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第3話 アンゼータへ

 『と、とりあえず近い町に行こうぜ。ずっとここにいるのもなんだしよ』


 「アンゼータね!今から行くつもりなの!」

 

 飛び上がって喜んでいるとドラゴンがジャンプして肩に乗ってくる。

どうやってジャンプしたのか不思議でたまらないのだが、ツッコんだらダメなような気がするので心の奥に押しやった。


 『そんなに嬉しいのかよ。お前、追い出されたってこと忘れてるだろ』


 「忘れてないよ。ビックリはしてるけど」


 『ケッ』


 「それよりなんで私の肩に乗るの?歩けるんでしょ?」


 そう尋ねるとドラゴンは私から少し顔をそらして話しだす。


 『ぬいぐるみが動いてたら気味悪ぃだろ。それにサイズも小さいからな。

踏み潰されるなんてゴメンだ』


 「そ、そうなんだ」


 自分で歩くのが面倒なだけだとは思うが、ぬいぐるみなりの事情があるのだろう。深く突っ込まないことにした。

 パンを1個食べるとさっそく歩き始める。



 町につくまでお互い無言だった。

 入口の門をくぐろうとしたとき、いきなりドラゴンが肩の上でボンボンと飛び跳ねた。私は踏み出した足を引っ込めて軽くドラゴンを睨む。


 「何?落ちちゃうよ?」


 『落ちないように飛び跳ねてんだよ!俺がコレしたら話しかける合図だからな。しっかり覚えとけよ!』

 

 「わかった。それで、話って?」


 『念のため言っとくがなぁ、俺の声はお前にしか聞こえてねぇからな。誰とも会話してないのにお前が大声出したら周りから変な目で見られるぞ』


 「え?なんで?」


 思わず聞き返すとドラゴンはガックリと頭を下げる。


 『だから俺が知りてぇわ。まぁ、お前が作ったからじゃねぇの?さっき試しに虫に声かけたが無反応だった』


 「虫に言葉が通じるわけないじゃん」


 『わかってるよ!もしかしたら通じるかもしれねぇだろ⁉好奇心だ!好奇心!』


 怒っているのか照れ隠しなのかドラゴンは私の顔まで飛び上がった。感情は読み取れないが、カワイイしか感想が出てこない。 


 「カワイイ……」


 『怒ってんだよ、俺は!』


 「そんなこと言われても。小さいし、目はクリクリしてるし、触り心地いいし」


 『歯があったら噛みついてるぞ』


 ドラゴンは鼻を鳴らすと、また私の肩の上に落ち着いた。

 話は終わりみたいなので門をくぐる。見慣れた通りが眼前に広がり、相変わらず人がたくさん出入りしていて賑やかだ。

 買い物でもしようと歩き出したとき、ドラゴンがポンポンと飛び跳ねた。急いで端に寄って小声で話しかける。


 「どうしたの?」


 『今から何する気だ?』


 「お買い物しようと思ってるんだけど」


 『先に泊まる所を確保してからにしろ』


 「泊まる所……」

 

 ぬいぐるみなのに偉そうに命令してきてムッとしながらも、何度かドラゴンの言葉を繰り返す。アンゼータに別荘はないのだから、食事はもちろんフカフカのベッドなんてあるはずもない。


 「あっ、そうか。家がないんだった」


 『そういうことだ。昨日みたいに草の上に寝るっていうんなら、買い物に

行ってもいいけどな』


 「泊まる所って探すんだよね?どうしたらいいの?」


 そう尋ねるとドラゴンはバカにしたように鼻で笑った。

ぬいぐるみのくせに。

  

 『フン、箱入り娘が。よく聞けよ。

 町にはたいてい宿屋って施設があるんだ』


 「そこに行ったらいいのね」


 『ああ。ただし空きがあるかどうかは行かなきゃわからねぇし、泊まるには通貨がいるからな』

 

