第38話 ラディウスの嘆き
『で、なんだよ。その後ろのスライム共は』
私はテネルの仲間を集めて、無事にラディウスの住処を訪ねていた。
背後でピーピー飛び跳ねているスライム達を見て、ラディウスが呆れたように呟く。
「だって、ラディウスがぬいぐるみに入ったら本体が空になっちゃうでしょ?そのままだと腐敗するから、
スライム達で固めようって話になったの」
『は!?』
『そうなんですよ~、ラディウスさん。
ワタシたち防腐剤になるんです〜』
『防腐剤!?って、ちょっと待て!
そうすると俺の体がベタベタになっちまうじゃねぇか!』
『そこは我慢してください〜。スライムなので〜』
自分の倍以上あるラディウスに顔を近づけられても、テネルはのんびりと答えている。
前はワイバーンを怖がっていたはずなのに、ラディウスは別みたいだ。
ラディウスはその方法に反対らしく、目つきを鋭くして私達を睨んでいる。
『他に方法ねぇのかよ?』
「たぶんないと思う。
それはそうと、最初なんでラディウスは氷漬けだったの?」
ラディウスを送り届けたとき、全身が氷に覆われていたことを思い出した。
気候が温暖なのに解けない氷があるなんて信じられない。
ラディウスは赤い目を丸くすると、少し唸った。
『俺もわからん。推測だが、青が凍らせたんだと思うぜ』
「なんで?」
『俺が知りてぇわ!どうせ青の所に行くんだから、
ついでに聞こうぜ』
「じゃあ、そうしよう。
なら、急いでぬいぐるみに移らないとね」
『わかったよ!やってやるから、お前何とかしろよ!』
そう叫ぶと、ラディウスの体から白い光が飛び出した。
どんな仕組みなのか全くわからないけど、すぐに移動させないと大変なことになる。
「ラディウス、こっち!こっち!」
テネルの時と同じように、白いドラゴンのぬいぐるみを差し出す。
光の玉はフヨフヨとすいこまれていった。
すぐに私の手の上でぬいぐるみが一回飛び跳ねる。
『あー、入っちまった……』
大げさにため息をつくラディウスに、テネルが嬉しそうに声をかけた。
『でも無事に移れてよかったじゃないですか〜。
もし失敗してたら……』
『恐ろしいこと言うなよ!?』
すかさずラディウスがかみつく。やっぱり失敗したら2度と話せなくなるのだろう。
だけど、私は2人の会話劇が懐かしくてホッコリしていた。
「アハハハハッ!
じゃあみんな、ラディウスさんの本体を覆っちゃってくたさ〜い!」
『ピッ!』
『ピ〜!』
テネルの号令でスライム達が一斉にラディウスの本体を包みこんでゆく。
どんどんスライムに埋まっていく本体を見て、ラディウスが悲痛な声を出した。
『ああ、俺の体がスライムに……』
「実体に戻れなくなっていいなら、覆うのやめるけど?」
『それは困る。一生ぬいぐるみ状態とかカンベンしてくれよ』
「じゃあ我慢して」
そう言うと、返事の代わりに大きなため息が返ってきた。
思っていたよりも短い時間で本体の保護が終わった。
テネルは嬉しそうに私の肩の上でピョンピョン飛び跳ねる。
『よ~し。しばらくそこでラディウスさんの体を守ってあげてください。
とっても大事なので!』
『ピ〜ッ!!』
「うわっ!?思ったより耳に響く!?」
途中で分裂していたので、スライムたちは数え切れないぐらいに増えていた。
それらが一斉に返事をしたせいで耳に少し高い鳴き声がこだまして、
思わず耳を塞いだ。
『アハハハッ!でもシーラちゃん、悪気はないんですよ〜』
「わ、わかってるよ。ビックリしただけだから」
『とっとと山降りて、青の所行くぞ』
ラディウスが不機嫌そうな声で言った。
「でもその前にリンダさんたちのところ戻らなきゃ。
