第25話 私は挫けない
ジェイドさんたちの宿屋で1日を過ごして、コルタル港に向かっていた。
港に入る少し手前でテネルが言いにくそうに声をかけてくる。
『あのー、シーラちゃん。悲しいですがここでお別れです』
「そうだったね。あの子たちとも約束してるもんね」
「はい」
テネルは私の肩から飛び降りて向き直った。
「ここまでありがとう、テネル」
『ありがとうはワタシの方ですよー。シーラちゃんがぬいぐるみを作ってくれなかったら
復活することもなかったわけですし』
「でもテネルがいなかったらリル村で……」
『それを言うならラディウスさんもですー。お互い様ですよ!
もう、どっちがありがとうとかは終わり!』
ピシャリと言われて口を閉じる。テネルはこういう話が嫌いみたいだ。
もう話題も見つからないのでお別れするしかない。
「また会えるよね?」
『シーラちゃんが来てくれたら会えますよー。ワタシたちはコルタル周辺にいますのでー』
「わかった。今度来たときに布で作り直すね!」
『あ、それはぜひお願いしますー。草だと湿気とかで動きづらくなっちゃいますし』
「うん!本当にありがとう!テネル。元気でね!」
「はいー。シーラちゃんもお元気でー」
テネルは1回高く飛び跳ねると、背を向けてピョンピョンと跳ねながら帰っていった。
後ろ姿を見送っていると胸にポッカリ穴が空いてしまったようで虚しい気持ちになる。
「ハッ⁉行かなきゃ!」
ようやく我に返ると港に入り、まっすぐ船を目指していると私に向かって誰かが手を振っているのが見えた。
お兄ちゃんだ。狩猟大会が早く終わったのだろうか。
「お兄ちゃん!もう終わったの?」
「ああ!今回も優勝だ。危なかったけどな」
「それでもスゴイよ!おめでとう!」
そう言うとお兄ちゃんは照れくさそうに頭を掻いてからまた私に手を差し出す。
「じゃあ、今度こそ帰るぞ」
「うん!」
笑顔でお兄ちゃんの手をとった。久しぶりに手を繋いだからか、とても温かい。
船に乗ってノレトスに戻る。お兄ちゃんは馬車で来ていた。街の外で御者さんが待っていて、私に気づいくと深々と頭を下げる。
「シーラ様!おかえりさないませ!」
「た、ただいま。は、いいんだけど、私が勝手に出ていったんだし……」
「それでもおかえりさないませ、です!」
御者さんは笑顔で繰り返した。こうもスッキリした顔で言われると何も言えなくなる。
それに「様」付けで呼ばれるのなんて久しぶりでなんだかむず痒い。
「じゃあ、家まで頼むよ」
「承知いたしました!」
お兄ちゃんがエスコートしてくれる。ドアを閉めると馬車が動き出した。ガタガタと揺れる車内、蹄が地面を蹴る音、何度も聞いてきた音なのに新鮮に感じる。
馬車は歩きとは比べ物にならないぐらい速く、あっという間に家に辿り着いた。
1年も離れていたわけではないのにとても懐かしい。ぼんやりと眺めているとお兄ちゃんが口を開く。
「父さんが書斎で待ってるからな」
「うん……。やっぱり怒ってるよね?」
「俺の見た感じだとそこまで怒ってないと思うぞ。言い過ぎたって少し反省してるみたいだし」
「わかった」
お兄ちゃんと別れて門をくぐり、玄関に入るとまっすぐお父さんの書斎に向かう、ドアをノックすると短い返事があった。
おそるおそる開けるとお父さんがイスに腰かけて険しい表情で私を見ている。
「た、ただいま戻りました……」
「…………………………………………」
声が裏返った。お父さんは長い間身じろぎすらしなかったが、大きく息を吐いてゆっくりと口を動かした。
「よく、帰ってきた」
「…………それだけ?」
「え」
「お兄ちゃんから聞いたよ!本当に追い出すつもりはなかったって。
ぬいぐるみばかり作ってお勉強してなかった私も悪いけど、いきなり勘当はひどいよ!」
フツフツと怒りが沸いてくる。私も私だがお父さんもお父さんだ。
まさか問い詰められるとは思っていなかったようで、お父さんは明らかに動揺している。
「え、えっとですね、追い出すって言ったらシーラも少しは気が――」
「だったらもう少し表情和らげてほしかった!
ずっと険しい顔で言われたら誰だって本気だと思っちゃうよ!」
「本気で言わないと伝わらないだろう⁉」
「……そうだね……」
目線を下に向けた。ここでムキになって言い返したらギクシャクするのは確実だ。お父さんの言うことは最もだがそれでももう少し和らげてほしい。
考えている間に少し頭が冷えてきた。お父さんも落ち着いたようで、また最初の口調に戻る。
「あと、ロイヤーさんからもクレームが入ってな。どうにかしてくれと……」
ロイヤーさんはカロン家専属の家庭教師で長年お世話になっているそうだ。
丁寧ではあるが厳しい言い方が苦手なこともあり、余計に勉強に身が入らなかった。
でも、今は考えが変わった。初めて自分で冒険してまだまだ知らないことがたくさんあることがわかり、勉強したいと思っている。
「そのことなんだけど、私ね、今回家出して知らないことがたくさんあるってわかったの。
だから、ちゃんと教養やマナーを勉強しようかなって」
「え?ほ、本当なのか?」
「うん。慣れるまで時間がかかるとは思うけど」
お父さんはまるで女の人のように両手で口元を覆った。感激しているらしい。
しかし親とはとはいえ、少し引いた。
「そんな考えを持つようになったのか……。
シーラ、本当にすまなかった」
深々とお父さんから頭を下げられて困惑する。とにかく姿勢を正してもらわないといけない。
「あ、頭上げて!
確かに最初は戸惑ったけど、勘当されなかったら私はここまで成長できなかったんだから!」
「そうか……?」
頭を上げると不安そうに見てくる。最初の威厳のある怖い顔はどこへいったのだろうか。
「明日からまた頑張るね!」
右手でガッツポーズを作るとお父さんは満足そうに微笑んだ。
1度このお話で完結とさせていただきます。
ここまでお読みくださりありがとうございました。




