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第17話 リル村とホワイトドラゴン

 テネルのおかげで無事にリル村に着いた。とてものどかで自然が多く、アンゼータやノレトスとは空気が全く違う。

道は土で整備されていため街道よりも歩きにくい。

何人か畑で仕事をしているようだがおじいさんおばあさんの姿が目立ち、若者は少ない。


 「自然が多い村だね」


 『ですねー。空気が澄んでいておいしいです』


 『だが、豊かとは言えなさそうだな。家を見てみろよ』


 ラディウスの言葉に従って注意近くの家を深く見てみると外壁のあちこちに木材が打ちつけられていた。建て替える余裕がないみたいだ。

 もし実家で雨漏りが起こったら板ごと取り替えていたため、少しかわいそうだと思ってしまった。


 「って、それどころじゃないや。ドラゴンについて聞かなきゃ!」 


 『なるほどー。シーラちゃんの目的はドラゴンのお話を聞くことなんですね』


 「うん。ドラゴン好きだから」

 

 キョロキョロと周囲を見回すと井戸でおじいさんが水を組んでいた。目的が終わって帰られたら大変なので走っていって声をかける。


 「こ、こんにちは」


 「おお、こんにちは。こんな村に観光かい?」


 「えっと、この村がホワイトドラゴンと関係があるって聞いてきたんですけど……」


 「ああ、そのことなら村長が詳しいよ。あそこの小高い丘に1軒家があるだろう?そこが村長の家だから行ってみるといい」


 「ありがとうございます!」


 お礼を言ってさっそくその場所に向かう。木のドアを軽くノックして中を覗いてみる。


 「すみませーん、村長さんはいらっしゃいますか?」


 「私がそうだが……何か?」


 テーブルに座って書き物をしていた茶髪の男の人が振り返った。鼻と口の間にヒゲは生えているものの、想像していたよりも若くて少しビックリする。


 「えっと、ホワイトドラゴンに詳しいって伺ったんですけど」


 「君もか。……こちらへ来て座りなさい」


 『なんか感じ悪いな』


 『ラディウスさん気が合いますねー。ワタシもそうなんですよー。

 シーラちゃん、少し警戒しておいた方がいいかもです』


 促されるままイスに腰かける。

 初対面の人を疑いたくはないが、ラディウスとテネルの言うことも無視できないので少しだけ警戒しておくことにした。


 「それで、ホワイトドラゴンの何について聞きたいんだい?」


 「全部です!」


 「ぜ、全部⁉」


 『わー、ストレートですねー』


 村長さんはビックリすぎてイスから転げ落ちそうになった。そうは言われても聞きたいものは聞きたい。


 「そ、そうかね。話の前に1つ教えてほしい。君はホワイトドラゴンをどこで知ったんだね?」


 「知った、というよりは好きなお話があるんです。『ドラゴニアメモリーズ』っていう。

まさか実在してるとは思ってなかったのでビックリしてます」


 「その物語は私も知っているよ。本当かどうかはわからないが、実話を元にしたとも言われていてね」


 「実話……」


 「ただの噂だよ。それにもし本当なら、ホワイトドラゴンが人間に害を与えるはずがないからね」


 村長さんは一息つくと私をまっすぐ見つめる。

真剣な表情に思わず唾をのみ込んだ。


 「さて、本題に入ろうか。ホワイトドラゴンはそれは恐ろしくてな」


 「そんなに凶暴だったんですか?」


 「いいや。積極的に人間を襲ってはいなかった。

それに私の祖父の頃から存在していたみたいだが、村が被害にあった回数は少ないと聞いている。

 ただ、縄張り意識が強くて住処に近づいた者は2度と帰っては来なかった。そして近づいた者がいた翌日、見せしめに村の畑を全部ダメにして帰っていったんだ」


 「住処に近づかないようには言っていたんですよね?」


 「もちろんさ。だが、好奇心の強い若者やよそ者はこっそり近づいてしまってね。畑を何回もやられたよ」


 当然かもしれないが『ドラゴニアメモリーズ』とは内容が違うみたいだ。お話の中のホワイトドラゴンは畑を荒らすなんてことはしていない。少しガッカリした。


 「じゃあ畑を守るためにドラゴンの討伐を……」


 「ああ、そうだ。いつ畑がやられるかもしれないという不安と恐怖に怯えるのは嫌だったからね。

この村だけじゃ討伐は厳しいから他の国に力を貸してもらったよ」


 「ドラゴンは強かったんですよね?」


 「そりゃあもう。私も見届人として同行させてもらったが凄まじかったよ。隊を組んで行ったんだが負傷者が何人も出てね。

