第40話 ブラウア大陸に向けて②
クラルハイトを経由して、ロートア大陸に向かう海上にいた。
私は甲板の上でそよ風に当たっている。
クラルハイトからの乗客は私を含めて3人。
思っていたよりも少なくてビックリした。
周りを見て人がいないのを確信してから、
小声でラディウスに話しかける。
「そういえば、ロートア大陸にも「色竜」がいるんだよね」
『ああ。赤がいる。
だが、今じゃねえぞ。青に会うのが先だからな』
「それはわかってるけど、何か効率悪いなぁって」
『仕方がねぇだろ』
「だよね……」
ラディウスにバッサリ言われて、小さくため息をついた。
レッドドラゴンにも会ってみたいけど、ブルードラゴンとの約束をすっぼかすわけにはいかない。
モヤモヤした気分で縁に寄りかかった。
やがて、ロートア大陸に着いた。
全体的に灰色の地面で、何となく息苦しい。
中央には大きな火山があって、真っ赤なドロドロとした液体が細く流れている。
それが通った跡はモワモワと白い煙が立ち上っていた。
「うわ、あの赤い液体熱そうっ!」
『ありゃ、溶岩だな……。マグマとも言うが……。
行きたい、とか、いうなよ……。溶けるぞ……』
『言わないけど……ラディウス、また酔ったの?』
途切れ途切れに話すラディウスに少し呆れる。
『酔って、ねぇ。気分がわるい、だけだ』
ラディウスは意地を張っているけど、どう見ても船酔いしている。
初めて船に乗った時もそうだったし、揺れに弱いみたいだ。
ラディウスを肩から手のひらに移すと、彼の体が船の揺れに合わせて小さく上下した。
安定した場所に移ってホッとしたみたいだ。
「ちょっと休もっか?」
「船が、出ちまうだろうが……」
「それはそうだけど」
乗り換えのことだとは思ったけど、船酔いしているラディウスに言われてもイマイチ納得できない。
ここは、私の主張を通すことにした。
なるべく風当たりの良い場所に移動して、ラディウスを縁にそっと乗せる。
風は穏やかなので、船さえ大きく揺れなければラディウスは落ちないはずだ。
そのまま5分ぐらい過ぎた。
船長さんはどこかに行っていて姿が見えないし、
トーマさん達船員は忙しそうに積み荷を運び込んでいる。
もう乗客は私達だけになっていた。
「……ちょっとはマシになった?」
「少しはな……。お前、本当にお人好しだよな……」
「だって、気分悪いまま移動したくないでしょ?」
「そりゃあそうだけどよ――」
「なんだ、まだ乗ってんのか?」
声に振り返ると、重そうな木箱を抱えたトーマさんが近づいてきている。
「あ、トーマさん」
「ん?俺、名前言ったか?」
「せ、船長さんから聞きました」
「そうか」
ラディウスと会話をしていたことについて突っ込まれるんじゃないかと
ドキドキしたけど、トーマさんは短く答えただけだった。
それから、私と桟橋を交互に見て不思議そうに首を傾げる。
「ところで、何してるんだ?ブラウア大陸に行くんだろ?」
「えっと……ロートア大陸って火山があるんだなって思って、眺めてました」
ぬいぐるみのラディウスが船酔いした、とも言うわけにもいかずに咄嗟に言い訳をした。
トーマさんは全く疑う素振りも見せずに相槌を打つ。
「あぁ……。ヴァイスア大陸には火山は無いし、クラルハイトは死火山だもんな。
活火山があるのはロートアぐらいだから」
「活火山……。だから溶岩が流れてるんですね」
「定期的に噴火するみたいでな。
今みたいに溶岩が流れ出している時はそろそろ噴火するって聞いたことがあるぜ」
「えぇっ!?じゃあ危ないじゃないですか!!」
「そうそう。だから、まだ乗ってんのかって聞いたんだよ、俺は」
少しニヤニヤしながら言うトーマさん。半分はからかいだけど、もう半分は本気だと思った。
木箱を抱え直すと私の目をしっかりと見てくる。
「ブラウア大陸は寒いからな。それに今の時期は風向きが変わりやすい。
気をつけていけよ」
「ありがとうございます!
