第37話 驚きの連続
ジェイドさんたちの所へ戻った私は、さっそくブラウア大陸に行かなければならないことを話していた。
2人共、もっといえばテネルたちスライムもポカンとして動きを止めている。
長い沈黙のあと、ジェイドさんが口を開いた。
「な、何でまたそんな所に……」
「ホワイトドラゴンの友達がどうしても話があるって。
でも自分が来たら大騒ぎになるから、どうにかして連れてきてくれって言われて」
どうしてもブルードラゴンとは言えなくて、言葉を濁した。
「ホワイトドラゴンはどうやって連れていくんだ?
……あっ!もしかしてぬいぐるみか?」
「え?ドラゴンもぬいぐるみになれるの!?」
ぬいぐるみと聞いたリンダさんの目が輝く。本当にテネルたちスライムにメロメロだ。
「そ、そうなんです」
「じゃあ、ホワイトドラゴンちゃんも連れてきてちょうだいっ!」
「リンダ……ホワイトドラゴンは危険なんだぞ」
もうドラゴンを「ちゃん」付けで呼んでいるリンダさんにジェイドさんが苦笑する。
「そうなの?少なくともここで宿屋始めてから、被害なんてあってないけど?」
「リンダさん、連れてくるのはいいんですけど、ぬいぐるみなので飛び跳ねることしかできませんよ」
「全っ然構わないわ!想像しただけでも楽しみ!」
手を組んで目を輝かせているリンダさんをジェイドさんは呆れたように眺めて、私に向き直る。
「シーラちゃん、1つ確認なんだが。
ドラゴンがぬいぐるみに入ると、本体は空になるんだよな?」
「はい……ハッ!ブラウア大陸に行っている間どうしよう!?」
ラディウスがぬいぐるみから実体に戻るまでは、なぜか実体が氷漬けになっていた。
ここは白夜で太陽が出っばなしなので、何もしなければ腐敗してしまうだろう。
するとテネルが私の前に飛び出してきた。
2人共、テネルが動いていても驚かなくなっている。
『じゃあシーラちゃん、ワタシたちスライムで固めちゃいましょう〜』
「スライムで固めちゃうの!?」
『はい〜。少なくとも腐敗は防げます。
ワタシたち、防腐剤にも使われているので〜』
「えぇっ!?」
はたから見れば1人会話をしている私を、ジェイドさんたちが不思議そうな顔で見つめていた。
「固める……?テネルちゃんは何て言ってるの?」
「ス、スライムたちで固めちゃおうって。防腐剤になるらしくて……」
「スライムちゃん達が防腐剤!?」
「そういえば一部の貴族たちは、スライムを飼って食物を保存していると聞いたことがあるような……」
驚いているリンダさんの横でジェイドさんが冷静に呟く。
「スライムパック!?想像しただけで可愛い〜!!」
「いや、合理的ではあるが……。ホワイトドラゴンをスライムで……ふふっ」
おかしかったらしく、ジェイドさんが俯いて小刻みに肩を震わせる。
彼がここまで笑うのも珍しい。少しホッコリしながらテネルに視線を向ける。
「確かまだ仲間がいるんだよね?」
『はい〜。コルタル辺りに居ると思います〜。なので、ワタシを連れていってもらって仲間たちを集めて、ラディウスさんの住処にゴーですね〜』
「じゃあ、今からテネルの仲間集めて、ラディウスの所に行って、ラディウスを連れて帰ってこないと行けないね」
テネルの言葉を繰り返して2人に伝える。
すると、リンダさんが少し眉をひそめて唸った。
「ちょっとハードじゃない?大丈夫、シーラちゃん?」
「たぶん、大丈夫だと思います。ここからコルタルまでは半日もあれば行けるはずなので」
確か、前にコルタルからここまできた時もそれぐらいだったと思う。
ずっと太陽は出ているし、予想外の出来事もあって半日以上かかったかもしれないけど。
「そう……あ!ちょっと待っててね!」
