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第7話 初めて地図を見る

 翌朝、目を覚ますとラディウスの顔が目の前に会った。

テーブルの上に置いていたはずなのに、わざわざ移動してきたらしい。


 「うわっ⁉」


 『別にビックリするほどのことでもねぇだろ』


 「でも何で?」


 尋ねると、ラディウスは待ってましたとばかりにポンポン飛び跳ねる。


 『怒ってんだよ、俺は!昨日は散々無視しやがって!』


 「散々ってスープ食べてた時だけじゃん」


 『それに腹立ってんの!お前だけウマそうに食いやがって』


 「ラディウスは食べれないじゃん。そもそもお腹空くの?」


 思えばラディウスは今日まで空腹を訴えたことがなかった。

気にしていなかった私にも責任はあるのだが、お腹が空くのだとしたら

いったい何を食べるのだろう。


 『空腹を感じたことはねぇな……』


 「じゃあ私だけズルいとか言わなくてよくない⁉」


 問い詰めるように言うとラディウスがまた飛び跳ねる。


 『お前がメシ食ってると俺まで食いたくなってくるんだよ!』


 「我慢して!だって私は食べなかったら死んじゃうし」


 『………………。とりあえず外出るぞ!』


 「話そらした!」


 とはいえ、ここで止まっていても時間が過ぎていくだけなのでラディウスの言うことも間違ってはいない。

少し呼吸を整えてから口を開く。


 「でも行き先決まってないよ。あ、昨日行ってた公共の建物?」

 

 『ああ。どんな建物か教えてやるから、似たような形を探せよ』


 「はーい」


 少しムッとしながら伯父に宿泊費を渡して外に出た。ラディウスの指示に従いながら公共の建物を見て回る。

 それにしてもラディウスは本当に不思議だ。歩く時はずっと右肩に乗せているのだが、うまくバランスをとっているようで全然落ちない、

たぶん踏ん張っているだけだとは思う。

 話を戻して……どこも地図は置いてないと言われてしまい、

残りは教会だけになってしまった。


 「はぁ……あとは教会だけになっちゃったね。あるかなぁ……」


 『さぁな。とりあえず教会を見つけなきゃ話にならねぇぞ』


 「十字架が乗ってる建物だったよね?」


 通りの端に立ってじっくりと眺めていると、町の入口から少し離れた場所に建っているのを見つける。


 「あった!」 


 『早ぇな⁉こういうの得意なのか?』

  

 「わからない」


 宿屋を探すときもそうだったが、なぜか目を惹かれる。今回はたまたま教会だった。

 早口で答えて人にぶつからないように走って教会の前まで行く。

改めて近くに来ると大きい。こんなところに入っていいのだろうか。


 「こ、こんにちはー」


 大きな扉を押して中に入ると広い空間が広がっていた。

中央に長い絨毯が敷かれており、その左右に長イスが何列も置いてある。

奥には祭壇があり、近寄りがたい雰囲気をかもしだしていた。


 『もぬけの殻か?』


 「誰もいないのかな?」


 周りを見ると、いくつか小部屋があるみたいなので

1部屋ずつ訪ねてみることにした。


 「すみませーん」


 2つ目まで誰もおらず3つめの部屋を覗くと人影を見つける。

テーブルに向かって書き物をしているようだ。


 「すみま――あ」


 「おや、いらっしいませ。入信希望者の方ですか?」

 

 「いいえ」


 そう言うと高級そうな黄色のローブを着た男の人はイスから立ち上がって

少し眉を潜めた。


 「ならば、迷子ですか?」


 「いいえ……。あの、ここに地図って置いてませんか?」


 「地図ですか?

