新学期
ーー春といえば出会いと別れの季節と言うけれど、私の日常は大して変わらない。別れもなければ、もちろん新しい出会いもない。
けれどもやっぱり期待はしてしまう。
何か新しい出来事が起こりそうな予感。
春っていうのはそういう期待が胸をよぎる。
始まってもいないのに、なんだか胸が少し高鳴る。
うららかな春の陽気を感じつつ桜並木を眺めながら、通い慣れた通学路を歩く。
私、若桜小春はこの春から高校2年生になった。
4月中旬ということもあり、春の象徴とも言える桜は満開のピークを過ぎ去りほとんどの桜は散ってしまっている。
春といえど、風はまだ冷たく少し肌寒い。
肩くらいまである、サラサラの黒髪がなびく。
周りを見渡すとランニングしているジャージ姿の学生や見慣れないスーツ姿の社会人がちらほらと見受けられる。朝が早いだけあって人の数はまだ少ない。
私が通っている学校は家から歩いて行ける距離にある。
地元では偏差値が高くて有名な学校だ。
おまけに制服も可愛い。
実はかなり人気な学校で入るまでが厳しく、入ってしまえば規則は緩いからそういうのも含めてこの学校の良さだったりする。
元々、頭は良くない方だったから猛勉強してこの学校になんとか入れた。まさか受かるなんて思ってもみなかったから両親は驚いてたな。私の方が驚いたけどね。
クラス替えしたばかりの教室に入り、窓際の席に着く。一息ついて周囲を見渡すとまだクラスメイトがちらほらいるくらい。
クラスが変わっただけでなんだか新鮮な気持ちだ。
特にすることもないのでぼーっと頬杖をついて窓の外を眺める。
「おはよう若桜。相変わらず早いな。」
「おはよう。矢野くんの方こそ朝練お疲れさま。窓開ける?」
「いや、暑いの俺だけだから大丈夫。」
爽やかな笑顔を向けて私の横の席に着く。朝練を終えたばかりなのか首筋に少し汗が伝っている。
彼は去年から同じクラスで唯一気軽に話せる男友達。
といっても私が人見知りで彼は誰とでも仲良くなるタイプ。間違いなくクラスのムードメーカーだ。おまけに顔も良くてスポーツ万能。うちの高校はスポーツも強豪校で人気の理由の一つでもある。
「朝からすごい歓声だな。」
視線の先には校門で生徒会長と副会長が大勢の女子に囲まれている。
最初は驚いたけどもうこの光景は見慣れた。
この時間帯を避けるためにあえて私は早く学校に来るようにしている。
外からの黄色い歓声が窓越しからでも伝わってくる。
生徒会長は学校内随一の人気の高さを誇る。
優等生の証明書とも言える濃緑のブレザーをスマートに着こなす体躯。
スラリと伸びた長身にビターブラウンの髪色、息を飲むほど整った顔立ち。
副会長はサラサラとした黒髪で眼鏡を掛けているが眼鏡越しからでも分かるそのルックスの良さからも生徒会長と引けをとらずかなりの人気っぷりである。
私の席の近くの女子はどっち派かで話が盛り上がっている。
まるで芸能人並みの人気ぶりだ。ファンクラブまであるらしい。
再び生徒会長達の方へ視線を向ける。
青春映画のワンフレーズみたいだ。
ーーー私には遠い存在の人達。
一生関わることなんてないだろう。




