第21話 竜の山
翌朝、といえるかどうかはわからないが、グッスリ眠ってから起床した。
そして隣のペッドに置かせてもらっていたラディウスとテネルを肩に乗せる。
以前のラディウスの主張を尊重して「寝ているときに潰してしまいそうで心配」とリンダさんに相談してみたら、
あっさり隣に置いていいと言ってくれたのだ。
「2人とも、寝れた?」
『文句ナシだ』
『はいー。ぐっすり眠れましたよー。フカフカでした』
小声で話しかけるとラディウスもテネルも満足そうに答えてくれた。
そのまま革袋を持ってカウンターで何かを書いているリンダさんに声をかける。
「リンダさん、おはようございまーす!」
「あら、おはよう。眠れた?」
「はい!」
元気よく答えるとリンダさんは笑顔で頷いた。そして何かを閃いたようで軽く手を叩く。
「あ、そうだ!よかったら朝ごはん食べていかない?」
「いいんですか?」
「ええ。ただ、夫がパンを買うの忘れてきちゃって。昨日お兄さんからもらっていたパンを2つ譲ってもらえないかしら?」
「どうぞどうぞ!」
「ありがとう!じゃあちょっと待っててね」
パンに挟むというので私の分も一緒に渡した。カウンターの前にあるテーブルで待っているとパンを乗せたお皿と水を運んできてくれた。
パンには切り込みが入れてあって、野菜や肉をスライスしたものが挟まれている。私が渡したものとは思えない。
「お待たせ!さ、めしあがれ」
「おいしそう!いただきまーす!」
『……もう俺は何も言わん』
『アハハッ!確かに匂いだけしか味わえないのはキツいですが、ワタシたちはぬいぐるみですからねー』
一口かじるとパンの甘みと肉の塩味がちょうどいい感じで口の中に広がる。少し塩が強い気もしたが、問題はない。顔をほころばせているとリンダさんが外に出ていった。
しかしすぐに戻ってきて私の前に座るとパンを口に運ぶ。それを飲み込むと口を開いた。
「夫にも渡してきたの。
それにしてもあなた、本当においしそうに食べるわね。作りがいがあるわ」
「とってもおいしいので!ごちそうさまでした!」
「は~い」
あっという間に平らげてしまった私をリンダさんは嬉しそうに見ていた。
「じゃあ私行きますね。ありがとうございました!」
「どういたしまして。私たちも楽しかったわ。
そうそう、あなたが向かう山はね、「竜の山」って呼ばれているの。気をつけてね」
「「竜の山」?ホワイトドラゴンが住んでいたからですか?」
「それもあるけど、ワイバーンっていう魔物の巣になってるの。とても危険だから本当に気をつけてね」
「わかりました。ありがとうございます!」
外に出るとジェイドさんが斧を使って木を割っていた。朝ごはんを食べたばかりのはずなのにもう仕事に取り掛かっている。
タイミングを見計らって声をかけた。
「ジェイドさん、お世話になりました!」
「ああ、もう行くのかい?気をつけるんだよ」
「はい!」
リンダさんの達の宿屋から山までは街道が通っていたので迷うことなく辿り着くことができた。
しかし風景が一変して緑が一切なく、ゴツゴツとした岩と砂利道になり、なんだかブキミだ。周囲を見回しながら慎重に進む。
『なんか嫌な空気ですねー』
「洞窟よりも怖いかも」
『山だからな』
それに所々に握りこぶしほどの石が転がっていて歩きづらい。
ふと空を見上げると黒い鳥のような生き物がグルグル回っている。ラディウスたちに尋ねることにした。
「ねぇ、あれ何?」
『のんきなこと言ってんじゃねぇ!今すぐ物陰に隠れろ!』
「え」
『ラディウスさんに同意です!シーラちゃん、急いで!』
2人から追い立てられて近くの岩陰に隠れる。
よくわからないがこの2人がこれだけ焦っているということは危険な生き物なのだろう。
「あの生き物って危ないの?」
『箱入り娘が!
あれがワイバーンだ!遠かったから見えなかっただろうが、鋭い牙や爪を持ってる。
獰猛で相手が誰だろうと襲ってくるぞ』
『ドラゴンと言う人間もいるみたいですよー』
「え、じゃあラディウスと一緒?」
「そうたが!今はそんなこと話してる場合じゃねぇ!