 ええ、置いていますよ」


 「見せてもらえませんか⁉」


 思わず近づくと彼がいじわるそうにニヤリと口角を上げる。


 「信者の方でなければ見せられませんねぇ。

あ、もちろんエンゲル教のですよ」


 「ええっ゙⁉」


 嘘だとは思った。言いがかりだが、ここ以外に地図はないので、

どうにかして見せてもらわないといけない。

 黙り込んだ私を見て彼は勝ち誇ったように距離を詰めてきた。


 「さて、どうなさいますか?私はどちらでも構いませんがねぇ」


 「う~」


 『おい、今から俺の言うことを繰り返せ』


 内心嫌だったがエンゲル教に入るのはもっと嫌だ。それに自信満々に言うのだから何か考えがあるのだろう。 

 ラディウスの声は私にしか聞こえていないはずなので、肩を少しだけ揺らして理解したことを伝える。

するとラディウスが息を吸い込んだ。


 『何教でしたっけ?』


 「何教でしたっけ?」


 「エンゲル教です。もしや入信され――」


 『いいえ。無理やり入信させようとしてくる悪い団体なので』


 「いいえ。無理やり入信させようとしてくる悪い団体なので」


 『家族に絶対に入らないように言います』


 「家族に絶対に入らないように言います」


 感情はこもっていなかったし間も空いていたのだが、彼は気にする素振りもなく顔を赤くしてワナワナと震えている。

怒らせてしまったのだろうか。


 「な、な……なんという」


 『ハハハハハッ!見ろよあの顔!愉快愉快!』


 ラディウスは腹を抱えて笑っているが、私はそんな気にはなれなかった。

 すぐに怒られると思っていたのに彼はは目を見開いたまま震えている。

少し待っても状態が変わりそうにないため、自力で地図を探すことにした。


 「じゃあ失礼しますね……」


 「待ってください……。

 地図はこの部屋を出て直進し、突き当りの部屋の壁にかかっています。

 好きなだけ見てきてください」


 「あ、ありがとうございます……?」


 『なんだ?急に態度変わったな?そうとう応えたのか?』


 ローブの人はそう言うとイスに腰かけて頭を抱えてしまった。少し罪悪感を覚えがらも

教えられた通りに進むと大きな部屋に辿り着く。


 「わぁ……」


 真正面の巨大な壁に絵が描かれていた。これが地図だろう。緑と茶と青色で描かれていて、

ところどころ剥がれているものの見るのに支障はない。

壁ギリギリまで近づいて見上げる。中心に握りこぶし2つぐらいの大きさの茶色の塊――大陸だろう。

その大陸を取り囲むように5つの大陸が描かれていた。それらの大きさは握りこぶし1つ分と中央のよりは小さいが、実際に見たら広いと思う。

そして、大陸の間には青い幅――海だ。 


 「すごーい。ここの大陸はどれなんだろう?」

 

 『んー、よく見るとそれぞれの大陸のまんなかに文字が書いてあるな。

少し背伸びしてくれよ』


 「よいしょっと。これでいい?」


 壁に軽く手をついて踵を浮かせる。文字は読めるが自信がないし、

ラディウスが読む気満々なので任せることにした。 


 『ああ。……まんなかのデカい大陸がここ――クラルハイトだな』


 「ほんとに⁉じゃあヴァイスア大陸は⁉」


 『落ち着けって。ヴァイスア大陸は……左側だな』


 「そうなんだ。町の名前とかないかなぁ」


 「ありませんが、クラルハイト大陸の町村なら大体の位置はわかりますよ」


 ビックリして飛び上がって、そのままシリモチをついた。部屋の入口に

ローブの人が立っていたからだ。 

いつから私の言葉を聞いていたのだろう。ラディウスのことは言えないので、ビクビクしながら彼の言葉を待つ。


 「驚かせるつもりはなかったのですが。

  先程は大変失礼いたしました。最近、新規の入信者が来ず焦ってしまっていて、それであのような行動に出てしまいました。

どうかお許しください」


 「は、はぁ」


 彼は深く頭を下げた。まだ成人していない私に対しても、

こんなにキッチリ頭を下げれるのはスゴいと思う。エンゲル教のルールなのだろうか。

 どう反応すればいいのか困っていると彼が顔を上げて口を開く、


 「話を戻しましょうか。町の位置を知りたいのですね?」


 「は、はい」


 すると私の隣に立って地図に手を伸ばし、

クラルハイト大陸のまんなかより少し左を指さした。


 「ここがアンゼータですよ」


 「まんなかにあるのかと思ってました」


 「そのように言われる方は多いですね。

 中央は見えますか?」


 彼の指を追って見ると茶色の塊。

町ではなさそうだし少し濃い気がする。


 「これは山です。火を噴き出していたそうですよ」


 「火⁉」


 「はい。もう数千年前の話ですけれど」

 

 「そうなんですね……」


 山が火を噴き出すなんて想像できない。それに町にまで飛んできたら大変だろう。

 しかし、今は山のことよりも船がある町を探さないといけない。


 「あの、アンゼータの近くで船がある町ってありますか?」


 「ええ。ノレトスですね。ここから西にありますよ」


 「ありがとうございます!」


 「旅をされているのですか?お1人だといろいろと大変でしょうけれど、

お気をつけて」


 「はいっ!ありがとうございましたっ!」


 「あなたにエンゲル様のご加護があらんことを」


 そう言って彼は再び深く頭を下げた。私も頭を下げ返して教会を出る。

 明日はアンゼータを出てノレトスに向かうことになりそうだ。






 

 シーラが去って少しした後、入口の扉を凝視していたローブの男はバタバタと慌ただしい足音に振り返る。

赤いローブを着た男が肩で息をして立っていた。


 「申し訳ございませんでした!()()()!」


 「おやおや、何か謝るようなことでもありましたか?」


 「はい!私が居眠りをしてしまい、大司教お1人にさせてしまいました。

 何もありませんでしたか?」


 「ええ、特には。

 あなたは戻りなさい。疲れているのでしょう?」


 「いえ、しかしっ!…………失礼いたします」


 留まろうとした赤いローブの男だったが、大司教の見透かされているような目に諦めて従う。

トボトボと帰っていく彼を見ながら大司教は微笑んだ。

しかしすぐにそれを消すとポツリと呟く。


 「それにしても彼女は不思議でしたね。

独り言の癖は仕方がないとして、白いドラゴンのようなぬいぐるみ。

悪の化身を好んでいるのでしょうか?」

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