第41話 港町スノメル
ロートア大陸とブラウア大陸の中間まで来た時、一気に風の流れが変わった。
穏やかなそよ風からビュウビュウと激しい強風に変わる。
顔や手に当たると冷たくて思わず震えた。
『トーマとか言うやつが、言ってた通り、になったな……』
「そうだね――寒っ……」
ラディウスはまた酔ったらしく、言葉が途切れ途切れになっている。
それをスルーして呟くと、頭に黄色いバンダナを巻いた船員が声をかけてきた。
「おいおい、そんな薄着じゃ風邪引くぞ。船室に入っとけよ」
「え、いいんですか?」
「ああ。体調崩されても困るしよ」
てっきり船室は船員しか入れないと思っていたので、簡単に許可をもらえたことにビックリする。
「船員さん達しか入っちゃいけないのかと思ってました」
「まぁ、そういう船団もあるがな。俺達の船は出入り自由だ。
ただし、中の物勝手に触るんじゃないぞ」
「わかりました。ありがとうございます!」
早速、船の中央にある船室に向かった。
アーチ状の木製のドアを開けると、ほんのりと温かい空気に包まれる。
真ん中に大きな四角いテーブルがあり、その周りで女性2人が楽しそうに談笑している。
乗客は彼女達だけみたいで、私だけ甲板に出ていたらしい。
右側――おそらく船員さん達専用のスペースだろう。
いくつもの樽や木箱や毛布が雑に置かれていた。
言われなくても近づきたくない、と思った。
ずっと立ちっぱなしだったので椅子に座ることにする。
「こんにちは。あなたは1人なのね」
話しかけてきたのは、明るい金色の髪をふわりと肩に流した女性だった。
私よりも旅慣れた様子で、羽織った白いストールが印象的だ。
その隣には、深い赤がかった髪を後ろでまとめた女性が控えめに微笑んでいた。2人とも私よりも年上なのは間違いない。
「こんにちは。
そうなんです。友達からブラウア大陸のことを聞いて行ってみたくなって……」
初対面の人にブルードラゴンに会いに、なんて言えるはずがない。
咄嗟の言い訳にしては我ながらうまくできたと思った。
「そうなの。それにしてはずいぶん薄着だけど大丈夫?」
「クラルハイトに防寒着はなかったので、着いてから買おうかと思ってます」
「それが1番よ。船を降りてから左側、2軒目のお店が服屋さんだからそこで買ったらどうかしら?」
「詳しいんですね」
そう尋ねると、もう1人の女性が笑顔になった。
「私達、ブラウア大陸の出身なの。
ロートア大陸には観光に行ってたんだけど、そろそろ噴火するからって急遽帰ることにしたのよ」
ふと、最初の女性が、私を見ながら口に手を当てて微笑んでいる。
「な、何かおかしかったですか?」
「ああ、ごめんなさい。
ロートア大陸を出るときのあなた達の会話を思い出しちゃって」
「あ……海の女って話ですか……」
まさか蒸し返されるとは思っていなかったので、少し気分が下がる。
彼女達は微笑みながら話を続けた。
「ええ。だってあの船団の船長さん、元気な人にはすぐ「海の女」って言うんですもの。あ、もちろん男の人には「海の男」って言うのよ」
「だいたい皆驚いて固まるのに、あんなにハッキリ言い返した子は初めて見たわ」
「一度言われていたので……」
褒められているのか貶されているのか、よくわからない。
「あの船長さん、あなたのこと気に入ってるみたいね。2回も言うなんて」
「なんとなく、そんな気はしてます……」
バーク船長は私が船に乗るたびに話しかけてくれていた。
やっぱり危なっかしいのだろう。
それからも3人で話し続けた。
防寒着だけじゃなくて、靴も履き替えたほうが良いことを教えてくれた。
私もお礼にクラルハイトやヴァイスア大陸の話をした。
肩に乗っているラディウスについて突っ込まれたけど、「不思議なぬいぐるみなんです」とだけ答えておいた。
かなりの時間が過ぎてお尻が痛くなってきた頃、
1度だけガクンと船が大きく揺れた。
するとアルノー船長がドアから顔を覗かせる。
「おーい、ブラウア大陸の港町、スノメルに着いたぜー」
「やっと着いたのね。やっぱり慣れない旅はするものじゃないわね」
「そうね。行きほど揺れなかったけど、まだ体が揺れてるわ」
2人は椅子から立ち上がると、私を振り返る。
「じゃあね。ブラウア大陸は寒いけど景色は幻想的だから楽しんでいってね」
「きっと、忘れられない旅になるわよ」
「はい!いろいろ教えてくれてありがとうございました!」
彼女達は手を降って先に降りていった。
バタンとドアが閉まるのを確認すると、こっそりラディウスに話しかける。
「私達も降りよっか」
『………早く、してくれ……』
「はいはい」
船酔いしているのは突っ込まないことにした。
早く風に当たりたいだろうし、甲板に出る。
その途端、身も凍るような冷たい風と雪が吹きつけた。
「寒っ――――わぁっ!!」
だけど寒さよりも、景色に目を奪われる。
辺り一面白1色。建物の屋根が帽子をかぶっているみたいだ。
『寒っ!?……酔いが醒めた……』
「やっぱり酔ってたんだ」
『眠かっただけだよ!』
「はいはい。じゃあ降りよう。防寒着買わなきゃ――」
「よう!嬢ちゃん!旅はどうだったよ?」
少し聞き慣れた元気の良い声に振り返るとアルノー船長が腰に手を当てて私を見ていた。
こうしてみるとやっぱりバーク船長そっくりだ。
「楽しかったです。こんなに長い時間乗ったのは初めてだったんですけど、
あっという間でした」
「だろ?俺達は乗客に良い船旅をしてもらいたいから、気ぃ遣って船体を揺らさないようにしてるんだ!ガッハッハ!」
「乗客のことを1番に考えてくれてるんですね」
「おう!
って薄着なのに引き止めて悪かったな!楽しんでこいよ!」
「はい!アルノー船長さん達もお気をつけて!」
アルノー船長にお礼を言って、ようやく雪降る地に足を踏み入れた。




