第34話 ラディウスとの日常
交渉が成功してから半月、私はリンダさん達の宿にお世話になりながら、
供物を届ける役割を果たしていた。
朝食を済ませると、私は白いポーチを肩から下げてすぐに外に飛び出した。
「『竜の山』に行ってきまーす!」
「いってらっしゃ〜い〜、シーラちゃん」
「気をつけるんだぞ」
『ピ〜!』
ジェイドさんたちとスライムたちの声を背に、歩き出す。
「って、コラッ!お皿に乗るんじゃない!」
『ピィ……』
1匹がお叱りを受けてしまった。
結局、「お試しの3日間」でジェイドさんが折れて、テネルたちも宿屋で暮らせるようになった。
ちょっとピーピーうるさい時もあるけど、一生懸命仕事をしてくれているし、見ていて癒やされる。
ジェイドさんたちも前よりずいぶんと笑顔が増えた。
竜の山はワイバーンの巣にもなっているんだけど、ラディウスが圧をかけて、人間を襲わないように気を回してくれていた。
おかげで、私は安全にラディウスの住処まで辿り着くことができている。
「ラディウス〜、来たよ〜」
『ケッ、飽きもせずよく来るぜ、まったく』
ラディウスが両翼のない白い巨体を起こしながら、めんどくさそうに言った。相変わらず口は悪いけど、なんだかんだいって対応してくれている。
「だってラディウスと話せるの、嬉しいんだもん」
『だからって毎日は来すぎだろ!?供物持ってくるのも3日おきなんだしよ!』
「じゃあ追い返せばいいじゃん」
『できるか!』
「え?」
即答したラディウスに思わず聞き返すと、気まずそうに顔を逸らした。
『あー、お、お前、宿で話し相手いないんだろ?だから俺が渋々――』
「毎日リンダさんたちやテネルと話してるよ?」
遮って言うと、ラディウスは口を開けたまま固まってしまった。
白くて鋭い牙が口から覗いているのに、どこかマヌケに見えるのが面白い。
『フ、フーン。そりゃあ、よかったな』
「で?なんで追い返さないの?」
『チッ……話そらしたのにしつこいんだよ、お前!』
「ラディウスが言ってくれないからでしょ?」
ラディウスが睨んできたが、負けずに彼の赤い目をまっすぐ見つめ返す。
『あー!もう!俺の負けだよ!チクショー!……そうだよ!俺が寂しいんだよ!』
「最初からそう言えばいいのに」
『わかってたのなら先に言えよ!?』
「いや、予想だから外れてたら嫌だなって……」
ラディウスが寂しがっているのは、なんとなく察していた。
だって毎回帰る時に『明日も来るんだろ?』とか言われたら、誰だって寂しいんだなって思うはず。
『まったく……。なんでお前が届け役なんだか……』
「別の人がいいなら、またジェイドさんと交渉しに行ってくるよ?」
『嫌とは言ってねぇだろ!』
ラディウスが吠えて木々がザワザワと揺れる。鳥たちがバサバサと慌てたように飛んでいった。
少し背筋が寒くなったけど、怖くはなかった。
「結局、何が言いたいの?ラディウス?」
『チッ、したたか娘が……』
「あっ!また変なあだ名増やした!前は「箱入り娘」だったのに!」
『お前が増やしたんだろ!?』
ラディウスがまた叫ぶ。だけど本気で怒っているのではない。
本気で怒ったら、以前みたいに光の球を吐き出してくるはずだから。
なんだか嬉しくなって、つい笑ってしまった。
「ふふっ……」
『なに笑ってんだよ!?』
「思い出し笑いだから、気にしなくていいよ〜」
『なんだそりゃ。お前本当変わってるよな……』
「私は最初から変わってるよ」
今更変だと言われても痛くも痒くもない。
私はこれからもずっと、ラディウスと平和な日々を過ごせると思っていた。