ラディウス連れてくるって約束したし」
『何でだよ!?って、ぬいぐるみのこと知ってんのか!?』
「半信半疑だけどね。でもどちらかと言えば信じてくれてるみたい」
『それに、ワタシも戻ってもらわないと困ります〜。
あの子達に指示を出せないので〜』
『そりゃあ、困るな……』
テネルの正論にラディウスが渋々口を閉ざした。
山を降りた私達は、宿屋の扉を開ける。
「ただいま〜!」
すると、素早くリンダさんが駆け寄ってくる。興奮していて少し鼻息が荒い。
「おかえり、シーラちゃん!それで、ホワイトドラゴンちゃんは!?」
「これです」
右肩に乗っているラディウスをリンダさんに差し出した。
すぐにリンダさんの目がハートになる。
「あらやだ〜、かわいい〜!!」
『おい……俺、ドラゴンなんだけど……』
『アハハッ!リンダさんは魔物の種類なんて関係ありませんよ〜』
『はぁ……』
リンダさんに頬ずりされてるラディウス。諦めたように大きなため息をついた。
すると、ジェイドさんがリンダさんを呆れ顔で見ながら、私に声にかける。
「そういえばシーラちゃん。防寒着は持っているのか?」
「いえ、持ってないです。行くの初めてですし」
「そうか。なら、ブラウア大陸で買い揃えるしかないぞ。
ここやクラルハイトには売ってないからな」
「わかりました。ありがとうございます!」
お金ならちゃんと持ってきているので大丈夫だ。銀貨と銅貨が10枚ずつ。
これだけあればちょっとしたトラブルが起こっても、どうにかなりそうだ。
すると、テネルが左肩から降りて私の前で飛び跳ねた。
『シーラちゃん。冒険についてなんですけど、ワタシはお留守番してますね〜』
「うん。この子たちに指示出さなきゃいけないんでしょ?」
『はい〜。それもあるんですけど、大陸から出ちゃいけない気がして』
少しテネルの声が低くなったので、思わず唾をのみ込んだ。
よくわからない不思議な力は大陸内でしか効かないのだと思う。
「あれ?でもラディウスは、クラルハイトからヴァイスアまで移動できたけど」
『ドラゴンだからかもしれません。
とにかく嫌な予感がするので、すみませんがワタシはお留守番です』
「全然大丈夫だよ!リンダさん達のお手伝い、しっかりね!」
『もちろんですよ〜!任せてくださ〜い!』
テネルがいつもの調子に戻ったので、少し安心した。
『おい、のんきに話してねぇで助けてくれよ!?』
声がした方をみると、ラディウスがテーブルの上に置かれてスライム達に囲まれている。彼等は仲良くなりたいのか足にまとわりついたり、つついたりしていた。
『ピー!』
「リンダさん、ラディウスをそこに置いたんですね……」
「そうなのよ〜。スライムちゃん達が興味あるみたいだったから〜。
なるほど、ドラゴンちゃんはラディウスちゃんっていうのね」
『ちゃん付けすんじゃねぇよ!俺はドラゴンなの!
つーか、早く助けろよ!』
スライムにまとわりつかれながらも、ラディウスがポンポン飛び跳ねている。
それを見てリンダさんはますます目を輝かせた。
「まぁ、ラディウスちゃんはよく飛び跳ねるわね〜」
『こりゃ、ダメなヤツだ……。そもそも言葉通じねぇし……』
「仕方ないよ。じゃあ行こっか、ラディウス」
スライム達を優しく剥がすとラディウスを右肩に乗せる。
ラディウスは安心したように大きく息を吐いた。
ぬいぐるみだけど。
『やっとか。待ちくたびれたぜ……』
「じゃあ、いってきまーす!!」
「いってらっしゃ~い」
『いってらっしゃ~いっ!!』
テネル達の声を受けながら、今度こそコルタルに向けて出発した。