トーマさん達もお気をつけて!」
お礼を言うと、トーマさんは薄く笑って荷運びに戻っていった。
その後ろ姿を見ながら、ラディウスがボソリと呟く。
『あいつ……いいヤツだな』
「だね……。顔見知りになったからか、気にかけてもらってるみたい」
『見ていて危なっかしいんじゃねぇの?』
「それは……そうかも……」
言い返そうになったけど、正論なので声が小さくなってしまった。
ヴァイスア大陸での主流の通貨を教えてくれたり、今みたいに大陸の情報を教えてもらったり。
旅慣れした人ならそこまでないのかもしれないけど、私はまだ13歳だし見た目も頼りないので、口を出さずにはいられないのかもしれない。
「もうちょっと旅に慣れなきゃね……」
『今回で最初で最後だろ――』
「おーい、嬢ちゃん!まだ乗ってんのかぁ!」
ようやく調子を取り戻したラディウスの声をかき消すほどの野太い声に飛び上がった。
慌てて縁から身を乗り出すと、船長さんが桟橋の上で手を振っている。
彼の隣に同じくらいの背丈の男の人。黄色の服を着ているが、それを除けばまるで双子みたいに船長にソックリだ。
「船団を紹介するからこっちに来な!」
「はーい!今行きますっ!」
ラディウスを揺らさないように気をつけながら急いで船を降りて、
船長さん達の元に駆け寄る。
すると隣の男の人が口を開いた。
「俺はアルノーっていうんだ!
バークから話は聞いたぞ!ブラウア大陸に行きたいんだってな!」
「そうなんです!乗せてもらえますか?」
「ガッハッハッ!もちろんだ!乗船料さえ払えば乗せてやるさ!
銀貨1枚な!」
「ありがとうございます!」
銀貨2、3枚は払うと思っていたので、1枚で済むのは嬉しかった。
防寒着も買わないといけないし、できるだけ節約したい。
「それにしても、お2人は似てますね。兄弟ですか?」
私の質問に2人の船長さんは顔を見合わせて笑うと、腕を組んだ。
「惜しい!従兄弟だ!」
2人の声が重なった。改めて聞くと声の低さも似ている。
「従兄弟!?」
親戚同士で船団の船長をやっている。これは強い。
情報交換なんか簡単に行なっていそうだ。
「そうなんだよ。よく双子じゃないかって言われるけどな!!
ガッハッハッ!!」
「でも違うんだ!ナーッハッハ!!」
「本当によく似てますね……」
『どっちがどっちかわかんねぇよ。
服と笑い声で識別するしかねぇか……』
「そうだね……」
小声でラディウスのツッコミに賛同した。
すぐに出航すると言うので、アルノー船長達の船に乗る。
バーク船長達の船よりも一回り大きく、積み荷もたくさん積み込まれていた。
ブラウア大陸で取り引きするのだろう。
桟橋でバーク船長が見送ってくれていた。
「バーク船長さん、どうもありがとうございました!」
「おう!まぁ、アルノー達なら大丈夫だろうが、気をつけていけよ!」
「はい!船長さん達も気をつけて!」
「ナーッハッハ!!
海の女からお礼言われたら、もう何も起こらねぇな!!」
「だから私は海の女じゃありませんっ!!」
ムッとして叫ぶと、両方の船から笑い声が返ってくる。
一瞬で頭が真っ白になった。
そこに、ラディウスの冷静な声がささる。
『お前、2つの船団から笑われてるぞ』
「わかってるから、言わないで……」
恥ずかしくなって下を向いた。
アルノー船長が号令をかけて、帆が大きく膨らんだ。風を受けて、船が進み始める。
何故かしばらくの間、笑い声は途切れなかった。




