第27話 出発
3日後。無事に試験に合格した私は、自室で旅支度をしていた。
「服とお金と、火打ち石とダガーと……」
今回も革袋に詰め込んでいる。兄のレオによれば「丈夫で壊れにくいからオススメ」だと言われた。
とはいえ持って歩くので、できる限り少なくしたい。
それでも日用品と食料は分けるので、どうしても2つにはなってしまうけど。
今回は遠出することを皆が知っているので、コソコソする必要がなかった。
むしろ、使用人たちの方から要る物はないかと声をかけてくれるほどだ。
一通り詰め込んで顔を上げると。棚に並べられたお手製のぬいぐるみたちが目に映る。結局、父はぬいぐるみを全て取っておいてくれたのだ。
そもそも本当に勘当する気はなかったので、当然かもしれないけど。
視線を棚から壁際のテーブルに移す。そこにちょこんと置かれている物を見て、思わず声をあげた。
「あっ!ラディウスのぬいぐるみ!」
翼のない白いドラゴンをモチーフにした手のひらサイズ。これは忘れちゃいけない。今は空だけど「またぬいぐるみに入りたい」とか言われたら大変だから。
「はっ!テネルのぬいぐるみも!」
テネルはスライムの王様。あの時は布がなかったので急遽、草で作ったぬいぐるみで過ごしてもらったのだ。
次に来る時に「ぬいぐるみを作ってくる」と約束したのを忘れていた。
テネルは賢いので、忘れたなんて言ったら拗ねる。
「危ない危ない。こんな大事なこと忘れるなんて」
引き出しから、手のひらサイズの薄い黄色ぬいぐるみを取り出す。勉強の合間に作った物で、素材は綿だからフワフワしている。テネルに気に入ってもらえそうな気がする。
ついでに兄に「火打ち石とダガーの使い方を教えてほしい」と頼んだら、快く引き受けてくれた。
「シーラもサバイバルの楽しさがわかるようになったか!」って言ってたけど、それは違う。
火打ち石はたくさん練習して、安定して火をつけられるようになったし、
ダガーでいろいろ切ったり、簡単にに護身もできるようになった。
もし何かしらのトラブルに見舞われても大丈夫……なはず。
出発の日の朝、兄が港町ノレトスまで馬車で送ると言ってくれた。
母、使用人たち。そして彼等より1歩前に出ている父。
彼は優しい目で私を見ながら、ゆっくりと口を開く。
「困ったら、いつでも戻ってきていいからな」
「うん!
お父様もお母様も、使用人の皆さんも健康にはお気をつけください!」
改めて丁寧に挨拶をすると、全員が笑顔で頷いてくれた。
「じゃあ、いってきま~す!」
皆に見送られながら、勢いよく玄関を飛び出した。
特にトラブルもなく順調に走って、昼頃にはノレトスに辿り着いてしまった。
馬車、速い。
「じゃあ、俺はここまでだからな。
頑張れよ、シーラ」
「うん!お兄ちゃんもね」
手を振ると、兄は行者に指示を出してさっそうと来た道を戻っていった。
私は前を向くと門をくぐる。
「なんだか懐かしいな」
石造りの道や赤レンガの家を見ながら呟く。
ほんの3か月前に訪れたのに、数年ぶりに来たように感じた。
「あ、船って時間決まってるんだった!間に合うかな……」
確か、1日に2回往復して、1回目が目的のヴァイスア大陸。2回目はロートア大陸。
あの時は朝で、今は昼時……。
「急がなきゃ!」
姿勢を低くして全力で駆け出した。
今日乗れなかったら、ここで1日を過ごさないといけない。
やっと町の奥、船着き場に辿り着いた。
マストが3本立っていて、相変わらずの立派さに思わず感嘆の声が漏れた。
まだ桟橋に行列ができているので、間に合ったみたいだ。
お金を用意してから、きちんと最後尾に並んで順番を待つ。
「はい、銀貨2枚――って、あの時の嬢ちゃんじゃねぇか」
「ど、どうも……。覚えてたんですね」
頭に青いバンダナを巻き、いい具合に日焼けした
お兄さんが歯を見せて笑う。
私は、初めて船に乗る時にいろいろ尋ねすぎて、後ろの人達を怒らせてしまったのだ。
銀貨を渡しながらショックを受ける。私の顔が面白かったのか、お兄さんは少しニヤついていた。
「そりゃあ、あれだけ騒げばなぁ……いいぜ、乗んな」
「あ、ありがとうございます」
軽くお辞儀をして船に乗る。
潮風が目にしみたけど、それのせいだけではなかった。