 「よし、行こう!」


 『まだ話終わってねぇよ!』 


 ドラゴンの言葉を無視して歩き始めると不機嫌そうに話を続ける。 


 『あーもう、そのまま聞いとけ。宿屋っていうのは軒下にベッドの看板ぶら下げてるから、それを探せ』


 「あった」


 『早すぎんだろ⁉』


 小さく指さした先には教えてもらったベッドの看板。入ったことはないが、何度も前を通っていたので知らず知らずの内に覚えていたようだ。

 さっそく中に入ると、主人らしいおじいさんが声をかけてくる。


 「おや、いらっしゃい。お泊まりかな?」


 「は、はい。空いてますか?」


 「ああ。あと3室空いているよ。お嬢さん1人かい?」


 おじいさんの言葉に頷いた。ぬいぐるみが人数に入るのか迷ったが、声が聞こえるのは私だけみたいだし、そもそもぬいぐるみをお客と数える人なんていないだろう。


 「なら、1階の真ん中の部屋を使っておくれ。あと、前払いだからね。

銀貨2枚いただけるかな?」


 「はい、どうぞ」


 革袋から通貨を取り出して渡すと、おじいさんはゆっくりと頷いた。


 「確かに受け取ったよ。

 日が暮れるまでには戻っておいで。この町は賑やかだが、夜は物騒だからね」


 「わかりました。ありがとうございます!」


 おじいさんに頭を下げてから宿屋を出ると同時にドラゴンが飛び跳ねる。よほど喋りたいことがあるらしい。急いで宿屋から離れて人通りの少ない裏道に入った。

 

 『あのジイさん、知り合いか?』


 「いいや。今日初めて会ったよ」


 『あっそう。いや、やけに親切だと思っただけだ。まぁ宿屋の主人ってのはそういう人柄なのかもしれねぇけど。

 空いててよかったな』


 「うん。あ、お買い物していい?」


 『突然だな⁉別にいいけどよ』


 ドラゴンの言葉を全部聞く前に、早歩きで移動して服を取り扱っている店に向かう。歩いている間ドラゴンはブツブツと文句を言っていたが、私が気に留めていないのを見て諦めたのか無言になった。

 服飾屋に1人で来るのは初めてだが、ゆっくり見て回れるのが嬉しい。色とりどりな品物に目移りしていると、またドラゴンが小さく飛び跳ねた。


 『それはそうとお前、買い物したことあるのか?』


 「うん、品物を選んで使用人に渡せばいいんでしょ?」


 『箱入り娘が!品物を選んだ後からが違う。

 いいか、店の奥に机があって、おっさんが立ってるだろ?』


 ドラゴンの言う通りに奥を見ると、着古した青い服の男の人が退屈そうに頬杖をついている。


 『あのおっさんに「これください」って品物を渡すんだ。そしたら通貨何枚って教えてくれるから、言われた枚数を渡せ。そしたら品がもらえるからな』


 「ヘ〜そうなんだ!」

 

 感心して普段より大きな声が出てしまった。慌てて両手で口を抑えて、

ゆっくり周りを見ると数人のお客さんも不思議そうに私に目を向けている。 

 顔を上げずに店の隅に移動してため息をついた。

 

 『バ~カ、大声出しやがって』


 「つい……はずかしい」


 『宿屋でもやっただろうが。まぁ、それは置いといてだ。

お前、通貨は今持ってるだけなんだろ?考えて使えよ』

 

 「わかった」


 明るい色の服は持っているので暗めの色、黒と青の2着だけ服を選んで男の人の所へ向かう。私に気づくと姿勢を正した。 


 「あ、あの、これ欲しいんですけど」


 「あー、はいはい。えーっと、2着で銀貨8枚ね」


 「8枚……」


 普段の買い物ならなんの迷いもなく買っていただろう。しかし、今は実家を出てきて頼れる人もいない。手持ちの銀貨は18枚なので、1日で半分を使ってしまうのは痛い。


 「す、すみません、やっぱり1着だけにします」


 「……早く選びなよ」


 ムッとして男の人は言うと腕を組んだ。

表情や態度からして怒っていると思うので手短に済ませる。


 「じゃあ、こっちの黒色のをください」


 「はいはい。銀貨4枚ね」


 「ありがとうございます!」


 お店の人に何か言われない内に急いで外に出た。うまくできるかドキドキしたが無事に終わってホッとする。

 家を出ていくことになってしまって不安だったが、初めて知ることばかりで案外面白い。

 ホクホクしながら宿屋に戻った。 

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