だけどドラゴンスレイヤーって人たちが立ち回って討伐してくれたんだ。名前をお伺いしたのに目立つのは嫌いだからって誰も教えてくれなかったけれど」


 アンゼータで会った元・ドラゴンスレイヤーの男の人の姿が頭をよぎる。

しかし討伐したのは複数人だし、彼はホワイトドラゴンが死んでいることを知らなかったみたいなので無関係だと思う。


 「なるほど。

 住処ってここから近いですか?」


 「少し遠い。ホワイトドラゴンはずっと南の山に住んでいたんだ。でも行っても何もないよ。

それに魔物も出るから行くのはやめておいた方がいいだろう。どうしても行きたいというのなら止めはしないがね」

 

 「わかりました!ありがとうございます!」


 そう言ってから1つ引っかかった言葉があったのを思い出した。また忘れないうちに尋ねることにする。


 「そういえば最初の方に「君も」って、おっしゃっていましたけど」


 「この大陸でホワイトドラゴンは有名みたいでね、訪ねてくる人が増えたんだ。実物はすでにいないのに、話を聞きたいだとか住処に行きたいだとか」


 『まんまお前じゃねぇか』

  

 ラディウスの鋭いツッコミに苦笑いしかできない。誤魔化すように立ち上がると村長さんに笑いかける。


 「わたし、そろそろ行きますね。お話、ありがとうございました」


 「少しでも君の為になったのならよかったよ。

 そうだ、余計なお世話かもしれないが、空き家でよければ少し休んでいったらどうだね?」


 「え、いいんですか?ありがとうございます!」


 「親切な人ですねー。疑って悪かったです」


 村長さんが案内してくれた家は入り口付近にあった。いろいろ不安はあるが、せっかく休ませてもらえるのに文句は言えない。


 「年中明るいし大丈夫だとは思うが、念のためカギを掛けておいた方がいい。何があるかわからないからね」


 「はい」


 村長さんにお礼を言ってから受け取ったカギで家の中に入る。前に誰かが泊まってからそんなに日は経っていないようで、床や窓は綺麗に掃除されていた。

所々に白い花が置かれていて甘い香りを出しており、息をするたびに体の中に入ってきて心地よくなってくる。


 「いい匂い~。気持ちもホッコリしてくるね」


 『ですねー。なんだか眠くなってきちゃいました……』


 「んー、たしかに……」


 今までの疲れからか睡魔が襲ってきて、抵抗できずにベッドに倒れ込んだ。







 その頃、村長はシーラに案内した家を眺めながら深いため息をついていた。 


 「ホワイトドラゴン……力尽きてもなお、まだその有名さから訪ねに来る者が多い。

 それにしても今日の子は困ったよ。あそこまで目を輝かせながら話した子は初めてだ。

あの様子だと住処に行く気みたいだが、魔物の怖さを知らないのかね」


 振り返り、いつの間にかテーブルに腰掛けていた2人組の男に声をかける。


 「と、いうことだ。またいつも通り頼まれてくれるか?」


 「ヘーイ。今回のヤツは金持ってそうだな。まだ若いし1人だし絶好の獲物だ」


 「村長さんよ、何してもいいんだったよなぁ?」


 ブキミに笑う男たちを見て村長はゆっくりと頷くと、服のポケットからカギを取り出して片方の男に渡す。スペアキーのようだ。


 「ああ。くれぐれもバレるんじゃないぞ」


 「今までバレてないんだから今回もバレねぇさ。

ヘへッ、分け前が楽しみだなぁ」


 「しかしうまいこと考えたな、村長さんよ。

 ホワイトドラゴン見たさに訪れたよそ者を睡眠作用のある花の香りを充満させた空き家で休ませる。

眠っている間に近くの洞窟に運び、金を持ってそうなヤツは目を覚ましたら素性を吐かせて強奪。そうでないヤツは強奪して始末する。

後日奪ったものを売りさばいてアンタと分け合う」


 「素性を吐かせた金持ちの家に身代金を要求。

少しずつ装飾品と交換して、最後は――」


 興奮してイスが立ち上がった男を村長が眉間にシワを寄せて制止する。

我に返った男はスゴスゴとイスに座り直した。


 「声が大きくなってきている。お前たちは隠伏者(いんぷくしゃ)なのだからな」


 「すいやせんでした。

じゃあ、6つ目の鐘以降に」


 2人組は立ち上がると慎重に家を出ていった。

村長は再びため息をつくと自分専用のテーブルに向かう。


 「……この村も衰退してきているからな。仕方のないことなのだ……」

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