リンダさんは軽く手を叩くと台所に駆け込んだ。卵とお肉を焼く香ばしい匂いが室内に広がる。
しばらくして、リンダさんはお皿にパンを4つ乗せて戻ってきた。
よく見るとパンの間に野菜やお肉、卵が挟まっている。
ジェイドさんが目を輝かせた。
「お、パーネラだな」
「パーネラ?」
「ええ。手軽に食べられる携帯食よ。たくさん移動するからお腹空いちゃうでしょ?」
「持っていっていいんですか!?」
嬉しくて椅子から立ち上がる。
今まで、歩きながら何かを食べることなんてなかったので新鮮な気分だ。
2人ともニコニコと笑みを浮かべている。
「もちろんよ。あ、でも2つまでだからね。残りの2つはジェイドと私の」
「はい!でも……これどうやって食べるんですか?」
私がそう尋ねると、2人とも目を丸くして顔を見合わせた。
私も首を傾げて、すぐに閃いた。
中流貴族であることを2人に話していなかったのだ。
「あ……私、貴族なんです。中流ですけど」
「えええぇっ!?本当!?シーラちゃん!?」
「い、言われてみれば、服とか持ち物とか思い当たることはあるが……」
2人共完全に混乱している。
それに合わせてスライムもピョンピョン飛び跳ねていた。彼等はこの状況を楽しんでいるようにも見える。
テネルはというと、少し体を後ろにそらしていた。
『ワタシは知ってましたよ〜。エッヘン!』
「ごめんさない。今まで黙ってて……」
「い、いえ、謝ることじゃないけど……私達失礼なことしてないかしら!?」
「私の家はそんなこと気にしてないので大丈夫です。それに今まで通り接してくれた方が嬉しいので」
「そ、そう言ってくれるなら、変わらずにさせてもらうが……」
ジェイドさんの顔が引きつっている。
言っていなかった私も悪いけど、ここまで驚かなくもいいのではないかと思った。
すると、リンダさんが慌てたように話題を変える。
「あ、えっと、パーネラの食べ方だったわね。
手で持ってかぶりつくの。フォークとナイフは要らないのよ」
「な、なるほど……」
「試しに、一口かじってみたら?」
リンダさんに促されて、パーネラを両手に持つ。
今までもパンを持って食べたことはあるけど、家のとは違って色は黒く、表面がザラザラしている。
「い、いただきます!」
思い切ってかじりつくと、パンと卵の甘みや肉汁が口いっぱいに広がった。
「美味しいです!!」
「よかったわ〜。口に合わなかったらどうしようかと」
「リンダさんの料理は何でも美味しいので!」
「ありがとう、シーラちゃん!いつも美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるのよ。
じゃあこれでドラゴンちゃんの所に行けるわね」
「はい!あ、ぬいぐるみ持っていかなきゃ!」
慌てて壁際に置いている布革をゴソゴソとあさる。
家から持ってきたものを置かせてもらっているのだ。
すぐに手のひらサイズの白いぬいぐるみを取り出した。
「よし、これで万全!」
「まぁ、かわいい〜!その中にドラゴンちゃんが入るのね!」
「はい」
「シーラちゃん、俺はついて行ったほうがいいか?」
ようやく話に潜り込めたジェイドさんが、少し遠慮がちに尋ねてくる。
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます!」
本当はついてきてもらったほうがいいんだろうけど、ジェイドさんだって仕事がある。あまり迷惑をかけるわけにはいかない。
「わかった。気をつけて行ってくるんだぞ」
「山に行く前に1回帰ってきてもいいわよ〜」
「考えておきます。じゃあ、行ってきま〜す!」
『いってきますね〜!』
『ピー!!』
私はぬいぐるみが入ったポーチを下げて、テネルを肩に乗せると宿屋を飛び出した。




