第32話 リンダとスライムたち
用事も済んだので、宿屋に戻ることになった。
ジェイドさんはリンダさんのことがよほど心配だったみたいで、歩くペースが早く、行く時よりも半日も早く戻れた。
「戻ったぞ!」
少し真剣な顔でドアを開けるジェイドさん。
しかし、目に映ったのはスライムたちに囲まれながら数匹を手に抱え、満面の笑みを浮かべるリンダさんだった。
「あら〜、おかえりなさい〜」
「リ、リンダ?この状況は……?」
「この子たち本当にいい子ね〜。ピーピー鳴きながら洗い物や薪割りを手伝ってくれたのよ〜」
スライムたちは嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねている。
私はスライムの集団に近づいて、ソッとテネルを手のひらに乗せた。
「が、頑張ったんだね……」
『はい〜。それはもう〜。
最初はリンダさん、戸惑ってましたよ。でもいろいろ運ぶの手伝ってたら、そのうち目がハートになっちゃって〜』
「メロメロになっちゃったんだ」
「そうなんですよ〜。この子たちも、ご飯が楽しみでお手伝いを張り切っちゃって〜」
「ねえ、あなた。この子たち、ウチで飼わない〜?」
ボソボソとテネルと話していると、リンダさんが甘えた声でジェイドさんに頼んでいる。
「リンダ!?君、本気か!?」
「もちろん本気よ〜。この子たちのおかげで毎日笑顔になれるの〜」
「た、確かに……笑顔が眩しい……じゃなくてっ!
いくらお手伝いをしてくれたとはいえ、魔物なんだぞ!?いつ気が変わるか……」
「なら、3日ほどお試しで過ごしてみない?この子たちの良さがわかるわよ〜」
「ううむ……」
ジェイドさんはひたすら首を捻っている。
リンダさんの願いを受け入れたいけど、スライムという魔物を宿屋に置くことを懸念しているのだろう。
「リンダさん、テネルの口調が移ってない?」
『みたいですね〜。ワタシの声、聞こえてないのに〜』
すると、ジェイドさんが大きなため息を吐いた。
「わかった……。お試しで3日間。ただし、もし俺の気が変わらなかったら出ていってもらうからな!」
「やった〜。あなたたち、3日でジェイドをメロメロにするわよ〜」
『ピ〜〜!』
『わ~い!もしかしたらここで暮らせるかもしれないんですね〜?
よ~し、頑張りますよ〜!』
張り切っているリンダさんとスライムたち。
タイミング的にも良さそうだったので、2人にテネルを紹介することにした。
「あの……リンダさんとジェイドさん」
「あら、なぁに〜?」
「この子、スライムたちのリーダーです。テネルって言います」
黄色いぬいぐるみをリンダさんたちに見せる。
「そうなの〜。とりあえず3日間はよろしくね〜、テネルちゃん」
「よ、よろしく……」
『は~い、よろしくお願いしま~す!』
私の手の上でテネルがピョンピョン跳ねた。
それを見て2人が目を丸くする。
「う、動いた!?」
「そ、そういえば、ぬいぐるみが喋るって言ってたな……」
「え!?本当なの!?シーラちゃん!?」
興奮気味のリンダさんから肩を掴まれて、勢いで頷く、
テネルの声は聞こえていないけど、動きはちゃんと見えるらしい。
「はい。何故か私だけにしか聞こえないんですけど……」
「どんな声!?かわいい!?」
「フワフワしてて、スライムらしい高い声です」
「え~!聞けるなら聞いてみたいわ!」
『ワタシも声が届いたらな〜って思ってます〜』
考えには同感する。
もし、そんなことがあるとしたら、不思議な力でもはたらかない限り無理だろう。
「と、とにかく、テネルがスライムたちに指示を出してくれますので……」
「わかったわ!
シーラちゃんはクラルハイトに帰るんでしょう?」
「はい。でもドラゴンの監視と供物の運搬を任されてしまって……」
「だから、シーラちゃんにここで生活を送ってもらおうかという話になってるんだが……リンダ、いいか?」
「もちろんっ!大歓迎よ!」
興奮しすぎたリンダさんを横目で見て、ジェイドさんは私に向き直る。
「ってことだから、シーラちゃんは準備を整えておいで」
「はい!また7日以内に来ることになると思います」
それからテネルにソっと声を掛けた。
「頑張ってね」
『はい〜。生活がかかってますからね〜』
リンダさんたちに向き直って、帰ることを告げる。
「じゃあ1度帰りますね!」
「ええ。また数日後ね〜」
「気をつけて帰るんだぞ」
2人の声とスライムたちのピーピー鳴く声を背中に受けながら、宿屋を後にした。
次回で【第1部完結】です




