第30話 ルオーロへ
ジェイドさんの着替えのため、一度宿屋に戻ることになった。
だけど、1つだけ引っかかっていることがある。
山から帰る時から、ジェイドさんの表情が暗いのだ。
「お待たせ、シーラちゃん」
いつもの服に着替え終えたジェイドさんが声をかけてくる。
でもその顔はやっぱりどこか覇気がない。
「ジェイドさん、どこか調子悪いんですか?」
「い、いや、調子が悪いと言うよりは……」
そう言って気まずそうに、顔をリンダさんの方に向ける。
「あら、私?」
「ああ……。いや、今からしばらく1人にさせてしまうから、心配で……」
「なんだ、そんなこと?私なら大丈夫よ」
リンダさんが力こぶを作ってみせる。
だけどジェイドさんは目を細くして、ため息を吐いた。
「そんなことって……。俺は何かあったらと思うと……」
「でもジェイドが行かないと、シーラちゃんが困っちゃうわよ」
「うーん……」
ジェイドさんは納得していない顔で唸っている。
リンダさん想いだというとは痛いほど伝わった。
それにジェイドさんの心配も頷ける。宿屋の周辺には何もないので、悪い人にとっては格好の餌食だからだ。
「リンダさんが1人じゃなかったらいいんですよね……」
「ああ。でもこんな所に用心棒なんて来ないだろう」
「もうジェイド、心配し過ぎよ」
会話を聞きながら、ふと閃いた。ちょっと無理があるかもしれないけど、リンダさんを1人にさせない方法がある。
「じゃあ、スライムたちはどうですか?いい子ですよ」
「ス、スライム!?」
「魔物だろう!?大丈夫なのか!?」
案の定2人からツッコミが入った。でもここで引き下がるわけにはいかない。
もしリンダさんが大変な目にあったら嫌だ。
「確かに魔物ですけど、おとなしいし、ピーピー言ってかわいいですよ」
「え、かわいい?どうしよう、お願いしちゃおうかな……」
「リ、リンダ!?」
「じゃあ、あなた。私が1人でいて悪い人に出会うのと、スライムたちとお留守番するのとどっちがいい?」
「そ、それは、スライムたちと留守番の方が……」
「よし!決まり!シーラちゃん、スライムたちを呼んできてくれる?」
「わかりました!」
さっそく外に出て、テネルたちの所へ向かう。
「テネルー!ちょっとお願いがあるんだけど」
『はいはい〜、何でしょう〜?』
「私とジェイドさんが出かけるでしょ?その間リンダさんが1人になっちゃうから、みんなでお留守番してほしいんだけど……」
『あ、いいですよ〜』
2つ返事だった。思わず聞き返す。
「軽っ!?いいの!?」
『はい〜。リンダさん、いい人ですし。
この子たちと一緒にお留守番しま〜す』
テネルの言葉を聞いたスライムたちはピョンピョン飛び跳ねていた。
喋れなくても、言葉を理解しているみたいだ。
「じゃあ、中に入ろう。ビックリさせないでね」
『は~い。みんな〜行きますよ〜』
『ピ〜!』
私の後に続いて、スライムたちがピョンピョンとドアを跨ぐ。
その音にジェイドさんたちが目を向けた。
「ス、スライムだ……」
「あらまぁ、かわいい。それにしても数多いわね〜。スライム宿屋にならないかしら?」
『ここにいるのは15匹ぐらいですね〜。住処にまだいますけど〜』
本当はテネルの言葉を伝えたかったけど、あえて言わなかった。
今言っても、2人を混乱させてしまうだけだから。
「じゃあ、この子たちとお留守番でいいんですよね?ジェイドさん?」
「あ、ああ……」
まだ納得してないジェイドさんを見て、リンダさんは少し眉をつりあげた。
「もう!心配してくれるのは嬉しいけど、大丈夫よ。
もしこの子たちが悪いことしたら、鍋に入れて煮込んじゃうから!」
『あっ、それはカンベンですね〜。溶けちゃいます〜』
「わかった。今までの様子を見る限り、襲ってくる心配はないみたいだから……頼んだぞ」
ジェイドさんがスライムたちにいうと、彼らは一段と高く飛び跳ねる。
まるで、任せろといっているようだ。
「じゃあ、俺たちも出よう」
「はい」
「いってらっしゃーい」
リンダさんの明るい声を聞きながら、私たちは王都ルオーロに向けて出発した。