アイツに気づかれてねぇだろうな⁉」
少しだけ顔を出して上を見ると、ワイバーンの位置が地面に近くなっていて頭が下を向いていた。
なんとなくこっちを見ている気がする。
「バレてるかも……」
『あれまー、どうしましょう。ワイバーンってしつこかった気がしますが』
『どうするもなにも様子見るしかねぇだろ。真っ向から勝負しても勝てねぇよ』
「ダガー使ってもダメかな?」
革袋から取り出して見せるとラディウスとテネルは小さくため息をついた。
自分でもいい案だと思っていたので少しガッカリする。
『うーん、シーラちゃんが使い慣れているのなら勝てるかもしれませんが』
『ムリだな。ここ来て買ったんだぞ』
「じゃあ我慢して待つしかありませんねー」
「わかった、そうするね」
2人の意見を聞くことにした。ワイバーンはしばらくの間空中で翼を羽ばたかせていたが、
諦めたのかどこかへ飛び去っていってしまう。
「行っちゃったよ。もう出ても大丈夫だよね?」
『シーラちゃん、慎重に動いてくださいね。戻ってくる可能性もありますから』
今気づいたのだが、テネルの声が少し震えている。スライムの王でもワイバーンは怖いみたいだ。
ラディウスも気づいたようで指摘した。
『スライム、声が震えてるぞ』
『そりゃワタシだって怖いものはありますよ⁉と、いうよりドラゴンですよ⁉怖がらない方が珍しいですって!』
『俺は怖くねぇぞ。まぁ、同じ種族だからかもしれんがな』
「そういえばラディウスの故郷ってここで合ってるの?
岩場はあるみたいだけど」
『…………ここだ』
「本当⁉よかった!どこに置いたらいい?」
ルンルンでラディウスを降ろそうと手を伸ばすと避けられてしまった。
思いもしなかった行動をとられて固まる。
『あのな、俺にも決まった寝床があったんだ。
そこまで連れてってもらえるか?』
「いいけど、どこ?」
『ホワイトドラゴンの住処の近く』
「なんでそんな所に住んでたの⁉」
迫るように尋ねるとラディウスはボンボン飛び跳ねた。
少し怒っているみたいだ。
『アイツの食べ残しを狙ってたんだよ!メシ探すの面倒だったからな!』
「だからってそこに住むの⁉ホワイトドラゴンって、縄張り意識?が強かったんだよね?」
『当然アイツの留守狙いだ!真正面から挑むわけねぇだろ!!』
なぜかラディウスがムキになっている。住処である山にいるからだろうか。もしかしたらさっきのワイバーンを見て何か思うことがあったのかもしれない。
『じゃーラディウスさん、そこまで案内できますよね?』
『それぐらいしてやるよ!ひとまずホワイトドラゴンの住処まで行くからな!』
「なんで?」
『なんでですか?』
私とテネルから同時に尋ねられてラディウスは少し固まったが、いつもより高く飛び跳ねると怒ったように低声で話しだした。
『記憶が曖昧なんだよ!ホワイトドラゴンの住処に行けば
方角がわかるからな!』
『あー、方向音痴なんですね』
『方向音痴じゃねぇ!ここが複雑なだけなんだよ!』
確かに分かれ道も多いし、ラディウスは方向音痴ではないと思う。
またワイバーンに見つからないようにラディウスとテネルに空を見てもらいながら素早く移動した。
進むにつれて急な坂道が多くなり、何度も休憩しながら進む。やがて高い岩に囲まれた広い場所に出たが、行き止まりでこれ以上は進めない。
中央に大きな窪みがあるし、ホワイトドラゴンの住処なのだろうか。
「はー疲れた。ここホワイトドラゴンの住処かな?」
『そうだ』
「どこ行ったらいいの?」
『悪い、まだよくわからねぇから1周してくれ』
言われた通りグルリと1周してみると端の方の岩陰に隠すようにして巨大な氷塊があった。
立ち止まって目を凝らしてみたが、表面は白く中までは見えない。
「こんな所に氷?なんで?」
『ずいぶん大っきいですねー』
首を傾げる。リル村の村長さんは何もないと言っていたはずだ。嘘をつかれたのだろうか。
氷は息をのむほど美しいのだが、やっぱり不思議な点がある。
「それにあまり溶けてないね。凍ってから時間が経ってないのかな?」
『シーラちゃん、コレは――』
すると突然ラディウスの体が光に包まれて、玉のようなものが飛び出した。
白いぬいぐるみが抜け殻のように私の肩から落ちて地面に転がる。
「え?ラディウス?」
『やっと……やっとだ……』
戸惑っている間に、玉のようなものは氷塊に吸い込まれていった。




