第44話 小さな善行
雪に覆われた緩やかな山道を進み始めて、少し時間が過ぎた。
町にいた時とは比べ物にならないぐらいの猛吹雪が吹きつける。
それでもポッカポカスープのおかげで、体が震える程度で済んでいた。
「全然寒くないっ!」
『そりゃあよかったな。頑張って飲んだ甲斐があったな』
「大将さんが飲んどけって言った理由がわかったね。
それはそうとラディウスは寒くないの?」
『思ってたよりは……。帽子と首の布が効いてる……』
そう言ってラディウスは私の肩の上で飛び跳ねた。
身につけている青い帽子と黒いマフラーも一緒に揺れる。
「よかったじゃん。あのままだったら震えてたよね?」
『ああ。寒さを完全にナメてた……』
そのまま会話が途切れて、私が雪を踏みしめる音だけが響く。
急斜面ではないので体力的には楽だけど、滑る危険があるので1歩1歩慎重に進む。
「私たち以外誰もいないね……」
『そりゃそうだろ。雪山に好んで登る奴なんてお前ぐらいなもんだ』
「でもアオトさんは景色を楽しむ人たちがって言ってたよ」
『そりゃ今の時期以外でって意味だろ――ん?』
「どうしたの、ラディウス?」
『右側……。少し雪が高く積もってるところ見てみろ』
ラディウスの言う通り、注意深くそこを観察する。
目を凝らしてようやく薄い水色の何かが、ゆっくり滑るように動いている。
よく見ると中心が微かに黄色く光っていた。
「わぁっ!スライムだ!可愛い〜!」
『ここにもいるのか……。ベタベタじゃなくてツルツルしてそうだな』
駆け寄って手を差し出してみると、スライムは迷いなく乗ってきた。
それだけの動作で私はスライムに感情移入した。
リンダさんほどではないけど、我ながら早いと思う。
「私たちのこと、怖くないのかな?」
『ピキーッ!』
スライムは何度も飛び跳ねている。
だけど、すぐに地面に降りると私達の前に立って何度も飛び跳ねた。
『ピキーッ!!ピキーッ!!』
「ん?どこかに連れて行こうとしてる?」
『おいおい、寄り道かよ……。騙されてもしらねぇぞ』
「でも放っておけない……。連れてって!」
アオトさんが言っていたワイルドベアのこともあるし、なかなか人が来ないのだと思う。
私の言葉を聞くとスライムは一段と大きく飛び跳ねて、先導を始めた。
『ピキーッ!!』
「テネル達もそうだったけど、やっぱりある程度言葉わかってるよね?」
『みたいだな……』
そのままスライムについて行くと、私が座れそうなほどの平らな石の近くで飛び跳ねる。
『ピキーッ!ピキーッ!』
「絶対になんか訴えてるよね?」
『……もしかして石の下に仲間がいるのか?』
「え?押しつぶされちゃったの!?大変っ!」
そうなら、急いで助けないといけない。
荷物を側に置くとさ早速石に手をかける。
「ううっ……意外と重い……っ」
『おい、手痛めんなよ。無理すんなって』
「でも……このままじゃ可哀想でしょっ……!」
滑るので、手袋を外して石に触れる。
石はまるで氷のように冷たいし、すぐに手が真っ赤になったけど、
そんなことに気を取られている暇はなかった。
体感20分くらいだと思う。
石と地面の間にダガーを挟んで少しずつ動かし、どうにか石を退かすことに成功した。
下から3匹のスライムがノソノソと這い出てくる。
彼等は先導してくれたスライムよりも2回り小さく見えた。
『ピキ……』
『こいつら、よく生きてたな』
「よかったぁ……無事で……」
手袋をはめながらスライム達を見つめる。
すると、その中の1匹が私の足にすり寄ってきた。
たぶん助けを求めてきたスライムだと思う。
『ピキーッ!』
「お礼言ってるのかな?」
『ピキーーッ!!』
『たぶんな……。えらく気に入られちまったみたいだが』
ラディウスがため息をつく。
スライム達は元気に飛び跳ねながら去ってゆく。
しばらく見守りたかったのに、すぐに雪に隠れて見えなくなった。
「でも悪いことじゃなかったよ。スライムたちを助けられて良かったし」
『はいはい……』
「そうだっ!ぬいぐるみ作ろう!」
『急だな!?ここでかよ!?』
「だってスライム可愛かったもん!
布も買ったし!道具もちゃんと持ってきてるし!」
こうなったら、衝動は抑えられない。
早速動かした石の上に座って作業を始める。
白と青の布しか持っていないので、青の布で手のひらサイズの丸いぬいぐるみを作った。
完成した物を見て、ラディウスが大げさにため息をつく。
『またスライムのリーダーが入り込んだらどうする気だよ……』
「え?そうだったら楽しくなるよ?」
『楽しくねぇよ!』
「そうかなぁ……」
ラディウスがちょっと怒ってるのがわからなかった。
一時的でも仲間が増えるのは嬉しいし、頼りになるのに。
でもしばらく歩いても、青いぬいぐるみはうんともすんとも言わなかった。




