第48話 小さくなっても青は青
肩を落としているブルードラゴンを見上げる。
腐敗のことをどうするか聞かないといけないからだ。
「あのー、ぬいぐるみに移る前に1つ聞きたいんだけど」
『どうした、シーラよ!』
「あなたが抜けちゃったら本体は空っぽになっちゃうんだよね?
このままだと腐敗しちゃうよ?」
『これだけ寒いのに腐敗とかあるのか?』
ラディウスがダルそうに言う。
ブルードラゴンは数回瞬きを繰り返すと、豪快に笑った。
『ハーハッハッハ!ラディウスの言うとおりである、シーラよ!
だから心配はいらんぞ!』
「え~、そうかな~」
今は洞穴にいることと、お店で飲んだポッカポカスープのおかげで私自身寒さはあまり感じていない。
外はビュウビュウと音を立てて吹雪いているし、気温も氷点下だとは思う。
それでも腐敗してしまうのではないかと不安に駆られた。
『……とは言ったものの、実は我も少し不安である。一部分でも腐敗するのは嫌だからな……。
名案思いついたっ!我が雪に埋まれば良いのだ!』
「雪に⁉」
『お前寒くねぇのか?』
『ハハハッ!我は常に極寒の地で過ごしているのだぞ!さらに雪浴が至高!
雪に埋まるなど褒美以外のなにものでもないわッ!
では、さっそく実行といこう!』
私とラディウスが呆然としている間にブルードラゴンは奥に移動した。
そして翼をはばたかせて浮上し、落下する勢いで雪面に穴をあける。
『どうだ!これでよいだろう!』
首あたりまで雪に埋まったブルードラゴンが誇らしげに叫んだ。
ラディウスは少し眺めたあと怪訝そうに言う。
『…………。
頭出したままでいいのか?』
『仕方あるまい!せいぜい頭が埋まる深さまで掘るのが精一杯である!』
「じゃあ、ぬいぐるみに移るのが成功したら全部埋めちゃわない?
今埋めたら息苦しいでしょ?」
『では、それで頼むぞ!シーラよ!
ところで、我どうしたらいいの?』
『今からやり方教えてやるから、ちゃんと聞いてろよ!
先に言っとくが、動きづらいし飛び跳ねることしかできねぇからな!』
ラディウスは私の手のひらから飛び降りてブルードラゴンの鼻先まで登っていくと意気込んだ。
どうやって雪をスルスルと登れたのかは気にしないことにしておく。
『いいか、まずは目を閉じて頭の方意識を集中させろ』
『うん……。次は?』
『そっから、飛ぶ感じで力を抜いていけ』
『こう!?』
『違う!もうちょっと体柔く!』
私は呆然とラディウス達の見守ることしかできなかった。
端から見れば何をやっているのか全然わからない。
でもブルードラゴンがぬいぐるみに移るために大事なことだから、成功を祈るしかなかった。
『こう?』
『足元からだんだん頭にかけて力を抜いていく感じだ!』
『……………………』
すると、ブルードラゴンの体から青い光の玉が飛び出す。
ラディウスの時とは違って力強く光っている。
『おおっ!これか!?ラディウスよ!』
『そう!急いでコイツの持ってるぬいぐるみに飛び込め!』
『ハーッハッハッハッ!!言われなくてもそうする!怖いし!』
光の玉は青く輝きながら、私の持つぬいぐるみに吸い込まれていった。
すぐに手のひらのぬいぐるみが動き出す。
『フハハハッ!なんだこれは!動きづらいぞ!』
『だから言っただろうが……』
ラディウスが呆れたように呟く。
だけどブルードラゴンはその場でクルリと1回転した。
『だが楽しいッ!
おぉ、本当に飛び跳ねることしかできないのか!?』
ブルードラゴンが何度も飛び跳ねる。
その高さはときどき積もっている雪の高さにまでなることもあった。
『どうだ!ラディウス!』
『我はこんなにも高く飛び跳ねられるのだぞ!』
『スゴくない⁉』
『はいはい、楽しそうでなにより。
あとで文句言うなよ……』
「とりあえず、ブルードラゴンの本体を雪で覆わなきゃ……」
ラディウス達の楽しそうな会話を聞きながら、頭だけ出した本体を見る。
ただでさえ馬車くらいの大きさ。目を閉じているのに近づいてはいけない威圧感のようなものを感じた。
「これ、近づいたら凍らされるとかないよね?」
『我はこっちにいるのだぞ、シーラよ!本体が動いたら怖いではないか!』
「だよね……」
相変わらず私の手のひらで元気よく飛び跳ねているブルードラゴン。
思ったより体力がある。
それにブルードラゴンの言う通り、本体に近づいてもカッと目を見開いて襲いかかってくる、なんてことはなかった。
『それで、箱入り娘。雪で埋めちまうんだろ?』
「うん。手でちょっとずつ運ぶしかないか……。時間かかるよね」
服を入れている革袋はあるけど、わざわざ出そうとは思わなかった。
雪を払うのが大変だからだ。
『なら、オオカミ達にも手伝ってもらえよ。数が多い方がいいだろ?』
「フィデス達?」
ラディウスの思いもしなかった提案に驚いた。
そう、フィデス達スノウウルフは洞穴の外で待っていてくれている。
「ちょっと話してくるね!」
ブルードラゴンを連れたまま外に出ると、寝そべっていたスノウウルフ達がノソノソと起き上がる。これだけ吹雪いているのに全く寒がっていない。
フィデスは相変わらず小さいスノウウルフに乗せてもらっていた。
『シーラ殿。どうなされた?』
「あ、ちょっと手伝ってほしいことがあってね」
今までのことを話すと、フィデスは固まってしまった。
スノウウルフ達も心配しているような悲しそうな鳴き声を上げる。
『に、にわかに信じられぬが……。その青いぬいぐるみにブルードラゴン殿が入っていて、本体を雪に埋めるのを手伝ってほしいと……?』
『そうである!フィデスとやら!
我からもお願いする!どうか手伝ってもらえないだろうか!』
ブルードラゴンの頼み込みにもフィデスは低い声で唸っていた。
フィデス達はブルードラゴンとは相性が悪いようで、少し怖いのだそうだ。
「フィデス、私からもお願いできないかな?
私もさっき確かめたけど本体は空っぽだから、近づいたら襲いかかってくるとかないし」
『ううむ、シーラ殿の頼みとならば……』
『我はそこまで恩知らずではないぞ!?
何故手伝いをしてくれた者を襲わねばならんのだ!?』
『それは失礼した……。ならば手伝わせてもらおう』
ブルードラゴンの言葉が決定打になったようで、
フィデスは一度飛び跳ねると語尾のしっかりした声で言い放った。




