒がず冷静に。別にメラアは死んでも無い」
「そりゃ死ぬわけないよ!でもメラアちゃんは立ち向った!あなたみたいな悪党に!正義が負けるなんて私は許さない!」
キャッツは息衝いた
「正義なんて定義も曖昧。法律と正義が混同してると言うのなら教えようか?法律は多くが望むルール。正義は正しさ。正しいの定義は人により変わるもの。我は邪魔者を取り除いた理不尽の無い理想の世界を作る!そう、それが我にとっての正しさであり……正義だ!悪はそれを邪魔する者」
「お前の正義なんて知るか!多くが望んだそれこそ正義だ!それが正しさだ!」
アメリは驚いていた
『あんなマナ見たことない。あんな強く怒れるやつだったのか……あいつは』
キャッツは返した
「なら我の正義に逆らう者を全て殺せば、我の考えが正しくなると、そう言いたいのか?ならやってやろう?それでお前が納得するならば!」
「そんな……酷いことダメだよ……私がさせない!」
『うざい。我をここまで怒らせるとは!』
キャッツはマナエッテの横を通り歩き出す
「シフォン、帰るぞ」
キャッツが空中で剣を二度振ると、シフォンと呼ばれた女の縛られた紐が切れた。フリースはその能力に驚いていた
『なんだと?!空中を切ったはずだろ。こいつ、なんなんだ?』
シフォンは立ち上がり、服につく土を払う
「はい、キャッツ様」
二人はマナエッテの横を通る。マナエッテは未だにキャッツとの言い合い後、正しさの定義を考えていたのか固まっていた
「名前を聞いておく」
「……マナエッテ」
「いい名前だ」
『マナエッテか……もう許す気は無い』
キャッツとシフォンは去っていった。マナエッテは膝から崩れ落ち、メラアが人化をすると手足が切断されていた。フリースは何やら察した
『メラアの能力は水を出す能力じゃなく、自分を水に変える能力。つまり、水化していても切り離してしまえば体を切り裂いたと同じことになる。無敵じゃない!!』
「ねえ、大丈夫……?」
フレイは母親であるフェアラに隠れながら聞いた。フリースは冷たくも返した
「すまないが、守るのは無理みたいだ。ちなみに東京は此処より危険だろうし、帰るなら大阪と東京でない何処かを推奨しておく」
「私、帰る」
フレイはこの惨劇を目の前にし此処にいてはダメと悟ったのだろう。ロドゥンは頷いた
「ほんとありがとうございました。せめて病院まで」
「いいから帰ってくれ。これ以上の人数での行動は俺が守り切れない」
フリースは言った。ロドゥンはこれ以上邪魔になるだけだと察した
「さあ、帰ろう。そうだ、福井のお婆ちゃんちにしばらく止まろうな」
「うん……」
ロドゥンは娘に対しこれ以上無いほど明るく振る舞う。しかしフレイはそこまで子供で無かった。フレイもなんとなく察していた。しばらくして三人は新幹線に乗り大阪を出ていった。アメリは自分に何かできないのかと考えていた
『言い負かされたマナに、手足切断されたメラア。とりあえず病院に行こう』
アメリが病院へ電話をした。しかし全く応答が無かった
「なんでだよ!こんなときに。フリース、メラアを病院まで運んでくれ。マナも歩けるか?」
マナエッテの腕を肩に乗せた。我に返ったマナエッテは慌てて肩から手をどけた
「あ、大丈夫だよ私は!そんなことよりメラアちゃんを早く病院に運ばないとね!!」
『無茶しやがって』
「そうだな。早く運ぼう」
そして病院に行くまでの道、大阪の街を歩いているが大阪とは思えない静けさ。まるで誰も住んでいないようだった
「大阪って寂しいもんだな」
アメリが言うと、フリースが返す
「いや、これは──。っ……もう夕方だから、お祭り騒ぎも終わり頃なんだろ」
『なわけない。これは殺されてる。生々しい血の匂い……殺されて間もない。キャッツのやつ、まさか本当に逆らう者を全て殺してるんじゃないよな?』
フリースは一人考え込んだ。しばらく歩くと死体も沢山見えてきた。赤く染まった床にマナエッテは目を見開き全身に震えが生じた
「なにこれ……」
「マナ……?」
『こいつには見せないべきだった』
フリースは焦りを感じ、慌てて言い聞かせた
「マナエッテ、お前のせいじゃない。お前は被害者だ。そうだろ?アメリ」
「っ……そ、そうだ。マナ、お前が悪いなんて誰も思わない」
マナエッテはそんな声聞こえてもいなかった
『私のせいで全員死んだ──私がキャッツを──怒らせ────』
酷い目眩と耳鳴りがマナエッテを襲った。マナエッテは頭を抱えその場にしゃがみ込む
「マナ、おいマナ!!」
「焦って息の吸い方を忘れてる!とりあえず」
フリースはマナを横に寝かせ、首を叩き気絶させた
「フリース、お前何してる!」
「意識を失ってれば呼吸が無意識に始まる。あのままだと酷い気絶の仕方になっていた」